「なぜ映画館がだめなのか」『いのちの停車場』成島監督が語った苦しい現状

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映画館・丸の内TOEI。『いのちの停車場』のポスターが掲示されているが、休業している。

撮影:横山耕太郎

長引く緊急事態宣言で苦境に立たされている映画業界。

2021年5月21日に全国で上映が始まった映画『いのちの停車場』も、上映予定だった映画館の休業見舞われている。

当初、全国378館で公開が決まっていたが、緊急事態宣言の影響で東京の34館、大阪の18館は休業。緊急事態宣言の対象地域では、人手の多い休日に限り休業する映画館もあるため、休日の上映館はさらに絞られ299館になっている(2021年5月21日現在)。

「映画は心の栄養で、不要不急ではない」 —— 。そう話すのは、『いのちの停車場』でメガホンを取った成島出監督だ。

成島出氏は『八日目の蝉』で日本アカデミー・最優秀監督賞をするなど、数々の作品を世に送り出し、一線で活躍する映画監督。Business Insider Japanの取材に応じた成島監督に、東京の映画館の多くで最新作が上映されない中での公開について、今の思いを聞いた。

成島出…山梨県出身。2003年に『油断大敵』で監督デビュー。『八日目の蝉』(2012年)が第35回日本アカデミー賞で最優秀作品賞、最優秀監督賞など10部門を受賞。『ふしぎな岬の物語』(2015年)でモントリオール世界映画祭の審査員特別賞グランプリを受賞。他の監督作は『孤高のメス』(2010年)、『ソロモンの偽証』(2015年)、『グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~』(2020年)など。

東京では映画館の休業続く

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2021年5月22日、全国公開日の翌日、東京で開かれた舞台あいさるでステージに集結した出演者ら。

撮影:横山耕太郎

「なぜ映画館を閉めないといけないのか、その根拠が分からず本当に残念に思っている。そもそも映画館は、換気が法律で義務付けられていて安全とされている。休業要請をするなら、きちんと根拠を示して説明してほしい」

緊急事態宣言により、映画館の休館が相次ぐ現状に対し成島氏はそう話す。

4月25日に発令された3度目の緊急事態宣言で、東京都では床面積が1000平方メートルを超える映画館には休業を要請。劇場や演芸場などは、無観客での上演が要請されていた。

しかし、5月12日に宣言が延長された後は、劇場やイベント開催については緩和。収容率50%などの条件を満たせば、開催が可能になった一方、映画館に対しては依然として休業要請が続いている。

こうした現状を受け、主演を務めた俳優・吉永小百合さんも、5月22日の舞台あいさつで次のように話した。

「緊急事態宣言が延長になって、映画は休業要請が出てしまった。演劇は大丈夫だけど、映画はだめとうかがって大変ショックを受け、悲しかったです。くじけそうになりました」

「映画は心の栄養」

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全国に中継された舞台あいさつを終え、取材に応じた成島氏。

撮影:横山耕太郎

「ご飯を食べるのと同じで、映画は心の栄養として必要なんです。それが不要不急と言われてしまった。戦後の日本の復興の時だって、音楽や映画があった。美空ひばりさんの歌がなかったら、日本の復興は別のものになっていたはず」

成島氏は「コロナの今だからこそ、映画館でこの作品を見てほしい」と話す。

「笑福亭鶴瓶さんが映画を見てくれて、『これはほんまに今見るべき映画やね。今の時期の上映は運命だね』って言ってくださった。昔も今も、映画は世相を反映するもの。コロナ禍でこそ、観客の救いになりたいというのが我々の願いです」

コロナで書き換えたラスト

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吉永小百合さんらが在宅医療を担う医師を演じた映画のワンシーン。

©2021「いのちの停車場」製作委員会

『いのちの停車場』は、吉永小百合さんが演じる女医が在宅医療の現場でそれぞれの命と向き合う作品。原作のラストでは、病を抱えた父親に『安楽死させてほしい』と頼まれ、葛藤する姿が描かれる。

作品のラストについて成島監督は、「コロナを受けて脚本を書き直した」と話す。

「最初に映画化を企画した時点では、優しい役を演じることが多い吉永さんが、父親殺しを頼まれるという、センセーショナルな内容を映画化したいと考えていた。でも、コロナ後の世界は、我々が作ろうとしていたフィクションよりはるかに衝撃的になってしまった」

映画が撮影されたのは2020年9月~10月。ニュースでは連日、コロナによる死者数が報じられ、「死が身近になった今、作るべき映画は何だろうか」と考えたという。

「コロナに感染した家族を見舞いにも行けない、遺骨だけが宅配便のように帰ってくる。そういう世界が日常になった。安楽死というセンセーションで勝負するのではなく、見た人が一緒に悩み、考える内容にしたかった」

撮影が始める直前まで脚本を練り、原作小説とは異なるラストを完成させた。

「悩みぬいた結果がこの映画の結末ですが、あれで正解なのかは正直わかりません。今は観客をリードしてくれるような映画に、観客も慣れつつあります。でも、この映画はそうじゃなくて、それぞれが命について考えるラストになった」

暗闇が持つ魔力

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舞台あいさつで松坂桃李さんは「延期せずに上映することに多いな意味があると思っている」と話した。

撮影:横山耕太郎

コロナによって苦境が続く映画業界だが、一方で2020年は映画館が根強い存在感を示した年でもあった。

2020年10月に公開されたアニメ映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が大ヒット。上映開始からこれまでに約400億円という歴代1位の興行収入を上げ、業界が活気づいた。

「今は半年待てばネット配信で映画が見られる時代。それでも中学生も高校生も、安くない金額を払って映画館に行く。映画を作っている私が言うのも変だが、劇場の持つ力、暗闇の持つ魔力はすごい」(成島氏)

一方で、映画館を取り巻く状況は、全く見通せない状況が続く。

5月23日からは緊急事態宣言の対象に沖縄県が追加された。東京都などを対象としていた緊急事態宣言は、2度目の延長も視野に入ってきた。

「1970年代にビデオが出てきたとき、日本映画は苦しい時代で『もう映画はなくなるんじゃないか』とみんな言っていた。それでも生き残ってきた歴史がある。

コロナという誰も予想していなかった事態でも、ネット配信が普及したとしても、映画館はなくならない。そして、そんな今だからこそ、全国の映画館で映画が観られるようになってほしい」(成島氏)

(文・横山耕太郎

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