フロイド殺害事件から1年。反黒人差別「BLM」運動が変えたこと、変えられなかったこと【現地動画あり】

5月25日(米国時間)、ニューヨーク・マンハッタン地区に集まった反黒人差別デモの参加者たち。非黒人、若い世代が多い。

撮影:柏原雅弘

2020年春、大都市から地方の小さな町までアメリカ中の通りを若者たちが埋め尽くした「ブラック・ライブズ・マター(BLM、黒人の命は大切だ)」運動。

ちょうど1年前の2020年5月25日、中西部ミネソタ州ミネアポリスで、黒人のジョージ・フロイド氏(当時46歳)が元白人警官のデレク・ショービン被告(現在45歳)に殺害されたのがきっかけだった。

「1年経っても、今日はつらい日です」

黒人のバーバラ・リー下院議員(カリフォルニア州)は、MSNBCテレビにそう語った。

それでも、BLM運動はのちに歴史の教科書に載るであろう果実をいくつか結んだ。その果実は、主に3つある。

  • 2021年4月20日、ショービン被告が殺人罪に問われた裁判で、陪審員は有罪評決を言い渡した。白人警官が黒人を殺害して有罪評決が出るのはきわめて画期的。6月下旬には厳しい量刑が下される見通し
  • アメリカの連邦議会で、容疑者の首を腕で絞める「チョークホールド」を禁じるなどの「警察改革法案」が審議中。全米各州の司法当局や大都市の警察本部が、改革に着手
  • BLM運動の影響で、「差別問題」を見つめ、改善しようという機運が高まった。例えば、新型コロナウイルスが中国から来たとしてアジア系に対するヘイト犯罪・スピーチが広がったのに対し、「サイレント・マイノリティ(声なき少数派)」とされていたアジア系市民がデモを起こした。2021年5月21日には、バイデン大統領が「アジア系住民に対するヘイトクライム法案」に署名し、同法が成立

白人警官による黒人市民の殺害に有罪は「ミネソタ州で初」

「有罪だって!!」

2021年4月20日午後5時過ぎ、ニューヨーク中心部の観光名所タイムズスクエアで、通行人の女性たちが叫び始めた。観光客らが一斉にスマホを覗く。ショービン被告がフロイド氏を殺害したとする有罪評決が下った瞬間だ。

黒人市民運動家のアナイア・Aさんは、潤んだ目でこぶしを振り上げた。

「こんなビッグな評決はこれまでなかった。白人警官が有罪となったいま、白人至上主義にメスが入り、かつてないチェンジが起きる」

アナイアさんがそう指摘するように、評決は画期的なもので「黒人市民を殺害したとして、勤務中の白人警官が有罪となるのは、ミネソタ州で初めて」(ミネアポリス・スター・トリビューン紙)。

また、警官による銃撃についても、「殺人罪で有罪評決が下ったのは2005年以降、全米でわずか7件。つまり、警官が市民を殺した2000件のケースのうち1件だけが有罪になる確率」(ニューヨーク・タイムズ)という。

黒人に限らず、警察官が市民を殺した場合、逮捕されることすら稀で、その上有罪に持ち込むのは至難の技。今回、検察が有罪評決を引き出すことに成功したのは、複数の偶然が重なったからだ。

「例外中の例外」有罪となった3つの偶然

複数の偶然とは、次のようなことだ。

第1に、フロイド氏殺害事件では、「沈黙の青い壁」(=不祥事の際、警官同士がお互いをかばう悪習を指す言葉。アメリカでは、青は警官の文化を示す色)が崩れた。

ショービン被告が所属していたミネアポリス市警のメダリア・アラドンド本部長は裁判で、「フロイド氏が抵抗しなくなり、苦痛を感じていることを訴えようとしたところで、ショービン被告は圧迫を止めるべきだった」と証言した。

アラドンド氏は、同市警初の黒人本部長。また、裁判に先立ち、ショービン被告の同僚警官14人が「ショービン被告には人間として欠陥があり、フロイド氏の尊厳と命を奪った」とする書簡を公開していた。

第2に、フロイド氏殺害につながった現場には、多くの目撃者がいた。マーシャルアーツ(武道・武芸)に通じた目撃者ドナルド・ウィリアムズ氏は、ショービン被告がフロイド氏を窒息させる技をかけていると判断。「殺人の現場にいる」と、その場から警察に緊急電話をかけたと証言した。

第3に、別の目撃者ダーネラ・フレイジャーさん(18歳)がスマホで撮影した動画は、ショービン被告が8分46秒もの間、フロイド氏の首を圧迫していたことを示す有力な証拠となった。

フレイジャーさんは撮影した直後にFacebookに動画をアップし、それが全米に広がるBLM運動のきっかけとなった。

彼女は裁判で「眠れず、夜中にはジョージ・フロイドに謝り続けています。ほかの行動をとれなかったこと、体を張って彼の命を救うことができなかったことを」と証言した。

最も強力な役割を果たしたのがフレイジャーさんのビデオだったことは間違いない。ニューヨーク・タイムズは「例外中の例外」の有罪評決としている。

ミレニアルとZ世代がBLM運動を支えた

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5月25日、フロイド氏殺害事件から1年に合わせて開かれた反黒人差別デモの様子。

