ミッド・デイ・スクエアズの創業者。左から、ジェイク・カールズ、レズリー・カールズ、ニック・サルタレッリ。
Mid-Day Squares
ヘルシーなチョコレートスナックのブランド「ミッド・デイ・スクエアズ(Mid-Day Squares、以下MDS)」が今、注目を浴びている。
共同創業者であるレズリー・カールズ、ジェイク・カールズ、ニック・サルタレッリの3人は、自作の番組でブランドの認知を高め、Podcastで事業を始めた際のジレンマについて語った。Instagramでは、日々の会社経営で巻き起こるさまざまな出来事をリアリティショー形式にして投稿している。
実はMDSは2021年3月、世界有数の菓子メーカーであるザ・ハーシー・カンパニーから買収提案を持ちかけられた。
「売上が1億ドル(約109億円)規模に達すると、食品スタートアップの多くはモンデリーズやゼネラル・ミルズなど大手に売却されるのがおなじみのパターン」とサルタレッリは言う。
だが、創業者の3人がハーシーの提案に興味を示すことはなかった(この件についてInsiderはハーシーにコメントを求めたが、回答はなかった)。MDSは今後も売却はせず、上場を目指すという。
「最後まで見届けたいんです。他社に吸収されていろいろ口を出されると、そもそもこの会社でやろうとしていることがダメになってしまいますから」
売却目的の投資にNo
MDSは2018年にカナダで創業。カールズ姉弟とレズリーの夫であるサルタレッリが、マンションのキッチンで作ったチョコレートバーを販売し始めたことがきっかけだ。
その後、ボルダー・フード・グループ(Boulder Food Group)やセルバ・ベンチャーズ(Selva Ventures)といった投資家から800万ドル(約8.6億円)の出資を受けることに成功。MDSの商品は現在、カナダの食料品店チェーンであるソビーズ(Sobeys)やメトロ(Metro)など、約1800店舗で販売されている。
2021年6月にはヘルシーな食材を多く販売するスーパーマーケットチェーン、スプラウツ・ファーマーズ・マーケット(Sprouts Farmers Market)を介してアメリカ進出も実現した。同年後半にはホールフーズ(Whole Foods)での展開も予定している。MDSはまだ小規模ながら、2021年の売上は1000万ドル(約10.9億円)を見込んでいる。
MDSの主力商品は、チョコレート・コーティングされたピーナツバター・バー。間食向けのお腹にたまる栄養補助食品という位置づけだ。
スクエア型が特徴のMDSのチョコレートバー。原材料はすべて有機栽培されたものだ。
Mid-Day SquaresのHPのより
チョコレートやスナックバーといったカテゴリーには最近、大手の食品メーカーも興味を示している。モンデリーズは過去2年でパーフェクト(Perfect)とフー(Hu)の2社を買収している。2020年末にはマース(Mars)がカインド(Kind Bar)の買収を発表しており、手軽な健康食品に対する大手食品会社の関心の高さがうかがえる。
サルタレッリとカールズ姉弟は、当初から「一番高い金額を提示してくれたところに売却する」という選択肢を外していた。
資金調達を始めたころ、興味を持ってくれた投資家には、少なくとも10年間の長期投資として考えてほしいと伝えていた、とサルタレッリは語る。投資を回収するとしたら、会社を上場させるか、創業者に株を売却して利益を受け取るかの2択だ、とも投資家には伝えているという。
「投資家にプレゼンする際には、『いずれ誰かに売却する前提で投資先を探しているなら、うちの会社はやめた方がいい』とはっきり伝えています」
カメラに映る生々しい日常
創業から間もないころは、ミッド・デイ・スクエアズもご多分に漏れず認知度の低さに悩んでいた。そこで2018年半ば、ジェイクはある提案をする。会社の成長をストーリーにして、お客さんに見てもらってはどうか、と。
ジェイクの指示で、姉夫婦は仕事場での出来事をスマホで記録し始めた(やがてカメラマンなどメディアのプロを雇うことになるが)。
「同じ空間に仕事とプライベートが入り混じっていて、しかもそれを全部録画するわけですからね。私生活なんてあったもんじゃありませんよ」
こうして、MDSのInstagramにはスタートアップのドタバタを記録した動画などが続々と投稿されていった。販路になる小売店と契約を交わしたときのこと、仕入先の在庫が切れて入手できなくなった材料を探し回ったときのこと……。フォロワーは現在、4万4700人ほどだ。
32回シリーズのPodcastもある。テスラやリンクトインなど彼らが憧れている企業や、これまでに行ってきた戦略上の大きな意思決定について語っている。
「お客様が買い物に行ってうちの商品を見かけた時に、『ヘルシーでおいしいチョコレートバーがあるな』ではなくて、『あ、あの人たちの商品だ』と思ってもらえるわけです」
こうしたコンテンツ戦略も、大手企業への売却を目指さないところも、MDSのユニークさになっていると指摘するのは、ボルダー・フード・グループのマネージング・パートナーであるデイトン・ミラーだ。ミラーは、シリーズAとシリーズBでMDSに投資する以前から創業者の3人と知り合っていたという。
ミラーによれば、最近上場した食品メーカーの特徴として、もともと熱心なファンと使命を持った小さな会社として出発し、その事業を十年単位で進化させてきた企業が多い。代替乳のオートリー(Oatly)しかり、代替肉のビヨンド・ミート(Beyond Meat)しかりだ。
これら企業も、MDSがハーシーからの買収提案を断ったように、事業売却以外の道もあることを示してきた、とミラーは言う。
「オートリーは創業から20年ほど経ちますが、MDSもそれくらいの時間をかけて消費者に支持され、コミュニティを築いていくのかもしれませんね」
ボルダー・フード・グループはもともと、MDSの商品に魅力を感じて関心を持つようになったが、数ある食品スタートアップの中でもMDSのSNS戦略は頭一つ抜けていた、とミラーは言う。
「他の会社にリアリティーショーをやれだなんて、怖くて勧められませんよ」
(翻訳・田原真梨子、編集・常盤亜由子)