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「公私混同経営」夫婦に訪れた危機。出産から“クラブハウス事件”まで

中村朝紗子・井上皓史夫妻

「起業家の妻と、ナンバーツーの夫」……日本ではまだ珍しいパートナーシップは、育児を経てどう変わった?

撮影:今村拓馬

同じ家、同じ会社、同じ家庭での育児 ── 。

21歳で自身の会社を立ち上げた妻の中村朝紗子さん(通称・もに、29)と、その会社で事業を運営しながら、プライベートではほとんどの家事を担う夫の井上皓史さん(通称・5時こーじ、29)。

仕事をバリバリこなす妻とそんな妻をサポートする夫は、同じ会社の社長と取締役という関係でもある。ふたりの間には2020年8月、子どもが誕生した。

「公私混同経営」を続けてきたふたりのパートナーシップは、コロナ禍の育児を通じてどう変わったのだろう?

ナンバーツーとして妻を支えたい

中村朝紗子・井上皓史夫妻

21歳で学生起業した中村朝紗子さん(29)。

20代の夫婦で社長と取締役、そして「女性起業家を支える夫」。日本ではちょっとユニークなそんな夫婦の出会いは、2017年。日本最大級の朝活コミュニティ「朝渋」だった。

朝渋:「早起きの習慣化」を目指すコミュニティ。メンバーは約200人。コロナ以前は、渋谷で著名人を招いたトークイベントなどを実施していた。現在はオンラインに移行。

当時IT企業に勤めていた夫の皓史さんは、早起きという強みを活かして、複業として「朝渋」をスタート。朝活をしていた朝紗子さんをTwitterで見かけ、運営にスカウトした。

一方の朝紗子さんは起業家として、21歳の時に自ら立ち上げた女性向けのコンテンツプロデュース会社「モーニングラボ」を経営。仕事は充実していたが、無理がたたって身体を壊すことも増えていた。

付き合い始めてから、朝紗子さんはポツリとこう漏らしたという。

「私は仕事を選んだから、家庭やプライベートの幸せはもう追えない」

そんな朝紗子さんに、皓史さんはプロポーズ。同時に、「朝渋」事業とともに皓史さんも「モーニングラボ」に参画したいと提案する。

A4用紙2枚の「プレゼン資料」に書かれた言葉は「ナンバーツーとして朝紗子を支えたい」。

結婚から3年後の2020年8月、第一子となる女の子が誕生した。

育児で変わった「公私混同経営」

中村朝紗子・井上皓史夫妻

「つわりがひどくて、出産は本当に不公平だと思ってしまいました」(朝紗子さん)

出産前、担当する家事のバランスは「皓史さんが9割9分5厘で、残りが朝紗子さん」。

少林寺拳法で全国2位という実績もある朝紗子さんは「重いものを持ったり、排水溝など汚いところの掃除」をし、他の家事は全て皓史さんの担当だ。

「(朝紗子さんは)120パーセントで打ち込んでいる仕事を80パーセントにして、残りを家事に、とはできない性格。だったらそこは僕がやればいい」

うまくいっていたはずの二人の関係。しかし子どもが生まれたことで、その生活は一変した。

まず、自分たちを支えてきた早起きが思うようにできなくなった。

朝紗子さんは経営者であるため、法律に定められた育児休業制度は取ることができない。産後1カ月で仕事に戻ったものの、「1日に1〜2時間しか仕事ができない」日々が続いた。当然、思うような成果も上がらない。

「ただ眠れるというだけで、皓史がうらやましくなってしまって。あの頃は、おっぱい出せるようになって!次は絶対産んでよ!ってよく言っていました。お風呂に入ってくるというだけでも、いいなあって」

起こった、クラブハウス事件

Clubhouse

同居人のClubhouseにイライラ……。そんな経験がある人も多いのでは?

画像:rafapress / Shutterstock.com

追い討ちをかけるように、コロナ禍での仕事の変化が二人を襲った。朝活イベントが対面でできなくなってしまったのだ。

皓史さんはなんとかオンラインでも「朝渋」コミュニティを盛り上げなければと、YouTubeや音声配信など、新しい事業に次々と手を出した。しかし、仕事に打ち込めず苦しむ朝紗子さんと仕事を頑張る皓史さんのズレが、トラブルの元になった。

ふたりの「フルリモート共同経営育児」のリアルを示すエピソードが、通称「クラブハウス事件」だ

2021年1月、音声配信アプリ「Clubhouse」が一大ブームになった。ここで事業のチャンスを掴もうと、皓史さんも早くから参入。「こんまり」こと近藤麻理恵さんの夫・川原卓巳さんらと共に、著名人を呼んで語る番組を毎朝配信していた。

