航空会社で働き続けたい、でも…。JAL・ANAから出向するCAら3人が語った思い

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JALとANA、それぞれのグループは他業種への出向を増やしている。

REUTERS/Kim Kyung-Hoon,REUTERS/Issei Kato

コロナ禍で壊滅的な打撃を受けている航空業界。国際線、国内線ともに減便が続き、日本航空(JAL)は2021年3月期の通期決算で2866億円の最終赤字を計上。ANAホールディングスの2021年3月期最終赤字も4046億円と過去最大に膨らんだ。

社員の雇用を維持するため、両グループは社員の身分のままで他社への出向を増やしている。

JALでは地方自治体やコールセンター、教育機関、家電量販店など、さまざまな業種の130団体に1日当たり1700人が出向。ANAでも2021年4月までの累積出向者が約750人になっている。

実際に出向中の社員からは「会社のために何ができるのか出向先でスキルを身につけたい」という前向きな声が聞こえるが、「客室乗務員(CA)として以前のように働くのは難しいかもしれない」という不安の声もある。

「このまま航空会社で働き続けるのか」という問いが突き付けられている今、JAL・ANAから他社に出向中の社員3人に話を聞いた。

ケース1:JALのCAからコールセンターに出向

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コールセンターにJALから出向している岡崎裕美さん。

撮影:横山耕太郎

JALグループの出向者は2021年5月現在、1日あたり約1700人にまで拡大している。

JALの赤坂祐二社長は日本経済新聞のインタビューで、出向の人数について「1日あたり2000人」まで拡大する可能性に触れている(5月31日、日本経済新聞)。

JALグループからの出向者を1日90人~100人受け入れているのが、コールセンターを運営するテレコメディア(東京都豊島区)だ。2021年4月から同社に出向しているJALの客室乗務員・岡崎裕美さんは、「コールセンターでの経験は、客室乗務員の業務にも役立つはず」と話す。

岡崎さんの現在の業務は、企業に電話をかけて、アンケート調査への協力を依頼する業務だ。

「電話では表情が分からないため、声色から判断する必要があります。全く新しい仕事で転職した気分ですが、客室乗務員としてもコロナ禍のマスクで表情が分かりにくいお客さまへの対応にも生かせるスキルだと考えております」

岡崎さんは2007年に入社。国内線から国際線のファーストクラスまで経験し、その後、産休・育休からの復帰後は、主に国内線と近距離の国際線を担当していた。

「転職は全く考えていない」

コロナの影響で2020年2月以降は、搭乗回数が激減。コロナ前までは、月に半分以上は乗務していたが、コロナ後は月に数回しか乗務がない時もあった。

岡崎さんが出向を考え始めたきっかけは、他業界に出向している社員を紹介した社内向けの配信記事を読んだことだ。

「コロナ前のように仕事ができるようになるまでは、できる範囲で社会や会社に貢献したいと考えて応募しました。当初は4月から1カ月間の出向予定でしたが、期間延長に手をあげて、6月まではこちらで働かせていただくことになりました」

コロナの終息は見えないが、「転職は全く考えていません。客室乗務員の仕事が好きなので」と話した。

ケース2:ANAのフライトインチャージからコンサル企業へ

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ANAから建設業界のコンサル企業に出向している西端詩織さん。

撮影:横山耕太郎

「お客様が激減した空港で、自分に何ができるのかを考えながら働いてきましたが、正直、当時の現状に行き詰まりも感じていました。出向は3月に始まったばかりですが、航空業界とは別の環境で客観的にANAを見ることができる環境に身を置きながら、『何か役立つスキルを身につけられるかもしれない』と、夢を見られていると感じます

2021年3月中旬から、建設業でのコンサル事業を手掛ける山下PMC(東京都中央区)に出向している西端詩織さん(29)はそう話す。

西端さんは2014年、ANAグループのANAエアポートサービスに入社。直近では羽田空港内で航空機の発着に伴う工程管理などの業務を担うフライトインチャージの責任者を務めていた。

「安全に定時運航するため、現場で何を優先するのかをマネジメントするのが仕事です。常にバタバタしている職場ですが、常に何かが起き続ける、その忙しさにやりがいを感じていました

そんな空港での様子は2020年3月に一変した。

かつて見たことないぐらいお客様がいなくなりました。お客様からの問い合わせに対応できるように、接客係を空港のいたるところに配置するのですが、お客様3人に係員が5人ぐらいで対応するような時もありました」

新型コロナの影響でANA国内線の運航便は、一時コロナ前の2割以下まで減便に。ANAグループでは2020年4月から一時的に休日を増やす「一時帰休制度」を開始。休日が増えても休業補償で給与を保障する制度で、現時点でグループ全体の約4万3000人が対象になっている。

西端さんはこれまで「4日働いて2日休む」を繰り返す勤務シフトだったが、一時帰休制度により「3日働いて3日休む」シフトに変更になった。

「空港に出勤しても以前の忙しさはありません。運航便の遅れに対応するのが仕事のひとつでしたが、待機している航空機も多かったため、代替便の使用で出発が遅れることもな少なくなりました。同僚含めて、このような状況で自分たちは何をすべきかを考えながら働く日々が続きました

