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中国軍艦の航行阻止、台湾島しょ部の防衛「自衛隊が支援」。米国際政治学者の衝撃シナリオ

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2020年11月、航空自衛隊入間基地で戦闘機に搭乗した菅首相。21年4月、台湾有事の際の日米防衛協力を約束したが……。

Kimimasa Mayama/Pool via REUTERS

南西諸島における中国艦船の通過阻止、台湾島しょ部の防衛、いずれも自衛隊が支援する——。

「台湾有事」が発生した場合に、アメリカが同盟国である日本に求める軍事協力のあり方として、そんなシナリオが提起された。

菅政権は、4月17日に開かれた日米首脳会談後の共同声明に台湾問題を盛り込み、有事の際の日米防衛協力を約束した。しかし、台湾をめぐって日本が軍事介入するなら、中国との軍事衝突で日本列島が戦場と化すのを覚悟しなければならない。

対中「戦争準備が必要」との認識で一致

冒頭のシナリオは、日米関係に詳しい国際政治学者で米ジョージ・ワシントン大学教授のマイク・モチヅキが5月末、筆者も参加した「台湾有事」に関するオンライン国際会議(非公開)で提起したものだ。

彼は「アメリカは中国との戦争を望んでいないが、戦争の準備が必要という認識で議会は一致している」と、対中抑止力の強化を主張する米連邦議会の現状を報告した。

同シナリオの対日要求に関する部分をみてみよう。

  1. 在日米軍基地への自由なアクセスと自由使用
  2. 日本領土内での積極的後方支援(物資・燃料補給、日本の民間施設へのアクセス)
  3. 在日米軍基地の強化、兵器の迅速な修理と機動能力向上を通じた、「アメリカによる接近阻止戦略・戦術」の支援
  4. 南西諸島での中国艦船の通過阻止とミサイル配備、台湾島しょ部の防衛と情報収集・警戒監視・偵察活動など、自衛隊の防衛力強化
  5. アメリカの軍事戦略・戦術を直接的に支援する自衛隊の活動(対潜戦、軍用機支援、機雷掃海、台湾付近での水陸両用揚陸の支援)
  6. 日本版の「台湾関係法」の制定、台湾防衛に対するアメリカ支援の明示的関与

「在日米軍基地の自由使用」には事前協議が必要?

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2021年5月、静岡・御殿場の東富士演習場で行われた陸上自衛隊「富士総合火力演習」の様子。

Akio Kon/Pool via REUTERS

こうして並べてみると、1から3までは比較的「控えめな」要求に見える。

6にある日本版「台湾関係法」は、安倍晋三前首相ら右派議員が国会提出を目指しているが、台湾有事に伴う要求というより平時に成立させるべきシナリオであろう。

要求項目について、個別に中身を見てみよう。

1の「自由なアクセス」は、1960年に改訂された日米安保条約第6条にある「事前協議」がその根拠となっている。

この条項は、米軍の軍用機や艦船が、「戦闘行動」に直接参加するために在日米軍基地を使う場合、日本の「事前同意」が必要と規定し、対象は[1]基地使用[2]核兵器の配備[3]1個師団(海軍については1機動部隊)の日本への「配置」「配備」とされる。

ここで重要なのは、「事前協議」の「発議権」はアメリカ側にあって、日本にはないことだ。平等な関係性ではないのだ。

また、沖縄や横須賀の米軍基地への「核持ち込み」疑惑がこれまでに何度も指摘されてきたが、持ち込みに際してアメリカが「事前協議」を発議した話を聞いたことがない。

結局、在日米軍基地への「自由なアクセス」は、1960年以来ずっと(事前協議なしで)認められてきたのであり、「台湾有事」の際だけ事前協議が行われるとは考えにくい

「後方支援」だけでは済まない

2と3の「支援あるいは後方支援」については、2015年に安倍政権下で成立した一連の安保関連法制のうち、「重要影響事態法」に規定されている。

その内容は、米軍の戦闘行動を補完する「後方支援」に欠かせないものばかり。戦闘員の捜索・救難、船舶の臨検、食料・燃料などの供給、武器・弾薬や物資の輸送、傷病兵の治療など幅広い。自衛隊が「米軍の戦闘行為と一体となる」活動が想定されている。

