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- メディアビジネスは統合を続けており、アマゾンによるMGMの買収は最初の事例ではない。
- ディズニーは2019年に21世紀フォックスを買収してHuluを手中に収め、AT&Tはワーナーメディアとディスカバリーを合併させた。
- これらの取引は、メディア企業の多くが、生き残りのためにストリーミング市場を重視する傾向を示している。
2021年5月26日、アマゾン(Amazon)がMGM(メトロ・ゴールドウィン・メイヤー)スタジオの親会社を84億5000万ドル(約9200億円)で買収することが発表された。
この買収は、MGMが所有する映画やテレビ番組がアマゾン プライム ビデオ(Amazon Prime Video)のストリーミング・プラットフォームに登場し、会員が視聴できることを意味している。
これは、テック企業が映画業界の有力企業と提携することで、ストリーミングサービスを充実させ、ディズニー(Disney)やネットフリックス(Netflix)のようなライバルに対抗するという新たな事例だ。
ストリーミングサービスが従来のテレビ放送よりも人気を得るようになった今、メディア企業はそれを喜んで受け入れ、業界の統合をさらに進める可能性が高い。特に独自のストリーミングサービスを持たない映画会社は、自分たちのライブラリーに目を向けてもらい、収益化する方法を模索しているからだ。
ここでは、ストリーミング戦争の舞台となった、技術系プラットフォームと伝統的な映画会社との間の、合併・買収・提携などを紹介する。
ディズニーが21世紀フォックスを買収
ドリュー・バリモア主演の1999年の作品『25年目のキス』。
Getty Images / Handout
ディズニーは、映画会社の21世紀フォックス(21st Century Fox)と、数十年の歴史を持つ子会社の20世紀スタジオ(20th Century Studios)を710億ドル(約7兆800億円)で買収し、2019年に閉鎖した。ディズニーのストリーミング・プラットフォームであるディズニープラス(Disney+)は同年12月に開始され、『25年目のキス』や『エバー・アフター』などの映画が視聴可能になった。
これらの21世紀フォックスの作品は、ディズニーがすでに過去に買収した『スター・ウォーズ』や『インディ・ジョーンズ』を生んだルーカスフィルム(LucasFilm)やマーベル(Marvel)などの作品とともに魅力的なライブラリーに加わることになる。
21世紀フォックスとの契約でディズニーはフールーの支配権を得た
エリザベス・モス(Elisabeth Moss)主演の「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」。
Sophie Giraud/Hulu
フール―(Hulu)は所有形態が複雑だったが、現在はディズニーが会社の過半数を所有し、このストリーミング・プラットフォームの運営を維持している。
ディズニーは、21世紀フォックスの買収により、2007年にサービスを開始したストリーミングサービスの元祖のひとつであるフールーの株式の60%を取得した。その後、アメリカの通信大手AT&Tが保有する9.5%の株式を取得し、フールーへの出資比率は約70%となった。
他の株主はコムキャスト(Comcast)のみで、2019年の契約で最低でも21%の保有が保証されている。
ディズニーはディズニープラス、フールー、ESPN+をセットにした13.99ドル(約1537円)のバンドルサービスも提供している。
ネットフリックスは、2021年4月にソニーとの契約を発表
トム・ホランドはMCUの5作品でスパイダーマンを演じている。
Sony Pictures Releasing
この契約により、ネットフリックスは、トム・ホランド(Tom Holland)を起用した『スパイダーマン』シリーズを含む、ソニー(Sony)の2022年以降の作品をアメリカ国内で提供できるようになる。今後のソニーの作品としては『ジュマンジ 』や 『ゴーストバスターズ』などが考えられる。2022年に劇場公開されたソニー映画は、まずペイパービューでの配信に移行し、その後ネットフリックスに登場する予定だ。
Insiderのトラヴィス・クラーク(Travis Clark)が報じたように、この契約は、独自のストリーミング・プラットフォームを持たないソニーに、自社の映画を紹介する手段を提供する。また、ネットフリックスにとっても、有料会員を引きつけるための劇場公開作品が増えることになる。
ネットフリックスでの配信後、ディズニープラスもソニーの映画を配信
『スパイダーマン』のトム・ホランド。
Chuck Zlotnick/Sony Pictures Entertainment
ソニーの映画は、2022年に劇場で公開され、ペイパービュー配信を経て、ネットフリックスで18カ月間配信された後、ディズニープラスとフールーでも配信される。ソニーとディズニーは、この米国でのライセンス契約が2022年から2026年まで有効だと発表した。
この契約により、今後の『スパイダーマン』映画は最終的に、トム・ホランドが出演するディズニー所有のマーベル映画と同様にディズニープラスが本拠地となる可能性がある。
ソニーとディズニーは過去に、ソニーが保有する何百ものマーベルのキャラクターの映画化権と、ディズニーが保有するマーベルの作品を巡って対立していた。その解決策は、スパイダーマンを、もう1本の独立した『スパイダーマン』映画と、マーベル・シネマティック・ユニバース(Marvel Cinematic Universe)の別の作品に出演させることだった。
AT&Tによるワーナーメディアとディスカバリーの合併は、新たな「ストリーミング・ジャイアント」の誕生につながる
『ワンダーウーマン1984』。
Warner Bros.
