KPI設計の落とし穴とは? 悲劇を避けるためのポイント超解説【後編】

近年、多くの企業で導入が進んでいる「KPIマネジメント」。前回は、KPIマネジメントに取り組むことを決めたA社が、その導入ステップに従っていざ実践に踏み切ったもののつまずいてしまったポイントについて、私がコンサルティングに入りながら軌道修正していく様子をお話ししてきました。

本稿はその後編です。1〜10まであるKPIマネジメントの導入ステップ(下図)のうち、今回フォーカスするのはSTEP5以降です。

KPIマネジメントの10ステップ

A社の取り組み概要

  • 1年前にサブスクリプション(定額課金)のデジタルサービスを立ち上げる
  • 価格メニューは2種類:月額プラン500円、年額プラン5000円
  • 過去1年間は、サービススタート時に定めた売上目標をゴールにしたが未達
  • 前期の売上実績は7000万円。今期の売上目標は1億円

STEP5:目標設定

KPIマネジメントでは、特に次の4つの項目を明確に定める必要があります(詳しくは前々回の記事を参照)。

  • Goal:最終的に到達したいゴール。利益、売上、ユーザー数など。
  • KGI(Key Goal Indicator):Goalを数値目標で表したもの。
  • CSF(Critical Success Factor):ゴール到達のために最も重要となるプロセス。KFS(Key Factor for Success)やKSF(Key Success Factor)とも呼ばれる。
  • KPI(Key Performance Indicator):事業成功の鍵(=CSF)を数値目標で表したもの。

KPIマネジメントの4大登場人物

筆者作成

前回、STEP1〜4まで順を追ってA社と確認していった結果、A社はいきなり「新規の会員獲得を増やす」ことに注力するのではなく、まずは「退会者数を減らす」ことを最優先に考えた方がよいことに気づきました。

「退会者数を減らす」と聞くと、多くの人がついつい「退会を申し出た人を慰留すればいいのではないか」「月額プランから年額プランへなど、より長期契約へと乗り換えてもらえばいいのではないか」という発想になりがちです。

しかし前回お話ししたように、こうした策はあまり有効でないことが多いものです。退会希望者の慰留は往々にしてうまくいきませんし、契約期間を長くしてもらったところで、次の契約更新時にごそっと退会されてしまっては元も子もないからです。

ではどうしたらいいのか? これも前回お話ししたように、今いるユーザーの満足度(≒利用頻度)を高めることを最優先するのです。

現在会員数とはつまり、下図でいうところのバケツの中に入っている水の量のこと。どんなに蛇口から大量の水を出しても、バケツの底に大きな穴が空いていればいつまで経っても水はバケツにたまりません。それと同じで、退会者数を減らさないことには、どんなにコストをかけて新規顧客を開拓しても徒労に終わってしまいます。

新規顧客


A社

A社

「今いるユーザーの満足度を高めることを最優先する」、たしかにそうですね。これについてチームメンバーと話し合い、我々は1カ月間にサイトを訪問してくれるユーザーの人数を増やすことを目標にしてはどうか、ということになりました。


中尾

サイトを頻度高く訪れてくれるということは、それだけA社さんのサービスに満足してくれているはずですからね。


A社

A社

はい。具体的には、我社では月あたり5回以上サイト訪問してくれるユーザーを「ロイヤルユーザー」と定義することにしました。

というのも、社内の検証で「月あたり4回以下しか訪問しないのか/5回以上訪問するのか」の境目のところで、有料会員化率(コンバージョン率)が大幅に変わることが分かったんです。


中尾

その基準でいくと、今現在、会員全体に占めるロイヤルユーザー率は何%ですか?


A社

A社

ロイヤルユーザー率は7%程度です。それ以外のほとんどは、残念ながらサイト訪問回数の少ないライトユーザーですね。

このライトユーザーをロイヤルユーザーへと転化できれば退会者も減り、会員の獲得効率をもっと高められるはずです。そこで、「ロイヤルユーザー率を20%にする」をKPIとして掲げようと思っています。


中尾

なるほど……。ロイヤルユーザーの数を増やすことをKPIにしようという方向性自体は、とてもいいと思います。ただしここでひとつ、注意していただきたいことがあるんです。

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