予想外の出向に「驚き」

ANAグループでは過去にもグループ外への出向制度があったが、2020年10月から新型コロナの影響で外部への出向を本格化させた。2020年12月の出向者は100人程度だったが、2021年4月時点で出向者の累計は750人を超えている。

西端さんは自ら公募に手を上げなかったが、上司には「新しいことに挑戦したい」という意思は伝えていた。

「公募先のリストは見ていたのですが、『この仕事がしたい』というイメージはなく、自主的には応募しませんでした。ただグループ内での異動は、コロナ前から頻繁にあったので、今の部署が長かった私は、他部署への異動の可能性は感じていました」

2020年3月に上司との面談で伝えられたのが、建設業界のコンサル企業への出向だった。

「最初は驚きました。ただ、もともとポジティブに考える性格。翌日には『転職せずに新たな職に挑戦できるチャンス』だと思えました」

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同じくANAから山下PMCに出向している社員3人と話し合う西端さん(右)。

撮影:横山耕太郎

現在、ANAから山下PMCに出向している社員は西端さんを含め12人。20代後半から30代前半の若い社員が中心で、西端さんはイノベーション戦略室のチーフという肩書で迎えられた。

西端さんは、4月にローンチしたばかりのアプリケーションの営業を担当。不動産やディベロッパー向けのサービスだが、上司の営業に同行したり、アプリを使った感想を開発にフィードバックしたりする仕事を担っている。

「旅客サービスの仕事は、お客様から来てもらうもので、こちらから営業することはない。資料にしても内部用のも資料しか作った経験がなく、社会人として知らないことばかりだと痛感しています。いまは何もかもが勉強になっています」

西端さんらANAの社員を受け入れた理由について、山下PMC取締役専務執行役員の木下雅幸氏はこう話す。

「クライアントのビジョンを、違う視点からとらえてくれることに期待している。新しいものを生み出す時に、自社のリソースだけでは限界がある。出向制度は可能性を秘めており、今後もっと普及するのではないか」

西端さんの出向期間は、現状では2021年3月から2021年9月まで。延長の可能性もあるが、半年間の出向を終えると、羽田空港の業務に戻ることが約束されている。

一方でこの出向制度が、出向社員の他社への転職につながる可能性もあるだろう。

私自身は今すぐに転職することは考えていませんが、出向を通じてやりがいを見出せる仕事に出会うこともあると思います。その中で、転職に繋がる人もいるんじゃないかと感じます。

出向させてもらっている身としては、現場から離れて経験を積み、戻った時にそのスキルを活かして成長していきたい。具体的に何ができるか分かりませんが、0(ゼロ)から1に、新しい事業を作ることが必要になると感じています

ケース3:CAからITへ、グループ内で出向

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匿名で取材に応じた客室乗務員の女性は、CAとして働き続けられるか不安は大きいと話す(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

一方、航空業界そのものの未来に限界を感じる社員もいる。

「JALもANAも巨額の赤字を抱えており、計画通りに黒字化できるのか疑問です。コロナで以前のようなビジネス需要は、もう見込めないと感じています

匿名で取材に応じた大手航空会社で客室乗務員として働く30代のNさんは、これまでと同じようにCAの業務を続けることは難しくなる可能性もあると感じている。

Nさんは現在、航空会社のグループ会社に出向中。Nさんの場合は、コロナによる措置としての他社への出向ではなく、コロナ前からの制度であるグループ内での出向し、ITに関する業務を担当している。

「ラッキーなことに出向先の業績は好調です。私の場合は、他の企業でも必要とされるスキルを身につけられていると感じています」

一方で、コロナ対策として進んでいる出向制度については、「期間は長くても1年。未経験からはじめて、重要な仕事を任せられるのは難しいのではないか」と話す。

「私たちCAは、CAになりたくてなった人がほとんど。すぐに転職を考えている人は少ないです。JALは一度つぶれても生き延びているという実態もあり、『航空業界は何とかなる』と感じている節もある

一方で、本社の総合職では転職者が相次いでいるという。

「ボーナスが出ない状況が続いており、社員への説明の場では『この給与でやってくれる人しか会社はいらないのですか?』という意見が上がったと聞きました

Nさんは今後について、次のように語った。

「もちろん以前のようにCAとして、国内外を飛び回りたい。ですが、現状が好転する確証はまだ持てません。今は航空事業以外のスキルを身につけることで、グループ内での転籍も可能になると思って出向しています」

航空業界だけではない

コロナ禍では憧れる人も多い花形業界ということもあって、航空会社の社員出向が大きな注目を集めた。

しかし、技術革新や経済環境の変化のスピードがどんどん早まる現代社会で、これまでの業界や業種で、仕事がなくなるという状況は、誰の身にも起こりえることだ。

人生100年時代、多くの人が70年働くことになるとも言われる今、企業の寿命よりも、人が働き続ける期間の方が長くなりつつある。時代の趨勢で、業界ごと沈んでいくケースもある。

これまで仕事で身につけたスキルを他の業界・職種でどう生かしていくのか。自分のスキルは異業種・異業界への転職でどんな汎用性を持つのか。航空業界に突き付けられている問いは、まさに私たちへの問いでもある。

(文・横山耕太郎

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