他の外食チェーンに続き、サイゼリヤも配膳ロボットの正式導入を始めている。その動機と効果は興味深い(写真の店舗外観はイメージです)。
撮影:編集部
2021年は外食産業の「ロボット元年」になるだろうか?
外食大手のサイゼリヤは、2021年2月からソフトバンクロボティクスの配膳・運搬ロボット「Servi(サーヴィ)」を本格導入した。
現在、正式導入しているのは千葉富士見店の1店舗のみだが、ほかの配膳ロボットと合わせて、年間50店舗ほどを「配膳ロボ導入店舗」化することを検討しているという。
他のレストラン業態の外食大手と同様に、サイゼリヤもコロナの影響からの復活を模索している。直近の第2四半期の決算(2020年9月〜2021年2月累計)は、累計売上高628億円(前年同期比18%減)、最終損益は5億円を超える赤字だった。
4月8日に1号店をオープンした初の「小型店」と合わせて、収益構造を効率化する打ち手の1つとして、「配膳ロボ導入」を進めている。
配膳ロボをめぐっては大手焼肉チェーン「焼肉きんぐ」の運営会社が400台規模の大規模導入をしたことが知られている。焼肉きんぐのロボットに来客が驚く様子はTwitter上で多数の人が投稿している。
いま、外食産業でなぜロボット導入が積極化しているのか?
特集「半径1キロのモビリティ革命」第2回では、最も身近な郊外型レストランのイノベーションを、サイゼリヤと開発元ソフトバンクロボティクス双方の視点から深堀りしていく。
「配膳」には使わずに回転率が改善したカラクリ
外食大手のサイゼリヤが導入したソフトバンクロボティクスの配膳・運搬ロボット「Servi(サービィ)」。すでに、フロアスタッフの「同僚」として稼働し、成果も上げている。
撮影: 安蔵靖志
冒頭で紹介した焼肉きんぐの例は、テーブルまで配膳ロボット「Servi(サービィ)」が食材を届けてくれるものだった。一方、サイゼリヤの配膳ロボ活用がユニークなのは「利用客には触らせず、配膳はあくまでフロアスタッフ」と断言していることだ。
具体的には、配膳時にはServiが客席の近くまでお皿を配送すると、フロアスタッフがそれを取って客席まで配膳する。完全に裏方として使うというのは、焼肉きんぐとは正反対の利用方法だ。
Serviを初めとする「配膳ロボ」は、店内の決まったルートを、必要に応じて障害物を避けながら自律走行する。サイゼリヤ千葉富士見店では配膳2:下げ膳8くらいの割合で、下げ膳を中心に運用している。
※下げ膳:来店客が食事をした後、食器を下げる作業のこと
なぜ下げ膳の比率がここまで高いのか? ポイントは、来店客の「回転率」にあるという。
飲食店の店舗を訪れた際に、席は空いてるのに前のお客の食器があって案内されない……という経験を持つ人は多いだろう。特にランチタイムなどのピークタイムには、多くのお客が一気に訪れるため、こうした状況が発生しやすい。
飲食店にとって、このお客の待ち時間行列は、見える化された「機会損失」そのものだ。
待ち行列を解消するためにServiを使うというのが、サイゼリヤが「用途の8割が下げ膳」である理由だ。では、その効果は?これも実に興味深い。
従業員の“足腰負担”半減、回転率は改善は「とてつもない数字」
サイゼリヤ プロジェクト推進部 部長の加藤誠司さん(左)と、サイゼリヤ プロジェクト推進部長の長嶋宗由さん。
撮影: 安蔵靖志
サイゼリヤの場合、Serviの導入には約1カ月をかけ、店舗のオペレーション最適化を試行錯誤しながら進めていった。
Serviを下げ膳でうまく使う使い方や、走るルートの最適化、フロアスタッフの習熟が進むと、導入効果は目に見えて上がった。
スタッフの動きをビデオカメラで撮影し、移動回数と移動距離を時間と人手をかけて分析したところ、
「客席にいる従業員が動く範囲が狭まって移動距離が半減し、お客様に目を向けられるという効果が出た」と、サイゼリヤ プロジェクト推進部 部長の加藤誠司さんは語る。
フロアから食器を片付けて戻るServi。配膳はあくまでフロアスタッフが担当するため、お客が手に取れるような距離までは行かない。「料理はフロアスタッフが届ける」というのは社長方針でもあるそうだ。
撮影: 安蔵靖志
フロアのサービス向上だけではなく、コスト面での「費用対効果」も明確になった。数字は詳細には語れないとしながらも、
「ある時にはピークタイムで回転率が4%向上したが、その後には(このレベルではない)“とてつもない数字(回転率)”が出る場合もあった」
と加藤さんは答える。
「労働人口が減る中で『重いものを持たなくていい、歩かなくていい』となると、働ける人たちも増える」(加藤さん)
人手不足・少子高齢化時代への対応へのメリットもあることなども決め手となって、サイゼリヤは導入を決めた。
