NASAの惑星探査機「マゼラン」と「パイオニア・ヴィーナス・オービター」が捉えた金星の画像を合成して作成されたイメージ。
NASA/JPL-Caltech
- NASAは6月2日、2028年から2030年の間に、金星に向けて新たな2つのミッションを行うことを発表した。
- 「ダビンチ・プラス」ミッションでは、金星の「地獄のような」表面に突入し、「ベリタス」ミッションでは、金星の地図を作成する。
- このミッションにより、金星がどのようにしてこれほど高温になったのか、また生命が存在するのかどうかについての探究が深まると考えられている。
アメリカ航空宇宙局(NASA)が最後に金星に探査機を送ってから30年以上が経過した。
しかし、今後9年以内に、再び地球に最も近いこの惑星に向けて2つのミッションが実行されると、NASAの新長官となったビル・ネルソン(Bill Nelson)が発表した。
ネルソン長官は6月2日、「ダビンチ・プラス(DAVINCI+)」と名付けられたミッションで、金星の表面に探査機を送り、大気の組成を測定すると発表した。もう1つの「ベリタス(VERITAS)」というミッションでは、金星の表面をかつてないほど詳細にマッピングするという。
「この2つのミッションは、金星がどのようにして地表で鉛を溶かすほどの地獄のような世界になったのかを解明することが目的だ」とネルソンは述べている。
「30年以上も訪れていなかった惑星を再び調査するチャンスが、科学界にもたらされることになる」
ダビンチ・プラスとベリタスは、いずれもNASAの第9回ディスカバリー・プログラムのコンペで採択されたミッションだ。低コストで効率のよい太陽系内探査を目指すこのプログラムでは、1992年以来、20のミッションに資金を供給してきた。火星で地震を検出した探査機「インサイト(Insight)」もその1つだ。
今回採択されなかったのは、木星の衛星イオと海王星の衛星トリトンに探査機を送るという提案だった。採択された金星へのミッションには、NASAからそれぞれ5億ドル(約550億円)の資金が提供される。探査機は2028年から2030年の間に打ち上げられる予定。
金星の地獄のような光景の謎を解く
金星は地球に似ているが、地獄のように熱い惑星だ。この2つの惑星は大きさ、密度、表面の組成はそっくりだが、金星は太陽系の中でも最も熱い惑星であり、その表面は平均で摂氏471度という恐ろしいほどの高温になっている。
ネルソンは、今後のミッションによって、金星の極端に高い気温の原因が解明される可能性があると述べている。
「これらのミッションによって、地球がどのように進化してきたのか、また、太陽系の他の惑星はそうではないのに、なぜ地球はハビタブルなのかについて理解が深まることを期待している」
ダビンチは「Deep Atmosphere Venus Investigation of Noble gases, Chemistry, and Imaging」の略で、このミッションでは金星の大気中に探査機を突入させ、どのようなガスや元素が存在するかを測定する。また、金星に海があったかどうかを調べたり、テセラと呼ばれる地形を高解像度で撮影したりする。テセラとは、地球でいえば大陸に当たるもので、それを観測することで金星に地球のようなプレートがあったのかどうかが解明されるかもしれないという。
一方、ベリタスは「Venus Emissivity, Radio Science, InSAR, Topography, and Spectroscopy」の略で、このミッションでは、探査機が金星の軌道上に留まり、金星の表面をマッピングする。そして地形を3Dで再現し、地表を構成する岩石の種類を詳細に観測できるようになるという。また、大気中に水蒸気を放出するような活火山があるのかどうかについても調査が進むことが期待されている。
天文学者の間では、金星に生命が存在するかどうかについて論争が繰り広げられてきた。その最中に、今回の2つのミッションが実施されることになる。金星の大気は二酸化炭素で満たされているため、生命は存在しないと思われているが、2020年9月に発表された研究では、金星の雲に微生物が生息している可能性が示唆された。
つまり、地球では微生物によって生成されるガス、リン化水素(ホスフィン)の痕跡が、金星の雲の上層部から見つかったのだ。しかし、その後の研究によると、この痕跡はリン化水素ではなく、二酸化硫黄であることが示唆され、金星には生命が居住可能であるという考えに疑問が投げかけられた。
今回の金星探査で、この論争に決着がつくかもしれない。
「我々がいかに金星について分かっていないかということには驚かされるが、今回のミッションの結果を統合すると、上空の雲から地上の火山、さらには地下深くの核に至るまで、この惑星についてさまざまなことが明らかになるだろう」と、NASAディスカバリープログラムの科学者であるトム・ワグナー(Tom Wagner)は声明で述べた。
「まるで金星を再発見するかのように感じられるはずだ」
木星と海王星の衛星探査はしばらく先
NASAは、金星へのミッションを優先するために、他の2つの提案を見送らなければならなかった。いずれも太陽系の外惑星の衛星に探査機を送るものだった。
ディスカバリー・プログラムの最終候補となったものの、採択されなかった提案の1つが「イオ火山観測」だ。これは太陽系内で最も火山活動が活発な木星の衛星「イオ」に探査機を送り、周回させながら噴火活動が観測できるほど近づけ、地下にマグマの海があるかどうか調査するという提案だった。
もう1つの採択されなかった提案は、海王星の氷の衛星トリトンを探査する「トライデント」だ。トリトンには雪を降らせることができる大気があり、地下深くに広がっているとされる海から、水が噴出している可能性もある。1回のフライバイで、生命を育む可能性のある海の痕跡を探索できるという提案だった。
これらの提案は完全に打ち切られるというわけではないが、ディスカバリー・プログラムに再び応募するには、あと数年待たなくてはならないという。
NASAの科学担当副長官であるトーマス・ズルブッケン(Thomas Zurbuchen)は、2つの金星ミッションが採択されたことを発表した後の質疑応答で、これらのミッションは以前不採択となったことがあるが、そのおかげでより強固な提案になったと述べたと、スペースニュースのジェフ・ファウスト(Jeff Foust)がツイートしている。
「これらは最高のミッションだ。だから採択されたのだ」とズルブッケンは述べた。
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)