AT&Tは、2021年5月17日、2018年に810億ドル(約8兆9000億円)で買収したHBOやワーナー・ブラザース(Warner Bros.)を含むコンテンツ部門、ワーナー・メディア(WarnerMedia)(買収当時の社名はタイム・ワーナー:Time Warner)をスピンオフすると発表した。AT&Tは、ワーナーメディアをメディア企業のディズカバリー(Discovery)と合併する計画だ。
つまり、HGTVやディスカバリーなど、両社の100以上のブランドのコンテンツが、すべてひとつの傘下に存在することになる。そのようなサービスが誕生すれば、ストリーミングの王者として君臨するネットフリックスに一矢報いることができるかもしれない。この契約は2022年半ばに完了する予定だ。
ディスカバリー・プラス(Discovery Plus)は、2021年1月初旬にすでにサービスを開始しており、フード・ネットワーク(Food Network)、HGTV、TLC、BBC、そして『シャーク・ウィーク(Shark Week)』を放送するディスカバリー・チャンネル(Discovery Channel)の番組を、4.99ドル(約550円)から視聴することができる。このサービスは2021年に開始された新しいストリーミングサービスである。
アマゾンが買収するMGMは最も古く、最も愛されている、名作映画の宝庫
長年親しまれている『007』シリーズの歴代ジェームズ・ボンド。
MGM/UA Distribution Co/United International Pictures
アマゾンは85億ドル(約9400億円)を投じてMGMホールディングス(MGM Holdings)を買収する。97年の歴史を持つMGMは、有名な映画やテレビ番組を生み出している。アマゾンは、「4000本以上の映画」と「1万7000本のテレビ番組」が買収の大きな要因だったと述べている。
MGMの映画には、アンソニー・ホプキンス(Anthony Hopkins)主演の『羊たちの沈黙』や『ロッキー』シリーズ、ジェームズ・ボンドの『007』シリーズなどの映画の膨大なカタログなどが含まれている。しかし、Insiderのトラヴィス・クラーク記者が報じたように、MGMは『007』の権利の半分しか所有しておらず、残りの権利はフランチャイズのクリエイティブな方向性を担当するプロデューサーに属している。つまり、アマゾンがジェームズ・ボンドを主役にするテレビシリーズを制作しようとすると、厄介なことになるかもしれない。
バイアコムは2019年にCBSと合併した。パラマウントはすでに同社の傘下に入っている
『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』のエミリー・ブラント。
Paramount
バイアコム(Viacom)がパラマウント(Paramount)を買収したのは1994年だったが、21世紀のストリーミング戦争に向け、バイアコムはうまく準備したと言えるだろう。そして、2019年の同社とCBSとの合併も同様である。
ストリーミングサービスのCBSオールアクセス(CBS All Access)は2014年に開始されたが、パンデミックの影響でストリーミングブームが起きたため、2020年にパラマウントプラス(Paramount Plus)にブランド名を変更をした。
パラマウント・ピクチャーズ(Paramount Pictures)が配給しているエミリー・ブラント(Emily Blunt)主演の『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』は、2021年7月12日からパラマウントプラスで配信される予定だ。
(翻訳:大場真由子、編集:Toshihiko Inoue)