現在、Serviを本格導入しているのは千葉富士見店の1店舗のみだが、導入決定済みで試験機を動かしている店舗が1店舗、さらにもう1店舗導入を決定しているという状況だ。また、舞浜イクスピアリ店では他社の猫型配膳・運搬ロボット「BellaBot(ベラボット)」も導入している。
「ベラボットの方が大きくて積載能力があり、表情が豊かで対話に向いている。Serviはコンパクトで積載量は少ないが、狭い店に向いているといった違いがある。元々1社に偏りたくないという考え方があったので、ベラボットも導入したという経緯だ」(長嶋さん)
ソフトバンクRが見る、外食産業の「配膳ロボット元年」
実は、サイゼリヤをはじめ外食産業への配膳ロボの導入は今、加速している。
「Servi」の開発・販売を手がけるソフトバンクロボティクスの坂田大さん(執行役員兼 CBO事業開発本部長)は、導入が進む背景として、「人手不足や生産性など、外食産業が抱える課題への対策として、導入の検討を進めていただく企業が多い」と語る。
コロナ以降の世界では、非接触であることも注目要因になりそうだ。これについては、
「(元々の人手不足の需要に加えて)コロナ禍で『非接触』の需要も出てきており、相乗効果で引き合いをいただいている」(坂田さん)
ソフトバンクロボティクス執行役員 兼 CBO事業開発本部 本部長の坂田大さん。Serviの体験会は東京・渋谷にあるPepper PARLORで実施。企業トップが直接来る例が意外に多く、配膳ロボ導入が経営課題に直結していることが感じられるという。
撮影:編集部
と、非接触は1要素ではあるものの、主因はあくまで「人手不足と効率化にある」とする。
現在、Serviは前出の「焼肉きんぐ」や「ゆず庵」などを展開する物語コーポレーションが全443台、「和食処とんでん」を展開するとんでんホールディングスが全23台など、大手チェーンで導入が進む。一部介護施設やホテルでの実証もあるが、導入先のほとんどが飲食関連だ。
「有名チェーンに全店で入れていただいたのは、(営業上)相当なインパクトになった。お客様で賑わう中でもスイスイ動きながらヘビーに使われている様子を見ると、『これで大丈夫ならうちでも大丈夫かな』と判断される材料にもなっている」(坂田さん)
外食産業における導入効果は、サイゼリヤの例のような「下げ膳の効率化」による回転率向上からの売り上げ増が大きいという。ただ、もう1つの大きな課題である従業員の負担が減ることで人員を確保しやすくなるメリットもある、と坂田さんは指摘する。
「空いた時間で別のサービスをしてもらったり、コストを下げられることで食材の原価率を上げたり。(各社の導入を見ていて)活用法には経営者の戦略が垣間見えるところだと思う」(坂田さん)
「試験導入がどんどん短くなっている」という現象も、目を引く変化だ。
試験導入がどんどん短縮化されている背景
配膳ロボの導入にあたっては、多くの企業がPoC(実証実験)をして、効果を確かめるのが通例だ。
大手とのServiの実証開始をし始めたのは2020年秋ごろから(正式販売開始は2021年2月)だが、この1年以内の大きな変化として、実証期間が短くなり続けているという特徴がある。
「最初は1〜2カ月ほどかかっていたのがどんどん短くなり、最近では1週間、場合によっては3日や1日で導入を決定していただく例も増えている」(坂田さん)
導入の短縮が進む背景には、東京・渋谷にあるカフェ実店舗「Pepper PARLOR」でServiの「体験会」の効果もあるという。
訪れた導入検討企業に合わせて、テーブル配置などを実店舗のレイアウトに合わせて即席に作り替えるなどして、「目で見て体験できるプレゼン」にするのだ。
出典:ソフトバンクロボティクス
当然ながら、導入企業とのPoC実施にあたっては、事前に顧客とKPI(重要業績評価指標)を吟味し、それを達成しなければ採用してもらえない。
KPIは配膳回数や、スタッフのフロア滞在時間、スタッフの移動距離の短縮、全配膳のうちServiが配膳した回数の割合など、企業によってさまざまだ。
「(例えば導入企業の)とんでんホールディングス様の場合、経営トップから『スタッフのホール滞在時間を延ばしたい(=サービス品質向上につながる)』との要望があった。導入前と導入後で、滞在時間が約2倍になった。結果を出すための枠組みをしっかり作って、PoCを実施することを非常に意識している」(坂田さん)
いま、飲食産業の経営層は、長引くコロナ不況で危機感を強めている。Serviは当初バックオーダーを抱える状態だったが、現在は歩留まりが改善したこともあって1〜2週間で納品できる状況にあるという。
「Serviを導入すると人の目に触れるため、認知が進んでより広がりやすくなる。PoCが短期化していることも、導入が加速する要因になる。
外食産業に広がっていく感触は間違いなくあり、今年は『配膳ロボット元年』になるのではないか」(坂田さん)
(文・安蔵靖志)