Business Insider Japan編集部作成
「EV3兄弟」。中国EV業界で最近よく出てくるワードだ。上海蔚来汽車(NIO)、理想汽車、小鵬汽車の3社を指し、2014~2015年に創業し、2020年に成長軌道に乗った点が共通している。
第一次EVブームに設立された「新興EV」勢には、他にもバイドゥとの関係が強い威馬汽車(WM Motor)、2021年中の上場を目指す哪吒汽車(Neta)もあるが、NIOに続き、理想汽車、小鵬汽車が上場したことで頭一つ抜け出し、また、3社の創業者が親しいことから、「BAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)」のように“グループ化”された。
テスラ追う夢を共有する同士
(出所)中国乗用車市場信息聯席会のデータを集計
NIO、理想汽車の創業者は2000年代前半に自動車情報サイトを設立し、テスラの動向を追い続けてきた。モデルSが2014年に中国で発売されたことと、2人の創業は無関係ではない。また、アリババ幹部だった小鵬汽車の創業者も、テスラのイーロン・マスクCEOのスピーチを聞いて、EV業界への関心を強めたと言われている。
3人は中国EV業界ではライバルだが、「テスラを追う」夢を共有する同志でもある。
左から何小鵬氏、李斌氏、李想氏。
何小鵬CEOのウェイボより
小鵬汽車の何小鵬CEOは2020年6月、3人が肩を組む写真とともに、三国志の登場人物である張飛、関羽、劉備が呂布と戦う「三英戦呂布」のイラストをSNSウェイボに投稿した。イラストに説明はなかったが、圧倒的な武力を持つ呂布が「テスラ」、呂布に向かっていく張飛、関羽、劉備が中国EV3兄弟を指すと話題になった。
そこで今回は、3社の概要やテスラとの関係をまとめる。
創業者/李斌(Li Bin)CEO
1974年生まれ
・北京大学で社会学を専攻。在学中の1996年にインターネットベンチャーを起業。ITバブルの2000年に自動車情報サイト「易車(bitauto)」を創業(2010年NY上場、2020年上場廃止)。
・ネット黎明期の代表的なIT起業家の1人で、自動車の普及にも多大な貢献。
発売車種(量産車のみ)
2018年:ES8(SUV、7人乗り、航続距離500キロ、46.8万元)
2019年:ES6(SUV、5人乗り、航続距離610キロ、35.8万元~)
2020年:EC6(SUV、5人乗り、航続距離615キロ、36.8万元~)
※ポジショニングは日本円で500~700万円の高級EV。
「高級ブランドがローエンドに延伸するのは簡単だが、その逆は難しい」(李斌CEO)
NIOが2022年に納車を予定している高級EVセダン「ET7」。
REUTERS/Aly Song
メガITとの関係
・IT業界からEVに転身した先駆者として、創業時にシャオミ(Xiaomi)の雷軍CEOやJD.com(京東集団)の劉強東CEOの支援を受ける。
・テンセントが第二株主(2020年7月時点で16.3%保有、筆頭株主は李CEO)
イーロン・マスク氏との関係
2021年4月、生産10万台達成をウェイボの投稿で祝福される。
最近の動き
・一度の充電で1000キロ以上走行できる次世代電池「固体電池」を2022年第4四半期に実用化すると発表。
・ノルウェー市場進出を表明。2021年9月に「ES8」納車を開始する予定で、NIOにとって初の海外展開。
創業者/李想(Li Xiang)CEO
1981年生まれ
・「80後」起業家の代表的人物。
・高校在学中からネット業界で稼ぐ。IT業界に珍しい高卒起業家。
・自動車情報サイト「汽車之家」を2005年に設立(2013年にNY上場)。
・NIOの創業メンバーにも参画。
発売車種
2019年:理想ONE(SUV、6~7人乗り、航続距離約750キロ、32.8万元~)
2022年に2車種目を計画。
※純EVの開発を目指していたが、技術・資金面の制約に加え、航続距離を優先し、PHV(プラグインハイブリッド)に切り替え。
理想汽車は2019年、初の量産車「理想one」の納車にこぎつけた。
REUTERS/Jason Lee
メガITとの関係
・2019年に出前アプリ最大手「美団」の創業者、王興氏が3億ドル出資。同時期にバイトダンスも3000万ドル出資し、経営危機を切り抜ける。2020年夏のIPO前後に美団が出資し、王氏の保有分と合わせて筆頭株主に。
イーロン・マスクとの関係
2014年にテスラSの中国で発売したとき、最初のユーザーとしてイーロン・マスクCEOから鍵を手渡される。
創業者/何小鵬(He Xiaopeng)CEO
1977年生まれ
・華南理工大学でコンピューターを専攻。IT企業に就職。
・2004年にウェブブラウザ「UC」事業で起業、2014年にM&A案件としては過去最高額の40億元(約640億円)でアリババに買収され、自身もアリババ幹部になる。
・EVに専念するため2017年にアリババを退社。
発売車種
2018年:小鵬G3(SUV、5人乗り、航続距離350キロ、14.68万元~)
2020年:P7(セダン、5人乗り、航続距離706キロ、22.99万元~)
※創業時から自動運転やAIの搭載に積極的で、3社の中では最もテック重視とみなされている。
小鵬汽車の「P7」はテスラのモデル3と価格が近く、正面から競合している。
REUTERS/Mike Segar
メガITとの関係
・UC時代にKingsoft (金山軟件)の総裁で、後にシャオミを創業した雷軍氏から出資を受けたのを機に付き合いが始まり、小鵬汽車創業後も複数回出資を受ける。
・アリババとも関係が深く、同社傘下企業が小鵬汽車の第二株主。
イーロン・マスクとの関係
2019年、元テスラ社員の曹光植氏が自動運転システムの画像センシング技術開発責任者として小鵬汽車に転職したことから、テスラが企業秘密を盗んだとして曹氏を提訴。マスク氏も度々Twitterで、「小鵬汽車はテスラの自動運転技術を盗んだ」と投稿。訴訟は2020年に和解。
最近の動き
・P7に自動運転システム「XPILOT」を搭載。2021年から高速道路の自動運転をサポート。
・2021年9月末にデリバリー開始予定の第3号モデルに、レーザー光を用いた3次元センサー「LiDAR(ライダー)」を搭載すると発表。
3社は2020年後半から販売を伸ばし、2021年に入ってさらに勢いを増している。とはいえ、自動車業界全体で見れば3社の中で最も先行するNIOが累計生産10万台を達成したばかりで、テスラの背中は依然として遠い。
そして背後にはバイドゥや鴻海精密工業など、自動運転や大量生産でノウハウを持つメガITが現れた。小鵬汽車の何CEOは「(メガITが)0から1をつくっている間に、当社は1から100に拡大できる」と語るが、中国市場における先行者利益をどこまで維持できるのか注目される。
次回は「つくるかつくらないか、『造車』をめぐって割れるメガITの判断、その理由」。
浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。最新刊「新型コロナ VS 中国14億人」。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。