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ワクチン接種進むニューヨーク「仮死状態から100%経済再開へ」街の様子はどう変わったか【現地報告】

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2021年5月、観光客が戻り始めたニューヨークの中心部、タイムズスクエアの様子。

撮影:津山恵子

ちょうど1年前はゴーストタウンだった繁華街を、サマードレスの女性がマスクなしでさっそうと歩く。

救急車のサイレンしか聞こえなかった通りにイエローキャブ(タクシー)が戻り、ニューヨーク名物のクラクション音が鳴り響く。

コロナ感染者のための“野戦病院”が建てられた芝生の上を、子どもや犬が走り回る。

新型コロナウイルスの感染爆発で“仮死状態”に陥っていたニューヨークが、再生のときを迎えた。

感染者、死者ともにピーク時の「10分の1」に

2020年3月22日の夜から始まった米ニューヨーク州のロックダウン。

世界最大の新型コロナ感染爆発エリアとなった同州では、アンドリュー・クオモ州知事が自宅待機・外出禁止の行政命令を下した。

それから3カ月、ニューヨークは文字通りゴーストタウンとなり、それまでオフィスに通っていたビジネスパーソンの在宅勤務は、その後今日に至るまで1年続いた。

失われたものはあまりにも大きい。ニューヨーク州の感染者数は約209万人、死者は5万2664人にのぼり、日本とはケタ違いだ(5月26日時点、米ニューヨーク・タイムズ)。

しかし、ロックダウン開始から14カ月が過ぎた5月19日。ワクチン接種を完了した成人は、公共の場での着用が義務づけられていたマスクを(屋内・屋外とも)はずしていいことになった。

観光客も戻り始め、職場復帰もすでに少しずつ始まっている。ニューヨーク州の5月26日の新規感染者は1203人、死者は23人、それぞれピークを迎えた2021年1月の10分の1以下まで減った。

新型コロナ関連の規制がほぼ撤廃されたニューヨークの様子を筆者が取材した際の動画。2020年5月の「ゴーストタウン」当時の様子もふり返っている。

撮影:柏原雅弘

ニューヨーク州では、世界の他の都市と同じように、ウイルス感染拡大の第2波、第3波に襲われたものの、段階的な経済再開が着実に進められてきた。

日本のように緊急事態宣言を解除しては再発令するくり返しはなく、外出禁止令は解除されてから一度も再発動されていない。

ニューヨーク州はどうやって「直線的な」経済再開に成功したのか。過去14カ月の変化の推移をさかのぼってみたい。

時系列で見るワクチン接種進捗の実態

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10〜15分で結果が出るPCR検査サービスカー。ニューヨーク州は、外出を伴うエッセンシャルワーカーたちが家族や同僚の命を守るため、積極的に検査を受けるのを奨励した。現在も全米で100万件近い検査が実施されている。

撮影:津山恵子

経済再開のカギを握るのはもちろんワクチン接種。住民のほとんどが接種を受けて集団免疫を獲得することで、活動範囲が広がっていくからだ。

ニューヨーク州は居住者であることを証明するIDや書類さえ持参すれば、医療保険に加入していなくても無料で接種を受けられる。接種対象は、次のような優先順位に従って拡大していった。

【2020年】
12月14日 医療従事者

【2021年】
1月11日 65歳以上、小中高教員、警察・消防・裁判所・拘置所・刑務所勤務者、交通機関勤務者、ホームレスシェルター勤務者・利用者、スーパーマーケット従業員、対面授業を行う大学教員
2月3日 タクシー運転手、レストラン従業員、持病がある人
3月23日 50歳以上
4月23日 ニューヨーク市で事前予約なし接種開始
5月7日 16歳以上、ニューヨーク市では住民以外の観光客

5月26日時点(現地時間)で、ファイザー製かモデルナ製ワクチンの2回接種、あるいはジョンソン・エンド・ジョンソン製ワクチンの1回接種を終えたニューヨーク州の成人(18歳以上)の割合は、クオモ州知事のツイートによれば55.5%となっている。

