ベラルーシのルカシェンコ大統領。
Reuters
- アレクサンドル・ルカシェンコ大統領(66)は、ベラルーシを26年に渡って統治してきた。
- 2020年には選挙を不正操作し、自らが80%を得票したと宣言して、6選を果たした。
- 今週23日には、ベラルーシの反体制派ジャーナリスト、ロマン・プロタセビッチ氏(26)の身柄を拘束するために、旅客機を強制着陸させた。
ベラルーシ当局が5月23日にヨーロッパの格安航空会社ライアンエアーの旅客機を首都ミンスクに強制着陸させた一件は、国際的な非難を招いた。強制着陸の理由とされた"爆破予告"は、ジャーナリストのロマン・プロタセビッチ氏の身柄を拘束するための策略だったことが分かったからだ。
プロタセビッチ氏はポーランドに拠点を置くニュースチャンネル「ネクスタ(NEXTA)」の共同創業者で、メッセージアプリのテレグラム(Telegram)を使ってルカシェンコ大統領に抗議する大規模デモの様子などを伝えていた。同氏はルカシェンコ大統領を激しく批判し、隣国リトアニアに拠点を移していた。旅客機が強制着陸させられると、同氏と同氏の交際相手ソフィア・サペガさんは身柄を拘束された。
今回の動きは、アメリカを含む欧米諸国の批判を招いた。CNNによると、欧州連合(EU)はベラルーシに制裁を課し、EUの全ての航空会社に対し、ベラルーシ上空を飛行しないよう呼びかけるつもりだという。EUのフォンデアライエン欧州委員長は24日、ベラルーシに対してまもなく、さらなる経済制裁が課されることになるだろうとの考えを示した。
しかし、このベラルーシをめぐるドラマの原因は、ルカシェンコ大統領自身だ。ルカシェンコ大統領はベラルーシで26年に渡って権力を握ってきた。そして、1人の活動家の身柄を拘束するためだけに国際社会の反発を買うことを何とも思わない。
軍隊の経験とロシアとのつながりを持つ絶対的指導者
ルカシェンコ氏が台頭し始めたのは1990年のことだ。当時30代後半だった同氏は若き有望な軍人で、白ロシア・ソビエト社会主義共和国の最高会議代議員に当選したばかりだった。
ソ連軍で就いてきたこれまでの役職や共産党の青年組織の会員であったことなどを挙げ、自らのソ連との親密な関係を自慢してきた。1993年には議会の汚職防止委員会のトップに就任した。
1994年には「この国をどん底から取り戻す」を公約に掲げ、得票率80.3%で大統領に選ばれた —— それ以来、ルカシェンコ氏は権力の座にあり続けている。
揺らぐ「ヨーロッパ最後の独裁者」ルカシェンコ政権
ルカシェンコ政権が揺らいだのは2020年のことだ。その地位から引き下ろされるかもしれないと恐れた大統領は選挙結果を改ざんし、自身が80%を得票したと宣言、6選を決めた。
この行動は、各地の抗議活動につながった。イギリスとカナダは選挙を不正操作し、平和的な抗議活動を弾圧しようとしたとしてルカシェンコ大統領を非難し、大統領と政権幹部らに制裁を課した。
ポリティコによると、この暴動でベラルーシ人3万5000人以上が逮捕され、警察による身柄拘束中に数千人が虐待や拷問を受けたという。抗議の声が上がる中、ルカシェンコ大統領は"うわべだけの強さ"を何度も見せようとしていた —— 防弾チョッキを着て、アサルト・ライフルを持ち、ヘリコプターから降りてくる自分の動画を公開したこともあった。
ロシアのプーチン大統領は、ルカシェンコ大統領の強い味方だ。2020年には「サポートの印」としてベラルーシに15億ドル(約1600億円)相当を融資し、抗議デモが続く中、必要に応じてベラルーシに介入できるよう治安部隊を準備した。
また、アルジャジーラは、ロシアがベラルーシ国営メディアでの抗議活動の報じられ方を変えるために、クレムリンとつながりのあるジャーナリストたちを送り込んだとも報じた。
ガーディアンの2020年の報道は、ルカシェンコ大統領が当時、プレッシャーに押しつぶされそうになっていたことを示唆しているが、自らへの退陣要求には抵抗し続けた。一部メディアはルカシェンコ大統領を「ヨーロッパ最後の独裁者」と呼んだ —— ただ、ルカシェンコ大統領は"独裁者"だが、"最後"ではないと指摘するメディアもあった。
ルカシェンコ大統領による新型コロナウイルスのパンデミック対応は多方面から批判を招き、大統領に対する退陣要求はさらに強まっている。しかし、ルカシェンコ大統領は権力の座にとどまっている。
2020年、首都ミンスクにあるトラクター工場を視察した大統領は、公正な選挙に関する質問に対して「わたしは質問に答えている。選挙は済んだ。あなた方がわたしを殺すまで、他の選挙はない」と言って反論した。
自らに異議を唱える者を弾圧するルカシェンコ大統領
ポーランドのグダニスクで開かれた集会でスピーチをするロマン・プロタセビッチ氏(2020年8月31日)。
Photo by Michal Fludra/NurPhoto via Getty Images
今週23日のライアンエアーの旅客機の強制着陸は、ルカシェンコ大統領が独立系メディアに対する弾圧を強め、逃亡しているジャーナリストを追い回し続けることを示していると、専門家は見ている。それが国際社会の非難を招いたとしても、だ。
「これはベラルーシの新たな価値観を持った政治移民に対する政治的メッセージであり、同時に自身の支援者に対する『選挙対策』でもあります」とウクライナを拠点とするベラルーシ人アナリスト、アイガー・ティシケビッチ(Igar Tyshkevich)氏はアルジャジーラに語った。
「政府は強く、誰にでも影響を与え得るというメッセージです」とティシケビッチ氏は付け加えた。
つまり、ルカシェンコ大統領の生き方を最もよく表しているのは、皮肉にも大統領が自らについて書いた文章なのかもしれない。
ルカシェンコ大統領は「わたしの生活は、他の大統領と同じでとても忙しい。目が覚めたら走り続ける。25年間走り続けるのはどんな気分かって? もう慣れたさ」とし、この文章は大統領の公式サイトにも誇らしげに掲げられている。
「このハムスターの回し車は回り続け、そこから逃げる方法はない。走るのをやめれば、回し車は回り続け、投げ出されてしまう。そういう生活だ。わたしはそれに慣れている」
(翻訳、編集:山口佳美)