客が暴言を吐いたり過度な要求を繰り返して販売員や従業員の心身を追い詰める「カスタマーハラスメント」が、コロナ禍で深刻化している。このまま放置すれば、カスハラ被害者がパワハラやDV加害者になる負の連鎖が待っているという。
マスク着用の「お願い」でストレス増
カスハラ被害者が加害者になってしまう負の連鎖とは(写真はイメージです)。
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人材サービスのエン・ジャパンが自社の求人サイト「エン転職」のユーザー1万740人を対象に調査したところ(調査期間:2021年3月〜5月)、販売・サービス業で働く人のうち61%が「コロナ禍で仕事のストレスが増えた」と回答。
その理由としてある26歳の男性は「お客様にマスクの着用や手指消毒のお願いをする必要があり、お客様からのクレームが増えた」とコメントしている。
先日も24時間営業の弁当屋に来店した男性2人が、商品の温めなどの対応をめぐって店員を「態度悪すぎるぞ」「だからそんな(弁当屋の)仕事してんねん、アホ」「俺はお前の年収1カ月で儲けてるから。クズ」などと罵倒し、硬貨を投げつけたことが話題になった。店側はすでに警察に被害届を提出したという。
カスハラ加害者は40歳以上の男性に多い
UAゼンセン・流通部門副事務局長の安藤賢太さん。
出典:「アンガーマネジメントで しない!させない!カスタマーハラスメント〜ハラスメントの連鎖を断ち切ろう~」中継より
こうした中、6月6日にカスタマーハラスメントに関するイベントがオンラインで開催され、かねてよりこの問題に取り組んできた小売やサービス業で働く人の労働組合「UAゼンセン」、厚生労働省、そして一般社団法人日本アンガーマネジメント協会の各担当者らが講演した。
UAゼンセンは2020年に初めてカスタマーハラスメントをしている客層について調査している。それによると、迷惑行為をしていた客の74.8%が男性だった。推定年齢は最も多かったのが50代で30%。次に60代の28%、40代の18.9%と続き、40歳以上が全体の約9割を占めた。
UAゼンセン・流通部門副事務局長の安藤賢太さんは言う。
「40〜60歳の男性は『サービスとはこういうものだ』という気持ちが強い方が多い。サービスがそこから逸脱した時に、『俺がお前を教育してやる』という気持ちになるのでしょう。そうした権威的なクレームが非常に増えている傾向にあります。こういう方々に対して企業がどう対策をとるのかが、今後の重要な課題です」(安藤さん)
顧客第一主義はもう止めよう
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会・ 代表理事の安藤俊介さん。
出典:「アンガーマネジメントで しない!させない!カスタマーハラスメント〜ハラスメントの連鎖を断ち切ろう~」中継より
さらに、カスハラには新たなハラスメントや暴力を生む危険性もあると指摘するのは、一般社団法人日本アンガーマネジメント協会・代表理事の安藤俊介さんだ。
「カスハラ被害を受けて怒りがたまり、そのせいで自分が職場でパワハラをしてしまったり、そのパワハラ被害を受けた人が今度はどこかの店でカスハラをしてまったりという負の連鎖になる可能性があります。
カスハラ被害の怒りを家庭に持ち帰って、DVやモラハラという形で発散させてしまうかもしれません」(安藤さん)
前出のUAゼンセンの安藤さんも、カスハラは連鎖していると話す。
「2017年にカスハラのヒアリング調査をした時、カスハラ加害者はサービス業が多いという結果が出ました。働く現場でカスハラを見ているので、自分がサービスを受ける側になってちょっとでも不具合があると、すぐ怒りに変わってしまうんです」(安藤さん)
カスハラのない社会に向けて、一人ひとりの意識改革も重要だ(写真はイメージです)。
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社会のどこかで「カスハラ」として生まれた怒りが、さまざまな場所で、強い立場の人から弱い立場の人に向かって伝染しているのだ。
まずは組織としてカスハラを許容しない体勢を作ることが重要だろう。
厚生労働省は現在、効果的なカスハラ防止策について企業向けのマニュアルを作成中だという。
「カスハラを容認するような企業では従業員の心理的安全性が担保できず、生産性も下がります。そんな会社で働きたい若者もいないでしょう。企業がやるべきことは、カスハラの法的知識やリスクを認識するとともに、何が何でもお客様に尽くそうという姿勢を見直すことです。顧客第一主義はもうこの社会では受け入れられないと思います」(日本アンガーマネジメント協会・安藤さん)
(文・竹下郁子)
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