26日のクオモ知事ツイートの直近24時間以内には9万9000人超、累計で1862万回分のワクチン接種が行われた。

65歳以下の人でも、オンライン申し込み時に「既往症がある」という欄にチェックを入れれば予約がとれたので、多くの若い人が2月ごろから接種を受けはじめた。

大手ドラッグストアでは、夕方薬局が閉まる直前に訪ねると、予約キャンセルで余ったワクチンがあればその場で接種してくれた。仕事の休暇をとれない人のために24時間オープンしている接種会場もあり、そのあたりは非常に柔軟だった。

接種率70%以上までの道のり

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筆者がワクチン接種を受けた病院の接種後待機場所。車輪つきテーブルにパソコンを載せた職員が、1度目の接種を終えた人のところに来て、2度目の接種の予約日時を教えてくれる。病院に着いてから出るまで30分弱。

撮影:津山恵子

米国立アレルギー・感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長は、

「集団免疫を達成するには、アメリカの人口の70〜85%がワクチンを接種する必要がある」

と証言している。

バイデン大統領も、

「7月4日の独立記念日までに、成人の70%が少なくとも1回の接種を終えて、マスクをはずして花火を見よう」

と目標を設定した。

70%以上のワクチン接種率を達成するにはさらなる後押しが必要で、ドーナッツや野球観戦チケットの無料提供など「接種奨励策」が相次いで発表されている。

ニューヨーク州では、大規模接種会場で接種を受けた人を対象に、最高で500万ドル(約5億5000万円)が当たる可能性のあるスクラッチ式宝くじを配ると発表(オハイオ州では同じ策を導入し、早くも1億円超の当選者が出たとの報道もある)。

さらに、18歳未満の接種者に抽選で州立大学のスカラシップ(奨学金)が付与される奨励策も導入されている。

飲食店への規制こそがニューヨーク州の成功につながった

ニューヨーク州がロックダウンの再発動という大きな後退を経験せずに再生できたのは、レストラン・バーなど飲食店に対する厳しい規制が要(かなめ)だったと、筆者は考えている。

ジムや映画館、劇場など人が集まるところは軒並み休業中で、飲食店だけが人々が集まる場所、という状況が続いたからだ。

飲食店は2020年3月14日に営業停止となり、テイクアウトと出前だけが許された。安定した営業体制やメニューを用意できない飲食店は、屋外での飲食が許可される6月22日まで、3カ月以上の休業を余儀なくされた。

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2020年9月末、収容可能席数の25%開放で店内飲食を始めたニューヨーク市内のギリシャレストラン。

撮影:津山恵子

6月の屋外飲食許可に際しては、歩道と車道の一部を規制緩和で開放し、ソーシャルディスタンスを保って席を設置できるようにした。各飲食店は夏の間に突貫工事を行い、路上の飲食エリアを整備した。

屋内の飲食については、収容可能席数の25%開放から始まり、その後50%にまで緩和された。

また、レストラン・バーではアルコールのみの注文が禁止された。長居・深酒をして声が大きくなったり、人々が接触するような争いが起きたりして感染するのを避けるための措置だった。

もともと食事を提供していなかったバーでは、ピクルスや手づくりのピーナッツバターサンドを用意するなど、苦労を強いられた。

ただ、2020年冬に第2波の兆しが出ると、ニューヨーク州は屋内飲食を再び禁止する。

お客さんも従業員も寒さに耐えて屋外席を利用するしかなくなり、結局多くの飲食店が再度の休業に入った。本来なら稼ぎどきである感謝祭やクリスマス休暇、筆者はニューヨーク中心部を見に行ってみたが、にぎわう飲食店は数少なかった。

その後、急速に飲食店向けの規制が解除されたのは、第3波が一服した2021年5月になってからだった。

夜11時までとされていた営業時間は午前0時まで延長され、現在はそれ以降の深夜営業も可能になっている。1年以上禁止されていたバーカウンターの利用も許可された。アルコールのみの注文も解禁された。

