2021年3月19日、NASAの火星探査車キュリオシティが日没直後の雲を撮影した。人間の目で見た時と同じように見えるように色補正されている。
NASA/JPL-Caltech/MSSS
- NASAの探査車キュリオシティが、火星の空を漂う虹色の雲を撮影した。
- この珍しい雲は、水ではなく凍った二酸化炭素(ドライアイス)でできているようだ。
- 真珠層のような雲は、日没時に色とりどりの光を放っていた。
火星は決してカラフルな場所ではない。陸地も空も、埃っぽい風景が延々と続き、淡い赤茶色にしか見えない。しかし、2021年の初めに、珍しい虹色の雲がNASAの探査車キュリオシティ(Curiosity)の上に現れ、その印象は一変した。
キュリオシティは2021年3月、この真珠色の火星の雲の写真を数枚、地球に送信し、NASAは5月28日にその写真を公開した。画像には、火星の灰色の空に漂うきらめく波のような雲が、沈む太陽の光を散乱させる様子が映っている。
コロラド州ボルダーにある宇宙科学研究所(Space Science Institute)の大気科学者であるマーク・レモン(Mark Lemmon)はNASAのプレスリリースで、「赤や緑、青や紫などの色が現れることに驚かされる」と述べている。
「火星で何かが色鮮やかに輝くのを見るのは本当に素晴らしいことだ」
2021年3月5日にNASAの探査車キュリオシティが撮影した5枚の写真をつなぎ合わせたもの。真珠層のような虹色の雲が写っている。
NASA/JPL-Caltech/MSSS
火星の大気には水がほとんどなく、大気の濃度は地球のわずか1%程度なので、雲が発生することはめったにない。そのため、雲は主に火星の赤道付近に、火星の軌道が太陽から最も離れた寒い時期に現れる。この次に「遠日点」と呼ばれる太陽から最も遠い位置に到達するのは、2021年7月になる。
キュリオシティは火星の赤道付近にある幅96マイル(約154.5キロメートル)のクレーターを探査中のため、火星が遠日点に近づくと雲が見られるようになる。しかし、1年前の火星(地球では2年前の2019年)では、その雲が科学者たちの予想よりも数カ月早く現れた。
なので2021年は、同じ現象が起きた時のために、NASAのキュリオシティ・チームは準備万端だった。1月下旬に初めの雲が出たときには、すでにキュリオシティは雲を撮影する準備ができていた。雲は3月までキュリオシティの上を漂い続けた。
NASAの火星探査車キュリオシティは、マストに搭載されたナビゲーションカメラを使い、2021年3月28日の日没直後の雲を撮影した。
NASA/JPL-Caltech
科学者たちは、これらの雲は水の氷ではなく、凍った二酸化炭素、つまりドライアイスでできていると考えている。この結果は、研究者がキュリオシティが撮影した画像を分析し、夕日の光が雲の中の氷の結晶にどのように反射するかを調べて得られたものだ。研究者は、これらの予定よりも早く現れた雲は、通常の火星の雲よりも高い高度で漂っていると判断した。標高の高いところは気温が低く、水でできた氷は存在しないと考えられている。
またキュリオシティは、「真珠層(mother of pearl)」雲と呼ばれる、ドライアイスにより虹色に輝く波紋も撮影した。
2021年3月19日、NASAの探査機キュリオシティから見えた火星のシャープ山の上空に漂う雲。
NASA/JPL-Caltech/MSSS
「もし雲の中にキラキラとしたパステルカラーが見えるとしたら、それは雲の粒子の大きさがほぼ同じであるからだ」とマーク・レモンは述べた。
「これは通常、すべての雲が同じ速度で成長した直後に起こる現象だ」
キュリオシティは山を登る
キュリオシティは、空に目を向けていないときは、火星の地表を調査している。
キュリオシティは2012年に火星のゲールクレーター(Gale Crater)に着陸し、最初の2年間で、ゲールクレーターがかつて生命体の化学成分を含んだ湖であったことを確認した。
2016年5月11日、キュリオシティ・ローバーが撮影した自撮り画像
NASA/JPL-Caltech/MSSS
その後、NASAはキュリオシティに新しい任務を与えた。それは、ゲールクレーターの中心にあるシャープ山(Mount Sharp)と呼ばれる高さ3マイル(約4800メートル)の山をゆっくりと登ることだった。
シャープ山には、太古の川の流れによる堆積物、湖の底に沈んだ粘土、乾燥した谷に吹き付けられた塵や砂など、火星の歴史の各時代の痕跡が残されている。探査車は山を登ることで、火星の歴史を年代順に追っているのである。
最近キュリオシティは、これらの岩石層の中に、火星の古代の湖が完全になくなる前は満ちたり枯渇したりを繰り返していた痕跡を発見した。また、火星の大気中でのメタン濃度の不可解な上昇を検出し、火星の重力を測定し、火星が干上がったときに塩分を含む小さな池が残された証拠を発見したりもしている。
[原文:NASA's Curiosity rover captured rare photos of pearly, iridescent clouds on Mars]
(翻訳:大場真由子、編集:Toshihiko Inoue)