2021年初頭からビットコインや(Bitcoin)やイーサリアム(Ethereum)などの急激な乱高下が続いている。
Reuters/Dado Ruvic
ここ数カ月、2度目となる仮想通貨のマイニング(採掘)ブームが起きている。
もしかしたら本記事の掲載時点では、2度目のブームは起きた「あと」になっているかもしれない。
世間の注目が集まるためか、ある程度のコンピューターの知識があったり、マイニングに挑戦してみたい人が増え、個人あるいはグループなどで仮想通貨マイニングが再び旺盛になっている。
ここでは、マイニングをしてみたい人向けに、グラフィックボードを使用してマイニング環境を構築する方法と、気になる「収益」をまとめてみた。
「採掘」に欠かせない“GPU不足”はなぜ起こる?
マイニングを個人もしくはグループで実施する場合でも、企業が大規模に行う場合でも、必要になるのは「パソコン」だ。それに加えて、ウェブブラウザと専用のソフトウェアがあれば、すぐにでもスタートできる。
ビットコインやイーサリアムなどの主だった仮想通貨(2021年6月時点)は、パソコンとグラフィックボード(GPU)を使用して、マイニングする。厳密にはCPUだけでもマイニングは可能だが、採掘効率からみてグラフィックボードは必須と言える。
おかげで、マイニングブームの盛り上がりとともに、国内外ともに「GPUの売り切れ」が目立つようになった。
NVIDIA製グラフィックカードの価格.comでの価格推移。2021年の年明け以降、同一製品が大幅に値上がりしていることがわかる。
出典:価格.comの価格推移グラフより
振り返ると、2021年1月以降、そもそも半導体が不足していたところに、グラフィックボードの買い占めや転売が相次いだ。
費用対効果の高い「GeForce RTX 3060Ti」「GeForce RTX 3070」「GeForce RTX 3080」という型番の製品は市場にほとんど出回らず、とくに2021年4月以降の流通価格は、販売開始時期から見て1.5〜2倍になるものが目立っている。
そういった状況に対して、NVIDIAはマイニング性能のみをおおよそ半減させたGPUの出荷を開始した。
またマイニング専用の「NVIDA CMP HXシリーズ」も用意しており、今後は同シリーズにシフトしていくと思われる(抜け道が見つかる可能性もあるが)。
環境構築:お試しでも何らかのグラフィックボードは買おう
余剰パーツのマイニング環境(写真はデスクトップPCの内部)。AMDのグラフィックボード「Radeon RX 6800」を使用中。当初は8万円前後で流通していたが、市場全体のGPU枯渇から、直近では13〜15万円前後に値上がりしている。
撮影:林佑樹
筆者個人は、主にイーサリアムをマイニングしているが、常時採掘しているというよりは、冬期の暖房代わりに採掘する※イメージだ。
※注:高性能なグラフィックボードはかなりの熱を発生する。室内で常時演算させていると、ちょっとした暖房代わりになる
マイニング環境は余剰PCパーツを組み合わせてつくっており、「暖房費の一部をマイニングで回収できればいいか」程度の考え方でやっていた。
元から持っていたパーツを流用してつくったPCなので、マイニング性能はあまり高くない。が、追加投資はほぼ「ゼロ」ということになる。
一般的な準備と必要なものは以下の通り。
- デスクトップPC(いわゆる自作PCとかゲーミングPCと呼ばれるもの。Windowsがお手軽)
- そこそこの性能のグラフィックボード(そこそこの性能の定義は難しいが、筆者のセレクトを1つの参考に)
- ウォレットとマイニングプールのアカウント作成(無料)
- マイニング用のソフトウェアのインストール(無料)
順に見ていこう。積極的に採掘をしまくって収益を考える場合は、マイニング用のマザーボードに複数のグラフィックボードをセットする「本気のマイニング環境」をいくつか並列して設置することになる。
ただ、上記の通り、グラフィックボードの入手難易度がいまは相当に高く、また販売価格の上昇傾向からも「いまからスタートすべきか?」というと、厳しい状況だ。
