4月の上海モーターショーで自動車ソリューション「Huawei Inside」を披露し、話題をさらったファーウェイ。
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スマホメーカーのOPPO、テレビメーカーの創維(スカイワース)、さらに物流大手の順豊控股(SFホールディング)……これらは2021年5月にEV参入が報じられた企業の一部だ。メガIT企業の参入表明が一段落し、どういった競争優位が発揮できるかはっきりしない企業までも、自動車との関わりを求められる空気がある。
4回連載の最終回は、2021年時点の全体像をつかむためにEVの異業種参入において注目される3つのポイントを紹介する。
ポイント1:「造車」か否か
2021年に参入を発表した企業が実際にEVを発売するのは、早くて2022年~2023年。それまでに市場環境や政策が大きく変わる可能性は当然ある。EVが巨額の資金と膨大なノウハウを必要とする高リスクビジネスである点は、この数年で広く認知されており、最初に注目されるのは「自動車を製造する(造車)か否か」だ。
バイドゥ(百度)は2010年代前半から自動運転技術に投資し、BATの中では自動車産業との距離が最も近いと見なされてきたが、2021年1月に「造車」に参入すると発表したときには大きなニュースになった。
何度も「造車」を始めると報道され、その都度強く否定しているのがファーウェイ(華為技術)だ。4月下旬にはロイターが「特ダネ」として「ファーウェイが自動車メーカーに出資し、造車にも乗り出す」と報じたが、ファーウェイは5月下旬、またしても否定コメントを発表。関わりの深い自動車メーカーの株価が一斉に下落する結果まで招いた。
ブランド力のある企業の自動車産業進出は、既存メーカーにとっては脅威にもなる。ファーウェイは、メーカーのパイを侵食することなく、むしろイノベーションを支援する「全方位外交」のスタンスを打ち出している(ドローン大手のDJIも、ファーウェイに近い立ち位置で自動運転技術に参入している)が、今後も期待混じりの「造車」報道は何度も出てくるだろう。
ポイント2:プラットフォーマーかメーカーか
次の注目点は、EVに参入したIT企業が自動車メーカーを目指しているかどうかということだ。
中国メガITの多くは、EVをITデバイスの進化系と捉え、単なるメーカーではなくプラットフォーマーの地位を目指している。自動車業界のAndroidを志向する鴻海精密工業(ホンハイ)やバイドゥはその典型であるし、ファーウェイも車体こそ生産しないものの、技術提供した車に「Huawei Inside(HI)」というロゴを表示している。
ホンハイは民営自動車メーカーの浙江吉利控股集団と提携し、EVを受注生産するビジネスモデルを描いている。技術や生産設備に投資せずにEV生産が可能になれば、ブランド力のある異業種が自主ブランド製品を出しやすくなる。
中国最大の配車サービス企業のDiDi(滴滴出行)は、既に10万人を超えるドライバーと契約しており、潜在顧客数で他を圧倒している。契約ドライバーにEVを提供しながら、徐々に無人化を進めていく方針で、こちらも既存産業を破壊するビジネスモデルを提示している。
一方シャオミ(小米科技)は、アライアンスを形成せず自力でEV生産に動いており、よりメーカー志向が強い。これはシャオミがもともと、スマホメーカー、家電メーカーであることと関係しているだろう。
ポイント3:ブランド力の生かし方
スマホメーカーとしてグローバルでも大きなシェアを持つファーウェイとシャオミは、特定の自動車メーカーと組まなかった。2社に共通しているのは、スマホ分野で10年にわたってファン基盤とブランド力を構築してきた点だ。
シャオミは100%出資の子会社を設立し、シャオミユーザーをメインターゲットにEVを生産しようとしている。スマホや家電のラインナップにEVを追加するイメージだ。
対してファーウェイは自社のブランド力を提供し、提携メーカーの競争力を高める手法を取った。ファーウェイと中堅メーカーの重慶金康賽力斯汽車(セレス)が4月に共同発表したSUV「セレス・ファーウェイSF5」は、ファーウェイのスマホ販売店5000店舗でも予約を受け付け、発売2日で予約数は3000台を突破した。
ファーウェイは今後、長城汽車など大手メーカーともコラボ車種の発売を予定している。ホンハイやバイドゥのように「造車」に手を出さない分、ファーウェイブランドが乗っかった車種を早めに市場に投入できる。
2021年前半はメガITのEV進出ラッシュが続いたが、後半は不動産大手「恒大集団」や鴻海に救済された高級EVメーカー「BYTON(バイトン)」など、数年前からEV開発に取り組んでいる企業の量産車発売の進展が注目され、また、4月に中国での販売台数が落ち込んだテスラの動きなども引き続き関心を集めそうだ。
浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。最新刊『新型コロナ VS 中国14億人』。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。