撮影:津山恵子

BLMを支えたのは若い人たち、つまりミレニアル(1980〜90年代半ば生まれ)やZ世代(1990年代半ば以降の生まれ)だった。

フレイジャーさんの撮影した動画は、ソーシャルメディアを通じて野火のような勢いで広がった。

テレビで放送された動画は、子どもたちが視聴することに配慮し、息絶えるフロイド氏の部分にモザイクがかけられたりしたが、テレビを持たないミレニアルやZ世代の多くはスマホで動画を再生し、血やおそらく小便を流して死にゆくフロイド氏の最期を見守った。

そして「これは間違っている」と、新型コロナウイルス感染拡大のさなかでも通りに出て、デモに参加した。デモの実施情報は、インスタグラムで日時と場所だけシェアされた。動画→ソーシャルメディア→運動という、21世紀型の公民権運動へと発展した。

BLM運動の成果、そして問題

ただし、黒人市民の多くは、いまだに実生活はほとんど改善されていないと感じている。

友人のミュージシャン、ダニエル・チェイビス氏に「BLMの1年」について聞いてみると、

「植民地時代の1619年に初めてアフリカ黒人が輸入された時点で、黒人の殺害は有罪とするべきだった。400年かかって、いまようやく最初の一歩にたどり着いたところだ。黒人やアジア系に対する差別の根本が、BLM運動やショービン被告への有罪評決で解決されたわけではない」

と、厳しい見方だった。

シカゴ大学の世論調査センター(NORC)がフロイド氏の1周忌にあたって実施した調査によると、「人種差別はどれほど深刻な問題と思うか」との問いに対し、黒人の60%が「きわめて深刻」と回答したのに対し、白人はわずか23%。

また、警官に差別された経験がある黒人は60%で、白人は7%と大きな隔たりがあることもわかった。

一方で、BLM運動が警察への極端な批判をあおり、警察の予算削減や規模縮小まで主張していることには、問題があると筆者は感じている。

アメリカの警察にいま必要なのは、「再教育」「再訓練」だ。

複数の警官の友人らに聞くと、「パトロール中に黒人が絡んだ事件で呼ばれるときは、あまり深入りしないようにしている」という。BLM運動を一種の「警官ヘイト」とみなして毛嫌いする向きも出てきている。

これでは、容疑者の人種によって異なる対応を訓練している、警察の根本的な「差別体質」の解消にはつながらない。

警察改革だけでは人種差別はなくならない

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5月25日、フロイド氏殺害事件から1年に合わせて開かれた反黒人差別デモの様子。

撮影:津山恵子

5月25日(米国時間)、ニューヨーク市マンハッタンのダウンタウンで開かれたデモの現場に駆けつけた。

黒人女性らが1年前に結成した複数の団体によるデモで、200人ほどが参加していた。圧倒的に非黒人の若い世代が多く、運動の広がりを強く感じた。

この1年で、BLM運動は多くの人の人生を変えた。スピーカーの1人、チー・オーセ氏は市民活動家だったが、BLMのメッセージを広めるために2021年の市議会議員選挙に立候補した。

この1年で何かほかに変わったことはないか、デモ参加者に直接聞いてみた。

「差別問題に対するメディアの報道が変わった。これが続けば大きな影響力になると思う」(エジプト系アメリカ人の参加者)

「2020年から差別に対する戦いを続けてきたことで、多くの人が問題を認識してくれた。さらに続けていかなければならない」(デモ主催者の1人)

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5月25日、フロイド氏殺害事件から1年に合わせて開かれた反黒人差別デモの様子。

撮影:津山恵子

とはいえ、課題も残る。

参加者の1人、活動家のジョアナ・アーラティスさんは、こう話してくれた。

「警察の改革だけで解決すると思うのは、あまりに安易すぎる。人種的マイノリティに集中する貧困、薬物中毒、精神障害といった問題を社会全体が解決しなくてはならない。

問題を抱える人が多い人種の容疑者に対する社会的な支援が必要だ。そうした容疑者が少なくなり、警察と関わる頻度を少なくするのが解決策だと思う」

BLM運動が、新型コロナ感染拡大による外出禁止令をものともせず、若い人をデモに向かわせてから1年。運動の広がりは確実にアメリカ社会を動かしつつある。

しかし、400年前に始まったアメリカの黒人差別が、1960年代の公民権運動と昨今のBLM運動を経ても解消されていないことは事実だ。

それでも若い人たちはデモに出かける。過去を背負っていない彼ら、彼女らが行動を起こすことで、少しずつ何かが動きだしていることを実感しているのは、筆者だけではないと思う。

(文:津山恵子


津山恵子(つやま・けいこ):ジャーナリスト、元共同通信社記者。ニューヨーク在住。2007年から独立し、主にアエラに、米社会、政治、ビジネスについて執筆。近著は『教育超格差大国アメリカ』『現代アメリカ政治とメディア』(共著)。メディアだけでなく、ご近所や友人との話を行間に、アメリカの空気を伝えるスタイルを好む。

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