撮影:編集部
この1年、シェアサイクルの需要が伸びる一方で、2021年4月23日には渋谷区を中心に注目を集める小型モビリティの「シェア」型サービスが始まった。
電動キックボードなどの電動モビリティを開発するLuupが、経済産業省の新事業特例制度を利用して、電動キックボードのシェアリングサービスをスタートしたのだ。
特集「半径1キロのモビリティ革命」第4回では、コロナ下で存在感を増してきた「シェア型の移動手段」として、シェア電動キックボードの「Luup」、電動アシスト自転車のドコモ・バイクシェアを取り上げる。“所有せずに使う”という「ラストワンマイル」の移動手段はいま、どう変わったのか。
電動キックボード:「初乗り10分110円」実証開始、1カ月の手応え
渋谷を中心に、Luupの電動キックボードを目にする機会が増えている。なお、ナンバープレートがついていない電動キックボードは違法である。
撮影:伊藤有
Luupが提供する電動キックボードは、海外の観光地などを中心に、2017年ごろから普及し始めていたものの「日本版」と言えるもの。
国内では道路交通法で「原動機付自転車」(以下、原付)に分類されることから、Luupをはじめとした業界団体は、安全かつより手軽に利用することを目的に、規制緩和のための実証試験を続けてきた。
今回の実証試験では、電動キックボードを「小型特殊自動車」として分類しており、速度制限や、交通ルールが原付と異なる(詳しくはこちら)。
Luupは2020年5月から渋谷区を中心に小型の電動アシスト自転車のシェアリング事業を開始しており、1年で約300台の自転車を設置してきた。
Luup岡井大輝代表。4月中旬、電動キックボードのシェアリングサービス開始を発表した記者会見での様子。
撮影:三ツ村崇志
電動キックボードのシェアリングサービスの開始時には、既存のシェアサイクルの設置場所(ポート)のキャパシティの拡大やポートの新設によって、電動キックボードをまずは100台設置した。サービスから約1カ月経過した5月末の段階では、その数は約200台まで増えている。
Luupの岡井大輝代表は、サービス拡大の現状について次のように語る。
「(Luupの)シェアサイクルはずっと伸び続けてきました。普通、冬は利用が3〜4割落ち込むと言われているのですが、ずっと微増でした。
電動キックボードについては、サービス開始以降、思った以上にリピートしていただいています」
サービス拡大にあたってのネックは、「車両の供給」だ。現状、自転車も電動キックボードも、コロナ禍で海外の製造ラインに遅れが見られ、供給が間に合っていない状況だ。
2021年5月末の段階で、Luupのシェアサイクルを使っているのはユーザー全体の2〜3割程度。大半が電動キックボードユーザーだという。ただし、電動キックボードのシェアリングの開始にともない、Luup自体の認知度が大きく向上したことで、シェアサイクルの需要も増しているという。
「自転車と電動キックボードの需要は、ユーザーの間でも真っ二つに割れています。おそらく走行距離などに応じて使い方が分かれているのだと思います」(岡井代表)
通勤・通学などの利用や、場合によって3〜4kmの移動に使われることもあるシェアサイクルに対して、電動キックボードはさらに短い1km程度の移動で使われるケースが多いという。
ラストワンマイルの移動手段の経済効果
左がLuupのアプリに示された渋谷近辺のポート。右は、シェアサイクルサービスを提供するドコモ・バイクシェアのアプリ上に表示されるシェアサイクルのポート。
Luupのアプリ画面、ドコモ・バイクシェアのアプリ画面よりキャプチャ
Luupのシェアサイクルやシェア電動キックボードのサービスは、既存のシェアサイクルサービスと比較して、高密度に小規模のポートを設置する戦略を取っている。
つまり、これまでなら歩くには少し距離があると思われていた「駅と駅の間」に、より細かく移動時のハブとなるポート(マイクロな駅)が設置されているというわけだ。
岡井代表は、2020年5月にシェアサイクルサービスを開始して以降、不動産会社からの問い合わせが増えていると話す。
「マンション入居者やテナントビルに入っている企業から不動産会社に『Luupを設置しないのか?』と声をかけていただいているケースが多いようです。最近、新しく設置しているポートは、ほとんど不動産関係のものです」(岡井代表)
ラストワンマイルの手軽な移動手段が、地域経済へ寄与しつつある現状が垣間見えている。
一方で、岡井代表は5月中旬の記者会見でも、この先にさらに新しい電動モビリティが登場する未来を予感させる発言をしている。その趣旨を改めて聞くと、次のように答えた。
「キックボードは構造的に自立している人のためのものです。危ないと思ったら降りられるからこそ、安全だという側面があります。駅から離れた不動産の価値があがったとして、そこに住んでいる人は必ずしも若い人だけではありません」(岡井代表)
電動アシスト自転車:コロナ禍で過去最高「1400万回利用」