その間、朝紗子さんは子どもの世話をしなければならない。

子どもが泣かないようにあやし、トイレの音さえ気を遣いながら、じっと配信が終わるのを待つ。隣から聞こえてくるのは「○○さん、ルームにようこそー!」という陽気な声……。モヤモヤが募った朝紗子さんが投稿したのが、以下のツイートだ。

「話題のClubhouse 、旦那が楽しそうにやってます。気をつかって別の部屋で配信してくれるけど、そのとき私はこの家に「いるのにいない」みたいな感覚になる。一緒に暮らしてるのに、旦那も私もいない。子どもを泣かさぬよう気をつけて、いつ終わるかわからない配信を一人で待つのはなかなか孤独よね」

「うちも同じ状況です」「同居人のZoomやオンライン飲みもストレス溜まります」 ── 。このツイートは大反響を呼んだ。

子育てにサプライズはいらない

中村朝紗子・井上皓史夫妻

相手のためを思って準備したサプライズが裏目に出てしまったこともあった。

コミュニケーションでのズレもあった。

例えば、サプライズが得意だった皓史さん。手の込んだ料理を作ったり、小さなプレゼントを渡したり……。そんなサプライズは、産前ならふたりの仲を深める有効な手段だったが、産後には逆効果になってしまうことも。

「悩みを聞いてほしいのに、豪勢な料理を用意されて『作ったよ!』と言われても『嬉しいけど、今はそれじゃない……』って。悪気がないと分かるからこそ、指摘がしづらくてつらかった」(朝紗子さん)

同じ家で暮らす皓史さんにも、ストレスは移った。

「(朝紗子さんが)ものすごく疲れているのが分かるので、自分は疲れているとも言えないし、仕事も家庭も一緒だから、ウソをついて外に出ることもできない。怒られたらごめんと謝ることしかできず、精神的に追い詰められました」

育児と両立する「サステナブル経営」を

中村朝紗子・井上皓史夫妻

コミュニケーションはルール化したことでスムーズになった。

「まずは生活を取り戻そう。自分たちがゴキゲンでいられないのは本末転倒だ」

ふたりは話し合い、あれもこれもと展開していた事業を一度、シンプルにする決断をした。YouTube配信はスッパリとやめ、Clubhouseからも撤退。3つに増やしていた「朝渋」のコースも1つに絞った。

「これからも事業は5年、10年と続いていく。焦って本質的でないことに手を出すよりも、その方が結果的にサステナブルだ、って気づいたんです」

お互いがギスギスしないようにコミュニケーションの方法も「ルール化」。以下はその一部だ。

  • 毎朝、体調を点数で言い合う:体調を100点満点中で、それぞれが報告する。慣れない育児で体調のアップダウンが激しい朝紗子さんは、日によって「3点」という日も。体調の点数に合わせて、スケジュールも調整する。
  • 夫婦会議は2〜3時間おき:産前には、毎朝どう動くかの「フォーメーション」を確認していたが、産後は予定通りにいかないこともしばしば。だからこそ数分でも、夫婦会議を頻繁にする。
  • 週末には必ず「ミータイム」:24時間ずっと一緒にいると息が詰まってしまうため、週末は自分時間を確保するように。「ミータイム2時間とってきます」などと申告し、散歩に行ったりカフェに行ったりする。
  • 「話す」から「書く」:口頭でのコミュニケーションが得意な朝紗子さんに対し、一旦議論を整理してから考えたい皓史さん。口喧嘩をすると、皓史さんが何も言えなくなってしまう状況が続いたため、不満は「書く」にシフト。連絡ツールも、流れてしまうメッセンジャーではなくスラックにするなど工夫。
  • コーチングを取り入れる:直接話し合うと険悪な空気になってしまうこともあるため、相手への不満や批判はいったんコーチングを通し、第三者に聞いてもらってから相手にぶつける。

2021年4月、娘は保育園に入園した。家事の分担は以前と変わらず、娘の夜泣きにも交代で対応する日々だが、以前と比べてその気持ちは晴れやかだという。

「ナンバーツー」として朝紗子さんを“支えてきた”皓史さん。子どもが生まれてから二人の関係性は変わりましたか?と尋ねると、あの『逃げ恥』にも出てきたセリフなんですが……、と言い添えつつ、こう答えた。

「育児は“サポート”するものじゃない、親として一緒に成長していくこと。そう、朝紗子から教わりました」

(文・西山里緒、写真・今村拓馬)


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