5月19日には、屋内飲食の席数制限も、テーブル間のソーシャルディスタンスを確保することを条件に撤廃。これは飲食店にとって全面的な再開を意味する規制解除となった。

「零下の屋外席しかないときでも、地元客は来てくれた」

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5月19日、14カ月ぶりに屋内飲食を始めたスターバックス。客同士のソーシャルディスタンスをとっている(左上)。ソーシャルディスタンスを確保できない店は、パーティションでテーブル間を仕切る(左下、右下)。席数を少しでも増やすため、屋外席の増設工事はいまも続く(右上)。

撮影:津山恵子

筆者は5月15日、マンハッタンの観光名所リトル・イタリーを訪ねた。天気は快晴で、どのレストランもほぼ満席というにぎわいぶりだった。

冬の間も店を開け続けた数少ないレストラン「アミーチ」に行くと、マネジャーのクリスチャン・ブカイ氏が、屋内も屋外も満席の店内を忙しく歩き回っていた。

「冬の間、零下の屋外席しか使えないのに、地元のお客さんたちが来てくれた。屋外エリアは自分だけがウェイターで、ダウンコートを2枚着てしのいだ。規制が解除されて、気候さえ良くなれば、みんなが戻ってきてくれるという確信があった。いまは約50人の従業員も全員戻ってきてくれた」

もちろん、アミーチのような順調な店ばかりではない。2020年春の3カ月の休業期間、家賃が払えない飲食店は早々と廃業に追い込まれた。

夏に屋内・屋外飲食の規制が導入されたあとも、路上のテーブル席の囲いやパーティションへの投資、冬に向けては屋外エリアの屋根と壁、暖房の設置などが必要になり、体力がない飲食店はそこでもふるい落とされた。

飲食店業界のニュースサイト「イーター・ニューヨーク」によると、ニューヨーク市内では2020年3月以降、少なくとも1000店のレストランが廃業に追い込まれたという。

また、ニューヨーク州レストラン協会は、2020年末までに州内の3分の2のレストランが廃業するとの見通しを示していた。

第4波への恐怖は消えない

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2020年4月、筆者の自宅近所にある病院に突如あらわれた遺体安置用保冷車。

撮影:津山恵子

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2021年5月、ロックダウン時に遺体安置用保冷車が置かれた通りは、休憩所になっていた。2020年5月に撮影した1つ上の写真とほぼ同じ場所。

撮影:津山恵子

ワクチン接種の進捗で経済再開の進むニューヨーク州だが、新型コロナ感染への警戒を怠ることはまだできない。

過去1カ月、筆者のまわりでも数人が感染した話を聞いた。いまは再生を謳歌できたとしても、感染力の強い新たな変異株が出現して第4波が起きる可能性を否定はできない。

米ジョンズ・ホプキンス大学のデイビッド・ダウディ教授は、Business Insiderの取材に答えてこう指摘している。

「人々の行動が変容したり、季節が変化したり、新たな変異株が出現すれば、集団免疫の閾値(いきち)も変わる。一度達成すればもう問題なし、というような『魔法の値』はない」

また、米国立アレルギー・感染症研究所のファウチ所長(前出)は、「ブースター」と呼ばれる3回目のワクチン接種が必要と指摘している。次々に出現する変異株ウイルスに対応するためだ。

ファイザーなどワクチンメーカーは、2回目の接種から8〜12カ月でブースターが必要になるとし、2021年9月には供給を開始すると発表している。

ワクチン接種を拒否する市民が一定数いるため、検査と感染追跡も当面は続くだろう。

台湾やシンガポールのように、水際対策で初期の感染拡大を抑え込んだものの、安心感や油断から感染追跡がおろそかになり、ここに来て第2波と戦っている国もある。油断はできない。

街頭は確かににぎわいを取り戻しつつあるが、新型コロナとの戦いが本当はこの先いつまで続くのか、誰も具体的に発言していない。

感染拡大の再発と隣り合わせの状況が続く不安は、今日もなお取り除かれないままだ。

(文:津山恵子


津山恵子(つやま・けいこ):ジャーナリスト、元共同通信社記者。ニューヨーク在住。2007年から独立し、主にアエラに、米社会、政治、ビジネスについて執筆。近著は『教育超格差大国アメリカ』『現代アメリカ政治とメディア』(共著)。メディアだけでなく、ご近所や友人との話を行間に、アメリカの空気を伝えるスタイルを好む。

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