アジア系ヘイト呼び起こしたコロナとトランプ政権。高まる米国での存在感への反発

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Mario Tama / Getty Images

5月20日、バイデン大統領は「新型コロナウイルス感染症ヘイトクライム法」に署名した。この法によって、連邦・州・地方政府司法機関に申告されたヘイトクライム(憎悪犯罪)を速やかに検討する担当者が司法省に指名される。地方政府や各州の警察がヘイトクライム通報窓口を複数の言語で提供すること、連邦政府が指針を作り公教育キャンペーンを推進することなども含まれている。

背景には、2020年以来アジア系を狙った犯罪の増加があるが、アジア系への差別や偏見自体は新しい話ではない。さまざまな要因が重なって、長い間放置されてきたことが今激化しているという気がする。

アジア系は黒人と違って奴隷にされたこともなく、警察からの暴力の犠牲者になることも少なかった。でも、長年アメリカに住んでいるアジア人の1人として、コロナ前からアメリカにはアジア系に対する偏見や差別はあると感じている。これは、アメリカだけではないと思う。

いきなり街中で殴られる事件相次ぐ

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アジア系女性6人を含む8人が亡くなった銃撃事件では、バイデン大統領も現地を訪れ、ヘイトクライムに毅然と対応することを表明した。

REUTERS/Shannon Stapleton

アジア系を狙った犯罪や差別の言動は新型コロナウイルスの感染拡大が始まった2020年初頭から話題になり始めたが、特に今年になって目立っている。

私の住んでいるニューヨークでも2月以降、より頻繁にアジア系が被害を受ける事件を耳にするようになった。ワクチン接種が普及し、人々が外出し始め、接触の機会が増えたこともあると思う。地下鉄や道で唾を吐きかけられた、「Go back to China」と言われたなどという話は身近に聞く。この「中国に帰れ」という言葉からも分かる通り、多くのアメリカ人にとっては、日本人であれベトナム人であれ、みんな自動的に「アジア人=中国人」なのだ。

全米で注目を集めた事件の例をいくつかあげてみよう:

  • 海野さん襲撃事件 2020年9月27日、ニューヨークに住むジャズ・ピアニストの海野雅威さんが、地下鉄の駅で8人ほどの若者に暴行を受け、右鎖骨骨折や頭部打撲などの重傷を負った。CNN、ニューヨーク・タイムズなど多くの大手メディアに取り上げられた。
  • 2021年2月25日、ワシントン州シアトルで、日本人女性、那須紀子さんが、パートナーの男性(彼はアジア系ではない)と道を歩いていたところ、見知らぬ男から石の入った靴下で顔面を強打された。那須さんは当初、暴行とヘイトクライムを結びつけていなかったが、防犯カメラの映像を見た後、ヘイトクライムだと確信したという。容疑者が近くにいた恋人を避けて、彼女を襲ったからだ。
  • 3月16日、ジョージア州アトランタで、21歳の男がマッサージ店を襲撃し、8人を殺害。うち6人がアジア人女性だった。容疑者は自身が性依存症で、誘惑を断つため、性的なサービスを提供する店を襲撃したと述べ、ヘイトクライムを否定した。
  • アトランタの事件の翌日、3月17日、サンフランシスコで、76歳の中国系女性が白人男性に突然、顔面を殴打された。彼女は棒を持って犯人を追いかけ、その映像がSNSで拡散された。
  • 3月29日、ニューヨークで、65歳のフィリピン系女性が路上でいきなり蹴られ、頭を踏みつけられた。男は「You don't belong here!」(お前はここの人間じゃない!)と怒鳴った。犯行を捉えた防犯カメラの映像が拡散し、容疑者は2日後に逮捕。現場にいたのに助けなかったドアマンは解雇された。
  • 5月2日、ニューヨークのタイムズ・スクエア付近でアジア系女性2人が見知らぬ女に襲われ、負傷。女は2人に「マスクを取れ!」と要求した上、ハンマーで複数回襲い掛かった。
  • 5月8日、サンフランシスコ中心街の停留所でバスを待っていたアジア系の80代と60代の女性が、55歳の男に襲われた。加害者は、軍用のナイフと見られる凶器で女性たちを躊躇なく切りつけている。

このうち特にアトランタの銃撃事件は、アジア系へのヘイトの深刻さを政治リーダーたちに思い知らせた。バイデン大統領は事件3日後に、現地を訪ねてアジア系指導者らと面談し、「沈黙は加担であり、われわれは加担することはできない」と述べた。3月末には、コロナ対策予算から、アジア系の性犯罪被害者対策に4950万ドル(約53億円)を充てることが発表された。

前政権で容認された人種差別とコロナの影響

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