ドコモ・バイクシェアが提供する電動アシスト自転車。
撮影:三ツ村崇志
2020年を通じて、「密」を避ける生活スタイルが定着して行く中で、在宅ワークの推進などもあって、日常生活の重心が自宅周辺に傾いた。そこで新たな利用価値が見い出されたのが、自転車のシェアリングサービスだ。
ドコモ・バイクシェアは、北は北海道から南は沖縄まで、東京都内を中心として、全国33エリア(内、13エリアではシステム提供のみ)で電動アシスト自転車のシェアリングサービスを提供する。2021年3月末の段階で登録者数は100万人を超えた。
2011年のサービス開始以来、利用回数は年々増加している。
2020年度は過去最高となる1400万回(内、都内で約1200万回)を越える利用があった。都内だけでも、920カ所のポートに9400台の自転車を設置している(2021年3月段階)。
ドコモ・バイクシェアによると、朝晩の通勤や通学での利用が6割程度。日中に営業の足に使う会社員がさらに3割程度いる、と分析している。
1度目の緊急事態宣言では、大多数を占める通勤・通学や営業での利用が減少した。
しかし、ドコモ・バイクシェアの堀清敬代表は、
「コロナ禍では、休日には近場のレジャー利用(サイクリングなど)もそうですし、あとは(Uber Eatsなどの)配達員の方々が想像以上に使って頂いている実態がありました。1度目の緊急事態宣言以降は、通勤などの需要も戻ってきており、結果としてトータルの利用回数は対前年で200万回ほど伸びました」
とコロナ禍での利用スタイルの変化を語った。
「今まで存在しなかった移動手段」を提供
コロナ禍では、自転車で配達するUber Eatsなどのサービスが躍進。街中で配達員を見かける機会が増えた。中には、シェアリングサイクルを利用している配達員もみられる。
REUTERS/Issei Kato
ドコモ・バイクシェアにとっての転機は2016年2月。サービス開始当初は自治体をまたいで自転車を返却することができなかったが、東京都内の複数の区が連携することで、たとえば渋谷区で借りた自転車を中央区に返却するといった利用が可能となった。
現在では、都内11区(千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、江東区、品川区、目黒区、大田区、渋谷区、中野区)で区をまたいだ移動が実現され、圧倒的に利便性が増した。
また、ルート検索アプリのNAVITIMEなどと連携することで、JRや地下鉄など複数ある移動手段の一つとしてシェアサイクルを組み合わせたルートを提示することも実現している。
「自転車のポートの設置場所は、公園や普通のオフィス街のビル下など、バス停もなければ駅もない場所です。まさにラストワンマイルで、今まで存在していなかった移動手段を提供しているという認識です」(堀代表)
あらゆるモビリティを「1つのID」で
既存の移動手段に加えて、シェアサイクルを組み込んだルート検索で、移動の幅が広がる。
NAVITIMEよりキャプチャー
ドコモ・バイクシェアでは、自社のシェアサイクル事業を進める一方で、システムのみの提供も進めている。堀代表は、
「数年後にシェアサイクルの利用回数が3000万回になっていることはおそらくないと思いますが、サービス提供エリア(システムのみ提供も含む)が2倍になっていてもおかしくはないと思います」
と今後について語る。
朝晩の通勤需要しか見込めない住宅地では、1日に何回も利用されることを前提としたシェアサイクルは普及しにくい。しかし、コミュニティバスやタクシー会社などと連携して、ローカライズしたサービスが実現できる可能性はある。
「今後、自転車に限らず、電動車椅子、電動キックボードなど、さまざまなマイクロモビリティが、環境にあった形でシェアされるようになると思っています。ドコモ・バイクシェアとしても自転車以外のマイクロモビリティにも挑戦したい」(堀代表)
さまざまなモビリティのシェアサービスにドコモ・バイクシェアのシステムを搭載できれば、ユーザーは1つのIDであらゆるモビリティを利用可能になる。
すでに多地域のシェアリングサービスを同一システムで制御しているドコモ・バイクシェアは、「モビリティ業界のスーパーアプリ」になるポテンシャルは、確かにあるのかもしれない。
近年、小型の電動モビリティの開発にはトヨタなどの大企業も含めて非常に多くの企業が参画している。その中で、高齢者でも乗車できる、3輪や4輪の電動モビリティの開発も進められている。
前出のLuupの岡井代表も、新たなモビリティへの意欲を燃やしている。
「iPhoneが登場してから、iPadが出てくるまでは早かったですよね。(電動モビリティも似たように)あとはサイズ感とかフレームの問題だと思います。2023年までに、Luupでも(3輪や4輪のモビリティを)社会実装したいと公言しています」(岡井代表)
(文・三ツ村崇志)
編集部:記事中で紹介していたドコモ・バイクシェアのアプリ画面が古いアプリのものだったため、最新のものに入れ替えました。2021年6月3日12:35