6月に採用面接が解禁され、大手企業などでは一気に面接が始まっている。写真は2021年3月の合同企業説明会で撮影。
撮影:横山耕太郎
2022年卒業の学生らを対象にした採用面接が6月1日に解禁され、就職活動が本格化している。しかし、コロナ禍の就活生はこれまでにない課題に直面している。
それは採用面接で最もよく質問される「学生時代にがんばったことは何ですか?」といった質問に対し、うまく合致する経験がないということだ。
「学生時代に力を入れたこと」は、就活生には「ガクチカ」と呼ばれ、面接で最も定番の質問とされる。
コロナ前までの「ガクチカ」は、サークルや部活、アルバイト、学園祭、留学などがほとんどだった。ところが、コロナ禍で大学生活が大幅に制限され、こうした活動が中止に追い込まれた経験を持つ就活生も少なくない。
現在就職活動中の大学4年生や、就活のために今から長期インターンに参加しているという大学3年生らに話を聞いた。
大手志望「周囲を巻き込んだ話」に困惑
「『チームワークを発揮したエピソード』について面接で聞かれたら、どう答えたらいいのか不安です。コロナでオンライン漬けの学生生活で、チームでの活動はしたくてもできなかった。面接で聞かれても、正直思いつきません」
都内の私立大学に通うTさん(22歳、女性)は、第1志望群の面接の真っただ中だ。大手企業の面接は6月から一斉に始まり、1日に3件も面接が入っている日もあるという。
Tさんは大学で軽音楽サークルに所属。キーボードを担当し、3つのバンドを組んでいたが、2020年春から完全にバンドの活動がストップした。
エントリーシートではこれまで何度も、「周囲を巻き込み、協力して成し遂げた経験」などチームワークについてのエピソードを求められてきた。
「バンドはまさにチームワークが求められるのですが、1年以上活動ができていません。一人で頑張ってきたことについては、IT企業での長期インターンについてアピールできるのですが……。
コロナ禍でチームワークを聞くのは、環境によっては厳しい質問だと感じます」
陸上部の大会が中止。オンライン化でアピール
関東の国公立大学のNさん(22歳、女性)は、陸上部の大会が軒並み中止になった。
Nさんの大学は陸上の強豪大学として知られており、コロナ前までは「部活一色」の大学生活だったという。
「平日4~5時間は練習があったのですが、3年になった4月以降は、自宅からオンライン授業を受け、部活もできなくなりました。8月から練習が再開できたものの、練習時間は制限され、公式大会は全てなくなりました」
ただしNさんは「コロナのおかげで逆に時間がとれた面もある」と振り返る。
部活が制限されたこともあり、Nさんは3年の夏から就職活動を始めた。本来は部活が忙しいはずの夏も、サマーインターンに参加。部活ではオンラインならではの新しい取り組みも企画した。
Nさんの大学では、中高生に陸上競技を教える練習会を毎年実施しており、2021年はNさんが中心になりオンラインでの動画配信に切り替えた。
「体育会の学生の場合、『大会で何位』と言えるのが、就活では一番分かりやすいアピールポイントでした。変わりにオンラインでの取り組みを話せてよかった」
Nさんはインターンに参加した企業の早期選考を受け、2021年4月に内々定を得たという。
ボート部の3年生「ガクチカ作りで長期インターン」
「学生時代にがんばったこと」への不安は、大学3年生にも広がっている。
撮影:横山耕太郎
就職活動を来年に控えた2023年卒業の大学3年生も、就活に危機感を覚えている。
都内の国公立大学3年のKさん(女性、20歳)は、ボート部に所属しているが、年5回以上あった大会は全ての中止・延期になった。そこでKさんは、大学2年の6月から、人材系企業での長期インターンを始めた。
「体育会ブランドは就活での武器でした。それが休みになり『就活どうしよう』と、同期の部員とも話していました。長期インターンで経験を積むことは、体育会ブランドが使えない中でのガクチカ対策でもあります」
長期インターンでは、自宅から企業へアポ入れの電話を掛けるのが主な仕事という。
「部活や通学もなくなり、普段会話するのが、バイト先のオーナーだけという時期もありました。社会人の方と接点を持てることにやりがいを感じています」
ただ、「学生のうちは学生らしく部活に打ち込み、もっと後輩とも交流したいという思いもあります」とも漏らす。
3年生の夏からは、就活の前哨(ぜんしょう)戦ともいえるサマーインターンの選考が始まる。
「コロナで部活の状況が見通せないですが、大会がある場合とない場合、部活の練習が再開できる場合とできない場合、それぞれのパターンを想定して就活を進めていきます」
採用担当者「ガクチカにこだわらない質問を意識」
大手人材企業で採用面接に従事する人事担当者は、「大学時代何をしていたのかと質問しても、なかなか返ってこないことが増えた印象がある」という。
「企業側も、コロナ禍でこれまで通りの大学生活を遅れていないことは理解している。面接では『ガクチカ』にこだわらず、好きなことや興味があること、どんな人物なのかが理解できるように気を付けている」(大手企業の採用担当者)
コロナ禍でオンライン就活が一気に普及するなど、環境面での整備は一気に進んだ。
エン・ジャパンが就活生らに実施したアンケート調査(650人が回答)では、9割以上の就活生が、「オンライン面接のメリットを感じる」と回答しており、オンライン就活はもはや当たり前になった。
一方で、2022年卒の就活生は大学3年になった春以降、学生生活を1年以上も厳しく制限されてきた世代でもある。
コロナ禍の就活では、企業のオンライン対応が注目されてきた。しかし、採用側が向き合うべきは、ツール面の配慮だけではないだろう。学生生活そのものが変化してしまった就活生の現実に対して、採用側も向き合わなくてはならない。
(文・横山耕太郎)