急拡大を続けるストリーミング動画配信業界の勝者は誰か。
契約者数の伸びだけを見ると、先行しているのは明らかにDisney+(ディズニープラス)だ。ストリーミング業界に参入して間もないが、過去12カ月で契約者数を2倍以上に増やし、1億400万人に達した。
しかし、契約者数の伸びだけを指標とすべきではない。
独自の戦略やビジネスモデルをもってストリーミング配信に参入するメディア企業が増えるなか、投資家は各社の長期的な成長性を評価するうえでどの指標を用いるべきか模索している。
考えられる指標としては、契約者数の伸び、契約者1人当たりの平均売上金額(ARPU)、解約率。売上・利益の伸びやフリーキャッシュフローといった財務指標もある。
そこでInsiderは、これらの指標を使って各社の業績を概算した。
まず、過去1年間における契約者数の伸びが、各社の売上の伸びにどれだけ寄与したかを月次で推計した。
次に、2020年3月以降の各社契約者増加数に直近の四半期におけるARPUを掛けることで、全体の売上がどの程度増えたかを推計した。
NetflixとDisney+、新規契約者からの売上が多いのはどっち?
それによると、2020年3月以降のNetflix(ネットフリックス)の契約者数の伸びは2500万人であり、Disney+の7000万人を大きく下回った。にもかかわらず、新規契約者から得られた月次売上では、NetflixがDisney+を上回っている。
Netflixが前四半期において有料ユーザーから上げた月間平均売上は11.53ドル(約1153円)。直近のARPUをベースに計算すると、有料ユーザーから上げた合計月間売上は2億8500万ドル(約285億円)となる。
この数字は概算であり、実際のARPUは四半期ごとに変動する。それでもNetflixは、Disney+らライバルとの熾烈な有料ユーザー獲得競争にありながら、ユーザーから大きな売上を上げていることが分かる。
ではDisney+はどうだろう。こちらも、2020年3月以降に新規獲得した7000万人の契約者から上げた売上を、直近のARPUをもとに計算すると、およそ2億8000万ドル(約280億円)となる。
注:2021年第1四半期のARPUと前年比増加契約者数に基づく推計。
出所:各社の届出資料に基づきInsider推計。
2019年11月に配信を開始したDisney+は、契約者1人当たり売上ではNetflixを大きく下回っている。Disney+はまだ成長段階にあり、サービスの価格もNetflixより低く、新規市場も開拓中だ。
もっとも次の図が示すように、Disney+は多数の新規契約者を獲得しており、契約者数の伸びが売上を押し上げている。
出所:各社の届出資料に基づきInsider推計。
ワーナーメディアが2020年5月に開始したHBO/HBO Maxも、アメリカ国内で1年間に1100万人という契約者を獲得した(海外展開は2021年6月から開始)。
Disney+とHBO Maxの契約者1人当たり売上は前年比マイナス
しかし、新規参入組のDisney+とHBO MaxのARPUは1年前よりも下がっている。つまり、契約者獲得のために短期的な売上を犠牲にしたということだ。
4月初旬までの3カ月におけるDisney+のARPUは、前年同期の5.63ドル(約563円)から、3.99ドル(約399円)に低下した。同期間のHBO/HBO Maxの国内ARPUは前年比マイナス0.25ドル(約25円)だ(ホテルなどの事業者向けを除く)。
注:バイアコムの推計はサブスクリプション売上のみに基づく。
出所:各社届出資料に基づきInsider推計。
ただし、この状況は変わりつつあるようだ。ディズニーは最近、アメリカ国内におけるDisney+の料金を引き上げた。HBO Maxは初月から月額15ドル(約1500円)という高い料金設定ではあるものの、広告付きのストリーミング配信を5ドル安い料金で開始した。広告収入でその差を埋めようというものだ。
ディズニーによると、ARPUの低下を招いている原因は、インドで現地企業Hotstarと共同で提供しているDisney+ Hotstarにあるという。ディズニーの経営陣が前四半期に語ったところによれば、Disney+ Hotstarの契約者数はDisney+の契約者数の3分の1を占めるが、そのARPUは前々四半期に比べて下がっている。原因は、クリケット試合のタイミングとコロナの影響による広告収入の低下だ。コロナの影響は今もインドで続いている。
一方、ワーナーメディアの親会社AT&Tは、HBO MaxのARPUに満足している。ジョン・スタンキーCEOは、CNBCによるインタビューの中で「たいへん素晴らしい」成果だと述べている。
契約者1人当たり売上が最も多いのはどこ?
今回分析したストリーミング配信企業の中で最も古株となるNetflixは、2021年第1四半期において、前年同期を0.66ドル(約66円)上回るARPUを実現した。Netflixは最近、アメリカ、カナダ、イギリスなど数カ国で料金を引き上げている。
Paramount+、Showtime、BET+、Nogginなど複数のストリーミング配信サービスを提供しているバイアコムCBSも、同期間のARPUを0.40ドル(約40円)上昇させたと推定される。
バイアコムCBSの契約者数の伸びはDisney+には及ばないものの、各サービスのARPUの推定上昇幅を見るかぎり、バイアコムCBSに利益をもたらしているものと見られる。
バイアコムCBSはストリーミング配信サービスのARPUを開示していないため、開示されている契約者数とサブスクリプション売上をもとにInsiderが推計した(バイアコムCBSの無料ストリーミングサービスPluto TVのユーザー数や、Paramount+を含むストリーミング配信サービスの広告収入は計算から除外している)。
全推計対象の中で、売上寄与度が最も高いのはHuluの契約者だ。サブスクリプションと広告収入を合わせた有料契約者1人当たり売上は月間平均12.08ドル(約1208円)となっている。ARPUは前年から横這いだ。
注:バイアコムの推計はサブスクリプション売上のみに基づくもの。
出所:各社届出資料に基づきInsider推計。
対して、今回の推計対象の中で有料契約者1人当たり売上が最も少なかったのは、ディズニーのもうひとつのストリーミングサービスであるESPN+だ。とはいえ、契約者数は前年比75%増という高い伸びを示し、ARPUも若干ながら上昇しており、ディズニーの収益には貢献している。
ディズニーによると、ARPU上昇の要因のひとつは、UFC総合格闘技試合のペイパービュー視聴の増加とのことだ。
ストリーミング戦争は激化の一途をたどっているが、このようにARPUに加えて、新規契約獲得数や解約率など複数の指標を組み合わせることで、各配信サービスの成長性をより詳細に分析することができる。
(翻訳・住本時久、編集・常盤亜由子)