世界トップシェアのPCメーカーであるレノボは、2020年過去最高益を記録した。
撮影:小林優多郎
NECパーソナルコンピュータや富士通クライアントコンピューティング(FCCL)を傘下に持つPCメーカー大手のレノボは5月27日(現地時間)、2020年通期決算を発表した。
米調査会社IDCによると、レノボの2020年のPC市場シェア(出荷台数ベース)は1位の24%。推定出荷台数は2019年が6485万台だったのに対し、2020年は7266万台と台数ベースで12%伸びている。
レノボの2020年通期決算のサマリー。
出典:レノボ
その好調さは決算にも表れた。売上高は約607億ドル(前年比20%増、約6兆6668億円)、純利益は約11億7800万ドル(同77%増、約1294億円)と、いずれもレノボ史上最高を記録。コロナ禍で急増したPC需要の追い風を感じさせる。
2020年と今後のPC市場のトレンドはどうなるのか? レノボのコーポレート・プレジデント兼COO(最高執行責任者)のジャンフランコ・ランチ(Gianfranco Lanci)氏が、Business Insider Japanの単独インタビューに応じた。
「半導体不足=CPU不足」は正確ではない
レノボのコーポレート・プレジデント兼COO(最高執行責任者)を務めるジャンフランコ・ランチ氏。
画像:編集部によるスクリーンショット。
コロナ禍初期のサプライチェーンの混乱や、世界的な需要増により、半導体部品の不足は全世界的な問題になっている。PCはもちろん、自動車業界も危機感を持っており、身近なところでは新型ゲーム機「PlayStation 5」の供給不足などもここに起因する部分がある。
レノボの視点で見る半導体不足とはどんなものだったのか。ランチ氏は、まず足りていない半導体は、CPU(中央演算処理装置)ではない、と強調する。
「CPUだけが問題ではない。(インテル製だけではなく)AMD製やクアルコム製のものはまだまだある。
何が不足しているかと言えば、(ICチップのような、非常に)安くて小さなコンポーネントだ。今は2nd Tier、3rd Tierのサプライヤーが供給しており、台湾や日本の工場で製造されている。
不足している理由は、PCも(半導体を必要とする)1つ(の産業)ではあるが、色々なものの電子化が進んでいるからだ。洗濯機や冷蔵庫などのスマートマシン化が進んでいる」
日本のPCメーカーで言えば、NECや富士通。スマートフォンで言えば、モトローラなど、レノボは傘下にさまざまな企業やブランドを持つ。
撮影:小林優多郎
その上でランチ氏は、レノボが比較的に安定してこうした部材を確保できた理由を「グローバルに広がる製造拠点」と「スケール感を持った上でのサプライヤーとの交渉」の2点にあるという。
レノボは日本を含め世界160以上の国や地域に拠点を持っている。こうしたネットワークによって柔軟な部材の調整が可能になり、かつ出荷効率を上げていると言う。
また、2019〜2020年にかけて米中摩擦が激化。スマートフォン業界ではファーウェイがアメリカでの販売や企業と取引が事実上不可能となった。
レノボグループ(聯想集団)は香港に本社を持つ企業だが、ビジネスは順調だ。その理由についてもランチ氏は各国に拠点や工場を持ち、人材を採用する「グローバル企業であることが(中国メーカーとみなされずビジネスを続けられる)その理由の1つ」だと、自身の考えを示した。
実際レノボは各国に現地工場を持っており、ランチ氏は「製造拠点の50%以上が自社のもの」であると述べている(日本にも山形県にNECパーソナルコンピュータの米沢事業場があり、ThinkPadやNECブランド PCの開発や製造をしている)。
低コスト勝負のChromebookでも「利益は出ている」
Chromebookは日本だけではなく、グローバルで大きな成長を遂げている。
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PC業界における2020年の重要トピックの1つに、グーグルのChromeOSを搭載した「Chromebook」の台頭がある。
アメリカなどでは以前より教育市場を中心に人気を誇っていたが、日本ではGIGAスクール構想による学校単位での導入が一気に促進された。日本の教育市場の“陣取り合戦”においては、「GIGAスクールの明白な勝者はグーグル」とも言える規模感になりつつある。
レノボの2020年第4四半期において、Chromebookは他のどのセグメントのPC/スマート機器より、圧倒的に高い成長率を示している。マーケット自体の成長速度を、レノボ製は上回ると決算でレポートした。
出典:レノボ
レノボ製Chromebookのグローバル市場での成長率は、2020年第4四半期で前年同期比約4.7倍、通年でも3倍以上(レノボ・ジャパン広報)で、他のタブレットやゲーミングPC、薄型軽量モデルのPCと比べて圧倒的な成長スピードと言える。
しかし、Chromebookは比較的安価なモデルが多い。つまり、高価格帯製品も売れているWindows PCに比べて、構造的に利益が出しにくい。
ランチ氏は、Chromebookのビジネスモデルについて「(薄利のビジネスではないかという指摘は)感覚としては正しい」としつつも「利益は出ている」とした。
「しっかりしたスケール感を持って製造をしており、“利益は問題なく出ている”のが現状だ。
もちろん他のコマーシャル製品(法人向け製品)に比べれば、利益の額は小さくなるが、きちんと利益が出る。台数も非常に大きく稼いでいる。
今後、10億単位の学生の皆さんが(PCを)必要とするようになる。パンデミックだけではなく、良き市民として、我々だけではなく競合企業も含めて、Chromebookを学生の皆さんに届けたいという気持ちは同じだ」
2021年は2桁成長ならずも「PCのニーズは不変」
半導体不足問題、米中摩擦、コロナ禍によるマーケットの変化など、大きなトピックが渦巻くPC業界。2021年以降の市場予想をレノボはどうみているのか。
ランチ氏は「(2021年は)2桁の成長はしないだろう」と慎重な姿勢を見せつつも、「継続してPCのニーズは伸びていく」と語った。
「18カ月前(コロナ禍になる前)と2020年を比べると、人々のPCに対する意識や行動が変わった。
もともとスマートフォンで映画やゲームなどのエンタメ系を(消費者は)見ていたが、視聴体験がPCとスマホだと違う、ということに(この生活の中で)気づいた。
それにより、スマホで使っていたアプリ(やサービス)をPCに移行させていく形で、PCの需要は大きく高まった。こうした傾向は、今後も続いていくだろう」
ランチ氏はこの世界的なパンデミックが終息に近づいた後も、「リプレイスのニーズもある(今後も続く)」として、コロナ禍で再評価が進む“PCの価値”について自信を見せた。