ファーウェイに続く「ライカコラボ」、しかも国内メーカーということで注目を集める。特に、カメラ機能の強化という意味では、「1インチセンサー搭載」というのは非常にわかりやすいメッセージだ。
撮影:小林優多郎
シャープのスマホ市場での勢いが止まらない。
先日発表された最新モデル「AQUOS R6」は1インチのセンサーを搭載したことが話題だ。1インチセンサーは、ソニーの高級コンパクトデジカメ「RXシリーズ」に採用されるなど、本格デジカメに搭載される部材とされていた。
今回、シャープはドイツの老舗カメラメーカー・ライカと組み、共同でレンズを開発。スマホに収まるサイズながら、1インチセンサーに光を送り込む7枚レンズ構造により、本格デジカメに匹敵する「ボケ」を表現できるスマホカメラを実現させた。
左が前モデルのセンサー、右が今回の1インチセンサー。センサーが大きくなると光を多くとらえられ写真表現が美しくなりやすいほか、光学的に本物の「背景ボケ」表現にも有利になる。
撮影:小林優多郎
1インチセンサーを載せたスマホということで、世界からの注目も高い。
シャープのSNSアカウントには、海外から問い合わせが殺到。日本の複数のITジャーナリストによる、AQUOS R6を紹介したYouTube動画が、海外のYouTuberに無断盗用される現象も起きているほどだ。
実はシャープは、Androidスマホにおいては「国内販売数4年連続ナンバーワン」だ(BCNランキング)。いま日本ではソニーのXperiaでもなく、サムスンのGalaxyでもなく、 AQUOSが最も売れているAndroidスマホということになる。
そのけん引役とも言えるのが、2017年から販売されている普及期の「AQUOS sense」シリーズだ。
最新モデルとなるAQUOS sense4はSnapdragon 720Gを搭載しながらも、3万円台前半という価格が人気の秘密になっている。キャリアのみならず、サブブランドやMVNOなど安価なスマホを求めるユーザーによく売れている。
売れる背景には、シャープという日本メーカーによる安心感、防水・防塵、さらにはおサイフケータイといった日本特有のニーズをとらえながら、処理能力も不満のないレベルになっているなど、幅広いユーザー層から注目を集めているようだ。
シャープの「安価で良い端末」の背景にグローバル“調達力”
AndroidといえばソニーXperiaだった時代は、シェアに関して言えばもう変わっている。いま国内市場では、Androidといえばシャープ、というのが実態だ。
撮影:小林優多郎
なぜシャープはこんなにもコストパフォーマンスの良いAndroidスマホを作れるのか。
シャープ通信事業本部の小林繁パーソナル通信事業部長は、「調達数が効いている」と語る。
シャープはかつて経営不振に陥り、2016年に台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業、いわゆるフォックスコンの傘下に入った。フォックスコンはiPhoneの製造も手がける「世界のスマホ工場」とも言える企業だ。
スマホに関するさまざまな部材を大量調達できるので、製造コストを安く抑えることができる。AQUOS senseシリーズはその恩恵を受け、価格競争力のある製品に仕上がっているというわけだ。
調達数が多ければ、歩留まりも良くなり、不良品として出荷前に選別される製品も少なくなる。安定した生産・供給が可能となるわけで、さらにコストが下がっていくことになるようだ。
名実ともにグローバル化した「スマホのシャープ」
中国系を中心としたさまざまなグローバルメーカーに並んで、Android 12ベータ版対応メーカーのなかにシャープの名前がある。国内ブランドでは唯一の掲載だ。
撮影:編集部
先日、グーグルは開発者会議「Google I/O 2021」において、次期バージョンとなる「Android 12」のベータ版を公開した。
Android 12 Developer Preview Program(以下、Android 12ベータ版)の先行テストを試せるデバイスとしてGoogle Pixel、メーカーとしてはXiaomi(シャオミ)、ZTE、OPPO、ASUS、OnePlus、realmeなどが並ぶなか、なんとシャープの名前もあったのだ。
したがって、Android 12のベータ版は、AQUOS sense5GのSIMフリー版にもインストールできる。
AQUOS sense5GのSIMフリー版がエントリーしている理由について、小林氏は「これまでもAndroidがアップデートされるたびに1日でも早く対応してきた。そもそもグーグルとは総合的なパートナーシップを結んでおり、品質面でも評価いただいているのではないか」としている。
ここで肝となってくるのは「SIMフリー版の端末があるか」という点だ。
Android 12 ベータ版に対応しようと思っても、さすがにキャリアモデルでは難しい。なぜなら、開発途中のAndroidを導入したことで、万が一、アプリや本体が動かなくなった際にキャリアショップに駆け込まれても、修理対応ができないからだ。
SIMフリー版であれば、そもそもキャリアが提供するサービスのアプリなどは存在しない。基本はグーグルが提供するAndroidベースで、アップデートされても対応がしやすい。
SIMフリーということで、ある程度リスクを承知しているユーザーが購入していることが多く、メーカーとしても対応しやすいというわけだ。
SIMフリー市場での生き残り視野に、地道な商品開発
シャープの通信事業本部パーソナル通信事業部長の小林繁氏(2020年撮影)。
撮影:小林優多郎
振り返ってみれば、シャープは2017年12月にSIMフリースマートフォン「AQUOS sense lite」を製品化。他の日本メーカーや韓国メーカーに比べて、いち早くSIMフリー市場に製品を投入してきた。
他のメーカーは、キャリアへの配慮があるのか、当時もSIMフリー市場にはあまり積極的とは言えなかった。
そんななか、シャープは国内メーカーではいち早くSIMフリー市場に製品を投入。MVNOなどに幅広く売れたことで、いち早くAndroidのアップデートにも対応できるし、結果として販売台数のシェア拡大につながったというわけだ。
小林氏は「SIMフリー市場は、なんとなくではユーザーは購入してくれない。SIMフリーを購入するユーザーの声はとても影響力がある。また、SIMフリー市場はグローバルメーカーが強く、そこに勝てる商品ではないと生き残れない」と語る。
シャープは早い段階でSIMフリー市場を意識したことが功を奏して、今のポジションを確保できたと言えそうだ。
(文・石川温)
石川温:スマホジャーナリスト。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。ラジオNIKKEIで毎週木曜22時からの番組「スマホNo.1メディア」に出演。近著に「未来IT図解 これからの5Gビジネス」(MdN)がある。