個人的には、マイニングを試してみたいなら「仕組みを知るために、余った自作PCパーツで試す」くらいが妥当ではないかと思っている。
以前活躍していた「GeForce GTX 1080」。調子が悪くなったため、引退させた。
撮影:林佑樹
ゲーム用の「GeForce RTX 2060 Super」。2021年に入ってから中古相場を確認したところ、購入時の価格よりも高値になっており、うっかり売ってしまった。
撮影:林佑樹
GPUも含めてマイニングに使うパソコンを手に入れたら、サービスやソフトウェアをセットアップしていくことになる。流れはこんな感じだ。
- マイニング用のソフトウェアで採掘
- マイニングプールで採掘をカウント
- 最終的にウォレットに納める
マイニングプールは、「みんなで掘ってみんなで分け合う」的なサービスで、いわば鉱山そのものといってもいい。ウォレットは取引用の口座で、マイニングを通じて得た仮想通貨を保持できる。
マイニングプールとウォレットを準備する
ウォレットとマイニングプールはいくつかサービスがあり、組み合わせは自由だ。また採掘するソフトも、自分の環境に適したソフトウェアを選べる。
今回はサービスの分かりやすさから「BINANCE(バイナンス)」を例にした。BINANCEはマイニングプールもセットで運営しており、仕組みをつかみやすい。
ともあれ、まずはBINANCEに登録(サインアップ)してみよう。
BINANCEは部分的に日本語にローカライズされている。
筆者によるスクリーンショット
BINANCEにサインアップしたら、ウォレットがつくれる。
次はBINANCE POOLでアカウントを作成する。BINANCEにログインしている場合は、自分のマイニングネームを設定するだけでいい。ウォレットとの紐づけは自動的に行われる。
「マイニングアカウント」をクリックして設定する。
筆者によるスクリーンショット
次はマイニング用ソフトウェアだ。これも種類が多く、OSやグラフィックボード、使い方などである程度選べるが、ここでは「minerstat」 を例にしている。根っこの部分はほぼ共通しているので「Minergate」や「NiceHash」なども調べてみるといいだろう。
「minerstat」。サインアップするとソフトウェアをダウンロードできるほか、仮想通貨関連のさまざまなステータスも確認できる。
筆者によるスクリーンショット
とりあえず「minerstat」をインストールしてみよう。
標準的な環境であれば、アンチウイルスソフトウェアから通知が多数届くはずなので、そこに指摘のあるファイルや通信先を除外していく(なので、インストールするなら、普段使いとは別のマイニング専用に用意したパソコンがいい)。
インストール時にアンチウイルスソフトのアラートが出るケースがある。本稿執筆の6月5日時点では、そういうものだと思って、アラートを無視してかまわない(上の画像はノートンのアラート例)。
筆者によるスクリーンショット
「minerstat」は起動したら、あとは放っておくだけで、採掘を進めてくれる。マイニング状況の確認はウェブブラウザーからになる。
筆者によるスクリーンショット
これで終わりではなく、次は「minerstat」とマイニングプールを紐づける。必要な情報はマイニングプール側に記載されていることが多い。またウェブサイトによって設定が微妙に異なる点はあるが、手探りでも分かるレベルだ。
BINANCE POOLには構成例があり、必要なアドレスを確認できる。
筆者によるスクリーンショット
「minerstat」でアドレスを設定する。
筆者によるスクリーンショット
ウォレット(wallets)にはタグとマイニングネームを入力。
筆者によるスクリーンショット
以上のような流れを経て、下準備は終了だ。おおよそ、20分ほどで設定できる。
手元にあるパソコンで試してみようとした際、心理的障壁となるのは、上でも紹介したアンチウイルスソフトの反応(アラート)だろう。
それもあってか、2021年6月にノートンは「ノートン360」に安全に採掘できるマイニング機能Norton Cryptoを実装すると発表している。
同機能は数週間以内に全ユーザーに公開される予定。本稿作成時点では、アーリーアダプタープログラム参加者への提供が進んでいる。
