OISTは2011年の設立。沖縄県国頭郡恩納村にある。
提供:OIST
沖縄科学技術大学院大学(OIST)と、シード分野へのVCとして知られているBeyond Next Ventures(BNV)は5月25日、沖縄を起点にディープテックスタートアップへの支援を強化、連携を進めていくためのパートナーシップを締結した。
両者は、OIST-BNV イノベーションハブ「OBI-Hub」を立ち上げ、BNVが資金およびスタートアップの創業・拡大に関するハンズオンサポートを提供。OISTからは、キャンパス内にある最先端のインキュベーション設備の提供や、産業界・学術界の専門家へのネットワークなどを提供・支援するとしている。
東大超えのOISTが沖縄でスタートアップ支援
2019年6月に発表された質の高い論文の割合が高い研究機関ランキング。発表当初、OISTの順位は10位だったが、8月に修正されて9位となった。
Nature index2019をもとに編集部が作成。
沖縄科学技術大学院大学は、2011年にできたばかりの私立の大学院大学で、予算の大部分は、沖縄科学技術大学院大学学園法によって定められた内閣府からの補助金でまかなわれている。
既存の大学システムから切り離された潤沢な予算を背景に近年急成長を遂げ、2019年6月にはイギリスのシュプリンガー・ネイチャー社が発表した「質の高い論文の割合が高い研究機関ランキング」で、東京大学の40位を上回る日本トップの9位にも選出。
近年世界的にも注目を集めており、最先端の研究者達が集まっている。
遺伝子制御、発生生物学の研究で知られているOISTのピーター・グルース学長は、
「OSITはトップの教育、トップの研究、トップの技術移転によって沖縄の発展に寄与してきました。今回のプログラムを通して、起業家を沖縄に呼び込むことができると思っています」
と今回の取り組みの意義を語る。
OISTと連携することになったBNVは、2014年8月に設立されて以降、シード領域の投資を中心にこれまで200億円規模のファンドを運営しており、54社への投資実績がある。もともと、OISTが社会実装、技術移転を進めるための連携先を探していた中で、BNVから提案の末に今回の連携に至った。
BNVの伊藤毅代表は今回の取り組みについて「大学とVCがこのような形で連携するケースは初めてではないか」と期待を語る。
プログラムでは、BNVが2年間で総額5億円の投資資金を拠出し、10〜20社のスタートアップあるいは起業前のスタートアップ(プレスタートアップ)に対して支援を実施するとしている。1社あたりの支援金額は一律ではなくケースバイケース、プレスタートアップは法人化が支援条件となるものの、本拠地を沖縄に置かなければならないなどの縛りはない。
OISTからは、金銭的な支援ではなく、同大学院が保有する次世代シーケンサーやクライオ電子顕微鏡をはじめとした各分野での最先端の研究設備を提供することになる。
出典:OIST
加えて、OBI-Hubで支援されるスタートアップは、OISTの教員をはじめとした学術界のネットワークはもちろんのこと、海外の企業、起業家、投資家たちとの連携についてもOISTから支援を受けられる点で、海外進出を考えるスタートアップにとって魅力的だ。
また、海外からの応募にも対応しており、日本進出やアジアへ進出する上でのサポートをしていくことになる。OIST技術開発イノベーションセンターのジュリアンヌ・ルケッティ氏は「沖縄が日本と東南アジアの起業家たちのゲートウェイになることを目指していきます」と語る。
OBI-Hubで支援される条件は、「革新的技術」をもつ情熱あふれる創業者であること。
基本的に分野は限らず、OISTのリソースとBNVの投資戦略に合致するかどうかを考慮した上で、要件に合致する全てのアイディアに対して投資判断を検討するとしている。ただし、特にOISTで注目している分野として、健康、福祉、先端材料、ナノ、量子技術、AI、ML(機械学習)、ロボット、サスティナビリティなどの分野をあげた。
沖縄科学技術大学院大学のピーター・グルース学長。
会見の様子をキャプチャー
OBI-Hubからの支援申し込みは、6月初旬、OISTのウェブポータルを通じて開始される予定だ。申請書が届き次第、順次企業価値などの審査が実施される。
また、OISTのグルース学長は、
「OISTには、引き続き政府から支援を受けられるかという課題があります。だからこそ、OISTは経済的に目に見える形で(沖縄県に)付加価値を与えなければならない。
高い教育を受けた研究者達を沖縄に呼び込むことができれば、それこそまさにOISTが沖縄に与えられる付加価値だと思っています。沖縄では、観光業だけではなく、それ以外の産業をサポートする人材が必要です」
と、沖縄を起点としたディープテック産業の盛り上がりに力を注ぐ理由を語った。
OISTは設立から間もない(一般的に資金がかかる)大学院であるにもかかわらず、財務省から外部資金の少なさや、教員1人あたりのコストが高いことなどが指摘されていた。
今後一定の支援を得ながら成長を継続するためにも、分かりやすい形で「社会への価値提供」を示すことが重要だった側面もある。
一方、OISTでは今後50億円規模のファンドの組成に向けた検討を進めており、グルース学長は、「今回の取り組みをその一歩目としたい」と語った。
(文・三ツ村崇志)