さらに、シナリオ4と5は、武力行使の永久放棄をうたった憲法9条違反を疑わせる内容となっている。南西諸島での中国艦船の通過阻止をはじめ、自衛隊と中国軍との戦闘が容易に想定される内容だけに、政治・法律的にかなりハードルが高い。

いずれも中国と台湾が武力衝突し、そこに米軍が軍事介入することを前提として組み立てられた項目だ。

もし中国軍が台湾本島に侵攻した場合、おそらく台湾周辺の広範囲な空域で民間機の運航を禁止し、海上でも台湾海峡、バシー海峡などを封鎖するだろう。

4の中国艦船の通過阻止は、そうした海峡封鎖への対抗措置とみられ、国際水道の宮古水道などが想定される。そうなれば、米軍・自衛隊と中国軍が海上で直接対峙することになる。

「存立危機事態」の条件を満たすか

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2015年12月、防衛庁を訪れた安倍晋三前首相。同年9月、安保関連法案が成立した。

REUTERS/Issei Kato

安倍政権はこうした後方支援の裏づけとなる集団的自衛権の行使を、憲法解釈の変更で容認した(2014年7月閣議決定)のに続き、2015年には安保法制を世論の反対を押し切って強行成立させた。

集団的自衛権を行使する前提条件として、以下の3条件があげられた。

  • 密接な関係にある他国への武力攻撃が発生し、日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底からくつがえされる明白な危険がある(=「存立危機事態」)
  • 我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がない
  • 必要最小限度の実力行使にとどまる

「存立危機事態」の定義は曖昧(あいまい)だが、中台衝突の発生に加えて、そこに米軍が介入して「中国人民解放軍と交戦するに至れば、これはもう存立危機事態に相当する」というのが、防衛関係者の見立てだ。

要求項目5にある「アメリカの軍事戦略・戦術を直接的に支援する自衛隊の活動(対潜戦、軍用機支援、機雷掃海、台湾付近での水陸両用揚陸の支援)」に至っては、米軍の軍事行動と完全に一体化することになる。

日本がこれらの軍事行動に参加すれば、沖縄の嘉手納・普天間基地はもちろん、横須賀や横田・佐世保・岩国など多くの米軍基地が中国のミサイル攻撃の標的になりうる。日本が戦地になるのを覚悟すべきだろう。

「中国の台湾侵攻は起こらない」

筆者は5月に別メディアの連載記事『虚構の「台湾有事」切迫論 武力行使は一党支配揺るがす』で、中国には台湾に武力行使する意思も客観的条件もないと指摘し、「日本にとって尖閣の視線の先にあるのが台湾問題」と書いた。

昨今さまざまなメディアに出てくる「台湾有事」切迫論の背景には、中国による「尖閣奪取」「台湾有事」をあおることで、「[1]自衛隊の装備強化[2]自衛隊の南西シフトの加速[3]日米共同行動を進めようという」日本側の思惑があるというのが筆者の考えだ。

一方、アメリカ側の「台湾有事」切迫論の狙いについて、ジョージ・ワシントン大のアミタイ・エツィオーニ教授は、ニューズウィーク日本版の記事(6月3日付)で以下のように分析している。

「(バイデン政権は)インフラや子どもの福祉、民主主義の強化などに巨額の予算を振り向ける必要があるが、それは何より中国に対抗するため」

国民を団結させ、超党派の支持を得られるテーマとして、米政権は「中国たたき」という手法を見つけた、とエツィオーニ教授はみている。筆者も同感だ。

アメリカの台湾防衛への「本気度」には、アメリカ国内や台湾からも疑問視する声が根強く聞かれる。これも筆者はその通りだと思う。

米中間のパワーバランスが中国側に傾けば、「棄台論」(=台湾防衛をあきらめる)は増えるだろう。そうなれば日本は「ハシゴ外し」に遭い、アメリカ抜きで中国と単独対峙しなければならなくなる。

中国の経済力が日本の3倍に拡大したいま、法的(=日中平和友好条約の不戦条項)にも、政治・経済的にも、中国と戦うべき・戦える客観的環境などない。

先の大戦のように、また「竹やり精神」で戦おうというのだろうか。2020年の習近平(国家主席)訪日延期の決定以来、手つかず状態の対中外交を本格始動しなければならない。

(文:岡田充


岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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