スノーピーク、広告宣伝費ほぼゼロでも15期連続増収。アップルすら凌駕する粗利率は何を意味するのか?

コロナ禍で大きな打撃を受けた業界といえば、真っ先に思いつくのが外食産業やレジャー関連の企業ではないでしょうか。「ステイホーム」がこれほど長引けば、業績低迷にあえぐ企業が続出するのも無理はないでしょう。

しかしそんななか、アウトドア関連を中核事業としながら、前年比17.6%増・15期連続増収という驚異的な成長を見せている企業があります。アウトドア用品を扱う株式会社スノーピーク(以下、スノーピーク)です。

図表1

(出所)スノーピーク「2020年12月期 決算説明資料および中期経営計画について」(2021年2月17日)より。

売上高だけではありません。利益面においても、営業利益は前年比61.6%増、当期純利益は前年比146.4%増と、目を見張る業績です。

図表2

(出所)スノーピーク「2020年12月期 決算説明資料および中期経営計画について」(2021年2月17日)より。

驚くのはこれだけではありません。実はスノーピークは「マーケティングをしない会社」としても有名です。現会長である山井太氏の過去の著書(※1)やスノーピーク従業員のインタビュー(※2)でも「マーケティングはしない」「広告宣伝費はゼロ」といった発言が目につきますし、実際、過去の有価証券報告書には広告宣伝費の記載がありません。

近年はさすがに広告宣伝費ゼロとはいかないようで、直近の決算説明資料には広告宣伝費が2.7億円計上されているのが確認できます。とはいえ、売上に占める比率で言えばわずか1.6%。かなり少ないことは間違いありません。

実際、これがどれほど低い値なのかは、この連載で過去に取り上げた企業の一例を見ても明らかです。

例えば第34回第35回で取り上げたSlackなどは売上の50%を顧客獲得のための販売とマーケティングにつぎ込んでいますし、メルカリ(連載第6回第10回)やSansan(同第39回)といった成長企業も、基本的には多くの広告宣伝費をかけています。

もちろん業界が違えば広告宣伝費のかけ方も変わりますが、後述するようにアウトドア用品でスノーピークよりも売上高が大きいゴールドウィンでも、売上高に占める広告宣伝費の割合はスノーピークよりも大きいのです(※3、図表3)。

図表3

(出所)メルカリ:2020年6月期有価証券報告書、Sansan:2020年5月期有価証券報告書、ゴールドウィン:2021年3月期決算説明資料、スノーピーク:2020年12月期決算説明資料をもとに筆者作成。

顧客獲得単価と顧客から生涯得られる収入(生涯顧客価値、LTV:Life Time Value(※4))を踏まえ、「生涯顧客価値>広告宣伝費」となるように多額の広告宣伝費をかけて顧客を獲得する——これが、現在のスタートアップ企業のような成長著しい企業の間で主流になっている成長セオリーです。

ところがスノーピークは、こういったセオリーに沿って広告に費用を投じることはしていないのです。では、スノーピークはどうやって顧客を増やしているのでしょうか?

そこで今回は、マーケティング費を多額にかけることなくコロナ禍でも際立った成長を見せるスノーピークの強さの秘密を、会計とファイナンスの視点から分析していくことにしましょう。

金物問屋から国内アウトドアのパイオニアへ

スノーピークは、アウトドア関連商品の国内メーカーとしては業界3位の売上規模を誇ります。

図表4

(出所)mont-bell:上場していないためホームページ記載の2019年度の売上高。ゴールドウィン:2021年3月期決算説明資料に記載の売上高のうちアウトドア関連。スノーピーク:2020年12月期決算資料。なお、ワークマンはアパレルが中心でキャンプ用品の取り扱いがないため、除外している。ゼビオHDはキャンプ用品の小売のため除いている。mont-bellとゴールドウィンについては売上においてアパレルが占める割合も多いため、キャンプ用品の製造が中心のスノーピークとは大きく売上に差が出ている。

今ではアウトドア用品として有名なスノーピークですが、その前身は現社長の山井梨沙氏の祖父・山井幸雄氏が1958年に新潟県三条市で創業した金物問屋です。その後、登山用具などの製造事業にも手を広げていきました。

アウトドア製品事業へと本格進出したのは、幸雄氏の息子である山井太氏(現会長)がスノーピークに入社した1980年代後半ごろのこと。

当時のアウトドア市場では、テントと言えば9800円と1万9800円という低価格帯のほぼニ択しかありませんでした。しかし「もっとしっかりしたテントを」との思いから、太氏は16万8000円もする最高品質のテントの制作・販売を決断。「売れないのでは」という社員の懸念は杞憂に終わり、初年度になんと100張も売ることに成功しました。日本のアウドドア史に、ハイエンドのキャンプ用品市場が産声を上げた瞬間です。

その後スノーピークは、オートキャンプ市場やファミリーキャンプ市場を次々に開拓していきます。

2014年にはマザーズに上場、翌2015年には東証一部上場を果たしました。2020年には太氏の娘である山井梨沙氏が社長に就任。いまや時価総額は約800億円と、パソナホールディングスやWOWOWといった企業と肩を並べる規模にまで成長しました。最近では、アパレル分野にも注力して実績を挙げています。

わずかな広告費でなぜ成長できるのか?

ここで、本稿の冒頭で提起した「スノーピークは広告に多額の費用を投じていないのに、どうやって顧客を増やしているのか?」という疑問に立ち返りましょう。

先ほど私は、次のように述べました。

顧客獲得単価と顧客から生涯得られる収入(生涯顧客価値、LTV)を踏まえた上で、「生涯顧客価値>広告宣伝費」となるように多額の広告宣伝費をかけて顧客を獲得していく——これが、現在のスタートアップ企業のような成長著しい企業の間で主流になっている成長セオリーです。

この連載で過去に扱ったメルカリ、Sansan、そしてSlackなど成長著しいIT企業の多くは、売上のかなりの割合を広告宣伝費に投じることで顧客基盤を広げる努力をしています。

しかしスノーピークは売上高対比で言えばそれほど巨額の広告宣伝費はかけていません。ではどうやって顧客を増やしているのか。

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