マイニングツールの使い方とチューニング
ここまでが、基本的なセットアップの流れだ。
ただし、このままだとマイニングの効率が悪い。やや専門的な話になるが、AMDのRadeonシリーズの例を出すと、グラフィックドライバーで「GPUクロック」や「メモリークロック」を調整して、なるべく少ない消費電力で「高いハッシュレート」になる設定を目指すことになる。
主流のNVIDIAのグラフィックボードの場合は、メーカー製の管理アプリケーションが用意されているので、そちらを使用して設定するといい。
GPUクロックよりは、メモリークロックのほうが重要性が高い傾向がある。またソフトウェアによって、得意とするグラフィックボードの組み合わせがあるケースもあるため、基本的に最適設定は手探りになる。
また、マイニング中は高負荷状況が続くため、冷却性能も確保しなくてはならない。
特にこれからの季節は、放熱に伴う室内温度の上昇もある。エアコンも並行して稼働させることになるので、例年より高い電気代を覚悟する必要がある。費用対効果としてはネガティブな要素だ。
調整に入る前のRadeon用ドライバーの画面。マイニング向けの設定例が公開されていることもあるが、個体差がどうしてもあるため、最終的には手探り。
筆者によるスクリーンショット
一番気になる「マイニングしてみた収益」検証
最後に、多くの人が気になるだろう収益の話。
筆者の環境でいえば、とにかく採掘するだけの状態が続いている(仮想通貨としては使わない)。だから、イーサリアムの値上がりに合わせて、多少の利益は生じている。
電気代はマイニングPC分と生活分を含めて、冬場に1カ月1万5000円ほどだ。
筆者のマイニング環境で採掘中の様子。
筆者によるスクリーンショット
上記のマイニングプールのスクリーンショットでは、もうすぐ0.2ETH(0.2イーサリアム)になるところだが、これを換金すると、2021年6月上旬時点のレートで500ドル(約5万4000円)ほど。順調にいけば年間で1000ドル(約10万9000円)ほどになる見通しだ。
ここに手数料や税金などを加味すると……ビットコインの値上がりよろしく、急にケタが増えたらラッキーくらいの感覚だ。
よって、しばらくは、これまでどおり採掘しているだけの予定。なお予想収益は「Crypto Compare」や「ASIC Miner Value」といったツールでおおよそ算出できる。
マイニングの次(かもしれない)、「Chia」の“ファーミング”とは?
「Chia」公式サイト。
撮影:林佑樹
本稿の依頼を受けた時点では、仮想通貨のレートは総じて高値になっていたが、それから数日後、乱高下が始まり、中国での大規模マイニング規制報道などもあって混迷している。
仮想通貨の世界においては、こうした乱高下は「いつものこと」ではあるが、2021年6月上旬時点で今後がどうなるかは分からない。
もうひとつ、マイニングブームに関連して「Chia」という仮想通貨に盛り上がりの兆しがある。
これまでの仮想通貨マイニングとは異なり、省エネであることが特徴だ。グラフィックボードで演算するのではなく、HDDやSSDなどの「ストレージ」を使用するものだ。
面白いことに、マイニング(採掘)ではなく、「ファーミング(Farming)」(直訳すると農耕や牧畜の意味)と呼ばれている。
Chiaは先に課題をこなしてからローカルに保存しておくPlottingと、課題に対応したデータを用意するFarmingの2ステップで処理される。「耕して収穫する」プロセスに似ているため、農業になぞらえているようだ。
必要なものは、前出のとおりHDDとSSD。マイニングと違って、GPUはあまり重要ではない。
PlottingにHDDを使用し、Farmingでは素早く収穫するためにSSDを使用する。ストレージは価格性能比から8TB以上のHDDがよい。グラフィックボードと同様に品薄、もしくは値上がり傾向にあるが、Chiaの可能性はまだ未知数。先行投資的にファーミングが行なわれている状況だ。
Chiaについては、筆者はまだ手をつけていないが、おいおいテストしてみるつもりだ。
(文、写真・林佑樹 )