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台湾軍兵士がフェイスブックで“極秘情報”をポロリ「米軍進駐で忙しく昼休みもない」常駐なら「一線越える」

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2020年11月、中部台中市内で戦車のメンテナンスを行う台湾陸軍部隊。同年7月には、台中に中国軍が上陸したケースを想定して大規模な軍事演習が行われている。

REUTERS/Ann Wang

アメリカの陸軍顧問団が台湾軍を訓練指導するため、台湾軍の基地に「一時進駐」したことが明らかになった。

さらにその直後、「台湾有事」に備えて、台湾軍の6基地に米海兵隊の「常駐」を求める軍関係者の論考が、台湾国防部シンクタンクの論文集に掲載された。

海兵隊が実際に常駐すれば、(中国側の忍耐の限度を意味する)「レッドライン」を越えたとして、中国が強硬な対応に出るのは確実だ。

台湾をめぐり、米中双方が相手の出方を探る際どい情報・心理戦が続く。

台湾軍兵士の「何気ない」投稿で発覚

米陸軍顧問団の一時進駐を報じたのは、国民党寄りの台湾大手紙「聨合報」(5月16日付)だ。

台北市の西、新竹県・湖口郷にある台湾陸軍合同訓練北部センター(以下、訓練センター)の兵士がFacebookに投稿。米軍兵士が同センターに駐屯しているため、「業務量が増えて昼休みもとれない」と不満を漏らしたのがキッカケだった。

米軍進駐は極秘情報だけに、台湾陸軍司令部は「ノーコメント」。記事を掲載した「聨合報」は、訓練センターの将校の証言から確認したと報じている。

同記事によると、進駐した米陸軍顧問団は「安全保障部隊支援旅団(SFAB)」。目的は、地上作戦における部隊の移動速度、海・空軍との連携などに関する訓練の監察・指導という。

米陸軍には5つのSFABがあり、台湾に進駐したのは「第1」旅団。約600名の兵士で構成されるが、今回派遣された人数は不明。ただし、台湾軍の兵士が不満を漏らしたことから考えると、かなりの数にのぼるのは間違いない。

顧問団は4月に進駐後、コロナ感染防止対策として14日間の隔離期間を経て、活動を開始。すべての行動は訓練センター内に限られ、外出は厳禁とされた。

Facebookへの投稿がなければ、一時駐留が表面化することはなかっただろう。

中国寄りメディアの社説「レッドラインには触れない」

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2020年10月、台湾国防部は会見し、台湾南西沖の空海域で大規模軍事演習を実施した中国を「重大な挑発行為」と非難。

REUTERS/Ben Blanchard

一方、中国寄りとされる台湾紙「旺報」の記事(5月21日付)によれば、「米軍は7月まで滞在し、(同月行われる)台湾軍の定例軍事演習『漢光37』の実弾訓練を検証・監察するかどうかは不明」と書き、米陸軍顧問団が現在も駐留しているかどうかも明らかではない。

同記事は「台湾軍は近年、米軍の提案を受けて「統合部隊」を設立。地域司令部のもとに少なくとも23の統合大隊が編成され、装甲旅団や歩兵旅団がそれぞれの傘下に属している。2020年7月の『漢光』軍事演習ではその実力を発揮した」とする。

「旺報」は、中国系資本が入った「中国時報」グループのメディアで、中台関係を専門とする日刊紙。

記事内容から判断すると、米軍が水面下で台湾軍を指導するなどの軍事協力を行ってきたことを、中国は以前から把握していた可能性が高い。そして、今回の米軍の台湾進駐についても、中国は公式の反応を出していない。

なお、「旺報」は「引き返せない戦争へと進むのか」と題する社説を掲載し、米軍顧問団の進駐はあくまで一時的なもので、その目的も訓練の指導であり、「レッドライン」には触れないだろうと書いている。

全島6基地への米軍駐留を支持する論文

一方、台湾国防部のシンクタンクである国防安全研究院の論文集「国防安全隔週刊」の最新号(5月17日付)は、「台湾有事」に備え、米軍駐留を公然と支持する論文を掲載している。その主張は以下の3点に集約される。

  1. 米海兵隊の台湾6基地への駐留を希望
  2. 米海兵隊の基地間の機動作戦を期待
  3. 対上陸作戦を計画、米海兵隊は台湾と共同して中国軍と戦う

掲載された論文とは、謝沛学氏の「米海兵隊の新作戦モデルと台湾の可能な役割」だ。中国軍による台湾本島への攻撃に備え、米海兵隊や他の海外兵力と共同して上陸を阻止する態勢づくりを提言しており、蔡英文政権の意図をある程度汲んだ主張だろう。

