変容する消費行動。次の勝ち筋は「ご近所経済圏」にある

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撮影:編集部

「最近、家の近所で良いパン屋さん見つけたんだよね」

「UberEatsの良いお店を知ってリピート買いしてる」

「今、電動自転車や電動バイクが気になってるんだけど……」

あなたにも、そんな体験に心当たりはないだろうか?

半径1キロ程度、物流業界の言うところの「ラストワンマイル」の商圏をめぐるニュースに今、さまざまな動きがある。

今日から掲載する全5本の特集「半径1キロのモビリティ革命」では、コロナ下で注目され始めた「自宅周辺の消費行動・ライフスタイル」の変化を、広義のモビリティを軸に掘り下げていく特集だ。

第1回は、私たちの消費活動をめぐる「気持ちの変化」と、「ラストワンマイル」で成長するビジネスを取り上げる。

ユーザーの消費行動が変化し始めた、その新しい姿とは

今、さまざまな調査で、「自宅周辺の魅力の再発見」や「地域への利他的行動」が言及され始めている。

三井住友カードのデータ戦略部が1月に公表した「コロナ影響下のキャッシュレス 買物行動レポート 第3弾」では、決済データのインサイト分析と、対象者への深掘りインタビュー調査で得られた消費行動変化の仮説として、自分の生活圏内で小規模店に利他的に消費する「ご近所ファンディング」と呼ぶ消費行動が生まれつつあるのではないか、と投げかける。

ご近所ファンディング

出典:三井住友カード/Custella

人の消費行動と、移動距離の変化は、コロナを経てどんな傾向が見えてきたのか? 取材に応じた三井住友カードのデータ戦略部長の白石寛樹氏は、同調査の目的を、

「マクロ(分析)ではあるが、一般的に見られるような、業種別の売り上げとか、デモグラで分けるだけではなく、“生活スタイル”(がどう変わったか)の観点で可視化にチャレンジした」

と説明する。

三井住友カードのデータ戦略部長の白石寛樹氏。

三井住友カード データ戦略部長の白石寛樹氏。

三井住友カードの調査は、データから「職務上の行動」を排除する目的で、あえて休日の消費行動に限定した上で、「家中消費の増減」と「家から目的地への移動距離」に着目して、消費行動を分析した。その分析結果から、匿名化した属性データをベースに、多様化する5つの類型(ペルソナ像)を導き出した。


第二章のまとめ

データ分析で現れた5つの領域をペルソナ化したもの。青い部分の%は調査対象全体に対する比率で、三井住友カードの資料をもとに編集部で追記した。「従来維持型」は6.5%に過ぎず、消費行動の多様化が見て取れる。

出典:三井住友カード/Custella

コロナ禍における消費者の生活スタイル変容の多様性

上で言及した5つのペルソナの根拠となる分析。4象限+中央(変化なし)の5つの特徴的なセグメントの行動パターンからペルソナ像を類型化している。

出典:三井住友カード/Custella

前出の「ご近所ファンディング」は、5つのペルソナ像をさらに掘り下げる目的で、利用者へインタビューするデプス調査(深掘り調査)で浮かび上がった仮説の1つだ。

デプス調査を担当した企業、顧客時間が取りまとめたコメントの中では、以下のような声が上がっていた。

「コロナでベランダの模様替えをした。普段ならオンラインで買い揃えるが、あえて近所のアウトドアショップで。高いけどオフラインで購入した

「ロックダウン時期に、近所の良い店を見つけて、近所(で遊ぶこと)が相対的に増えた。良い古着屋と顔なじみになったり、近所の整体に行くようになったり、“近所での遊び方”を知るようになった

※表現は一部編集しています

白石氏は、

「ご近所ファンディングは、多くの消費者に共通する心理かもしれないが、具体的なアクションは先進的(アーリーアダプター)な人から徐々に始まっている感覚ではないか。データをマクロで見渡したときに、全体傾向として見て取れるほどには、まだ至っていないと思う」

としつつも、「近所の解像度が上がって近場の消費が増えた」という行動の変化は、自身でも体験しており、今後データに表れてくる可能性もある、という。

ご近所のお店に注目する人が増えていることを裏付ける傾向は、Shopify Japanの調査(2020年12月発表)でも出ている。日本の消費者のうち54%が「地域のビジネスから購入することは経済を助けるためにできること」という意見に同意していて、特に若年層の方が、中高年よりも地域重視の傾向が強い(若年層61%:中高年50%)とレポートしている。

一方、個人の行動範囲が変わってきた兆候を示すマクロデータもある。

三井住友カードの分析によると、あるスーパーマーケットチェーンの商圏分析で、その変化がデータとして見えているという。スーパーマーケットは、コロナ下の小売り業界にあっても、強固な商圏を維持し続けている業界の代表格だが、有意な変化として、

「(消費者の行動を分析すると)データ上も”遠方からの来店客”が減り、逆に近所の人の利用はむしろ増加している」

遠くからの来店は、“来るなりの理由”が残っている人になっている」

が見えてきたとする。

当然、変化の度合いは店舗の立地などで濃淡があり、一概には言えない。しかし、「移動の減少と、消費行動のローカル化」、つまり“ローカルで濃密に過ごす傾向”が顕在化した例の1つとは言えるだろう。

“ついで買い”と“巣ごもり”掴んだ「クックパッドマート」

クックパッドマート

ファミリーマートに設置された共同冷蔵庫「マートステーション」の例。このほかココカラファインなどの一部ドラッグストア、一部マンションの共用スペース、鉄道駅への設置も進む。

写真提供:クックパッド

消費行動のローカル化と、ECの盛り上がりという追い風を受けて、2020年に大きく成長した事業もある。

レシピ大手のクックパッドが展開する、生鮮食材の配送サービス「クックパッドマート」だ。

同サービスは、採れたての生鮮食材を、サービス地域各所の共同冷蔵庫「マートステーション」に独自物流で配送し、新鮮で質の高い生鮮を手頃な価格で入手できるのがウリ。現在、東京と神奈川の一部地域でサービス提供している。

クックパッドのJapan CEOを務める福崎康平氏。2019年、29歳でクックパッドにおける日本事業のトップに就任した(2020年撮影)。

クックパッドのJapan CEOを務める福崎康平氏。2019年、29歳でクックパッドにおける日本事業のトップに就任した(2020年撮影)。

撮影:今村拓真

クックパッドの日本事業の総責任者(Japan CEO)を務める福崎康平氏は、Business Insider Japanの取材に対して、

「大前提として、今の規模のビジネスでは全然満足はしていない。もっと成長しなければいけないと思っている」

と前置きした上で、2020年以降の急成長を、

「2020年の3〜6月くらい、最初の緊急事態宣言の後に、ビジネスが大きくスパイク(跳ねる)した。その後も元に戻るようなことがなく、伸び続けてきた」

と振り返った。クックパッドは、マート事業単体の具体的な事業売上高は公表していないが、いくつか成長を類推できる数字には言及した。

例えば、2020年4月には70ほどだったステーション数は、直近5月24日までに501箇所に増えた。同社によると、2020年1月時点と比べて、4カ月で利用者数は約5倍、また2020年の1年間で流通総額が20倍以上に成長したという。

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