謝氏は、米軍常駐基地の候補として、宜蘭、花蓮、緑島、蘭嶼、小琉球、東沙の6カ所をリストアップ。移動式ミサイル発射台、多弾装ロケット砲、射程500キロの次世代型地対地ミサイル(PrSM)などを配備することで、「台湾本島のシームレスな防衛が可能になる」としている。

宜蘭は、建設凍結が決まった第4原子力発電所のサイトに近い。蘭嶼は既存の3原発からの低レベル放射性廃棄物などが大量に貯蔵されている。また、南シナ海に位置する東沙(島)は、日米の軍事専門家が、中国の離島攻撃の対象になる可能性を指摘している。

「アメリカは台湾を助けない」との論説も

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2021年1月、南部台南の空軍基地にて。台湾初の国産ジェット戦闘機F-CK-1「経国」のメンテナンス中。この翌月には、台湾が実効支配する南シナ海・東沙諸島の近隣で中国が軍事演習を行い、同機が緊急発進している。

REUTERS/Ann Wang

アメリカの台湾との軍事協力は、1979年1月の米中国交正常化にともなう台湾との国交断絶を受け、同年4月に成立した「台湾関係法」に起因する。

同法にもとづき、アメリカは台湾に定期的に兵器を供与してきたほか、2020年からは米軍艦が台湾海峡をくり返し航行、米軍機も台湾領空を飛行するなど、中国へのデモンストレーションと軍事的けん制を強めてきた。

中国側もこの動きを受け、戦闘機や偵察機による台湾中間線越境などの報復措置をとり、2020年9月以降、台湾海峡の緊張は激化している。

謝氏の論文が出たあとに掲載された、前出の「旺報」社説は次のように述べ、海兵隊の常駐は「レッドライン」を踏み越えることを強く示唆した。

「海兵隊を常駐させるという主張が、大陸(中国)の強烈な反応を引き起こすのは必至。台湾は自らを戦争の境地に追い込もうとしている。

もし両岸の武力衝突が起きた場合、米軍は本当に台湾支援のために一肌脱ぐだろうか。残念だが、それは難しい」

2020年11月にも台湾西部の基地で合同訓練

ただし、台湾に米軍を常駐させる主張は、この論文が初めてではない。

米ニューズウィーク誌(9月24日付)によれば、米海兵隊の現役大尉は2020年9月、米陸軍大学の軍事誌「ミリタリーレビュー」で、米軍の台湾駐留を支持する論文を発表。

これに対し、中国共産党機関紙・人民日報系「環球時報」の編集長・胡錫進氏は、ソーシャルアプリ「ウィーチャット(WeChat)」に「米軍が台湾に戻れば、解放軍は中国領土を守るための正義の戦いを始める」と投稿し、台湾への武力行使を示唆した。

また、2020年11月には台湾大手紙「聨合報」(前出)が、米海兵隊特殊作戦部隊と台湾海軍がおよそ1カ月にわたって水陸両用作戦の合同訓練をしたと報道

台湾海軍司令部はこれを「定期的な訓練」としたが、実は、米軍部隊の台湾での活動が公式に明らかにされたのは、米台断交以来初めてだった。

「定期的な訓練」ということは、米台間ではほかにも「机上訓練」や「教育指導」が以前から行われていたことを示唆している。対中関係が緊迫するなか、台湾軍は米台協力を印象づけるためリークしたと考えられる。

中国は米台両軍の水面下での協力や演習情報を把握していたとみられ、今回の訓練センター進駐と同様、このときも中国側の激しい対応はなかった。

軍事的に対立する双方が、相手に手の内をさらけ出すのは「愚の愚」。だから「レッドライン」も秘中の秘であり、「旺報」の社説も警告の域を出ない。

米政権にとっても、海兵隊を台湾に常駐させれば、中国の台湾武力行使への対応を明らかにしない「あいまい戦略」の放棄とみなされかねない。軍事当局者の間では、40年間維持してきたこの戦略を放棄すべきとの声もあがっているが、バイデン政権は応じない方針だ。

米台軍事協力に関する情報がリークされ、米軍駐留を公然と主張する論文が発表される背景には、中国の「レッドライン」を探る狙いや、「あいまい戦略」の有効性への疑念を打ち消す意図が透けて見える。

メディアのヘッドラインには最近、「台湾有事切迫」の言葉が踊るが、米中両国ともに本当の有事は避けたいのが本音だ。台湾をめぐる情報・心理戦はしばらく続くだろう。

(文:岡田充


岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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