1年以上にわたり、制限された環境で過ごしてきているのは子どもたちも一緒だ。その副作用として浮かび上がってきているのは……。
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コロナ禍の制限によって“新しい日常”が長期化する中、子どもたちの生活も大きく変容している。
大人と比べて子どもの声はなかなか表に出づらいが、率直な声を拾っていくと「マスクをしていない友だちの顔を知らない」(小学1年生・男子)、「今しかできない体験を諦めなければならないのが悲しい」(中学3年生・男子)など、さまざまなストレスを溜め込む実情が浮かび上がってきた。
自傷や暴力20%という深刻な数字
国立成育医療研究センター「コロナ×こども本部」は、子どもたちや保護者の生活変化、心身の状態について、2020年4月から継続的に任意のアンケート調査を実施してきた。
調査を主導する同センター社会医学研究部研究員で小児科医の半谷まゆみさんは、自身も未就学児を育てるワーキングマザーであり、コロナ禍における保護者・子ども双方のストレス問題を体感してきた一人だ。
当事者として芽生えた課題意識を社会に役立てようと、有志の仲間を募ってプロジェクトを立ち上げたという。
5月末に公表された最新の報告書(2021年2〜3月実施、子ども・保護者合わせて3191名が回答)によると、身体的健康は全年齢群で、精神的健康は中高生群で、前回までの調査と比べてスコアが低下していることが分かった。
からだとこころの健康(日本語版KINDL-R尺度による測定)。
出典:国立成育医療研究センター『コロナ×こどもアンケート 第5回 調査報告 ダイジェスト』
中でも、半谷医師が「ショッキングな数字」と指摘するのが、自分の体を傷つけたり、家族やペットに暴力をふるう行為が見られた子どもが20%もいたという点だ。
「2020年11〜12月に実施した前回調査では、子どものうつ症状が増えている傾向が見られた。自傷行為はその悪化の兆候ではないかと注視している」
子どもの46%が「友だちと話す時間がコロナによる影響で減った」と回答し、保護者の82%が「子どもを自由に遊ばせられる場や機会(公園や子育て広場など)がコロナの影響で減った」と回答していることからも、子どもたちがストレスを発散できる時間を持ちにくくなっていることは明らかだ。
「先生や大人に話しかけにくい」
先生や大人への話しかけやすさ・相談しやすさ。
出典:国立成育医療研究センター『コロナ×こどもアンケート 第5回 調査報告書』
自分の髪を抜いたり、自分や家族を叩いたり、乱暴な言葉が増えたり……。子どもが見せるこういった自傷行動は、“心のピンチ”を訴えるSOSである場合が少なくない。
このSOSを大人が早期に発見し、対処に導くことが求められるのだが、コロナによる“新しい日常”の中では、そのレスキューラインが機能しづらい実態も調査から見えてきた。
「コロナ禍の影響を受けた1年間をふり返って、『先生や大人に話しかけたり、相談したりがしづらくなった』と回答する子どもが過半数に上ったんです」
その原因として半谷医師が指摘するのは、大人自身も余裕がなくなっていること。
「別の設問では、『勉強が難しくなった』と感じる子どもが増えているという傾向も。休校によるしわ寄せで教科指導のカリキュラムを早くこなさなければならないプレッシャーがあり、学校の先生も余裕がない。先生が忙しそうで質問しづらい状況や、マスクでお互いに顔が見えないので学習の理解度を確かめづらい様子がうかがえます」
子どもがストレス発散のためにできる2つのこと
では、コロナ禍で子どもがストレスを溜めないために、大人は何ができるのか。
半谷医師によると、できることは大きく二つ。一つは、ストレスコーピング(=対処法)の選択肢を示してあげること。
「子どもは人生経験が少ない分、ストレス解消の方法をあまり知らない。大きな声で歌う、自然に触れるなど、いろいろなバリエーションがあると知るだけで解消につながりやすくなる。選択肢を多く持つことが重要です」
半谷医師らは、子どもたちから集めた「お気に入りのストレス発散方法」の回答をもとにまとめた「気持ちを楽にする23のくふう」を公開している。
こういったツールを使って家庭の中で話題にしてみたり、友達同士で「イチオシのストレス発散方法」を紹介しあったりする機会をつくるのもおすすめだという。
ストレスを抱えている子どもの立場に寄り添い、話を聞くだけでも良い効果が得られる。
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もう一つ、大人ができる対策として重要なのが「子どもの気持ちを聞く姿勢」だ。
「アンケートに協力した子どもたちからも『回答することで、スッキリした』という感想が見られる。今の自分の気持ちを、誰かが関心を持って聞いてくれる時間があれば、それだけでも安心感を得られる。『子どもの様子を知りたいなら、親はスマホを見過ぎないでほしい』という鋭い指摘もありました」
ポイントは、「どうなの?何を考えているの?」と大人から質問攻めにしないこと。
例えば一緒に料理をしたり、ストレッチをしたりと、スキンシップをしながらともに楽しめるリフレッシュタイムを試してみるといい。孤立感の解消につながり、大人の心の健康にも有効だ。
一緒に過ごす中で、子どもが不満や不安を口にし始めたら、「そうだったんだね」と共感の言葉で受けとめる。
解決を急いで「だったら○○しなさい」と言いたくなるかもしれないが、まずは子どもの気持ちをそのまま受け止めるリアクションをすることが大事なのだという。
「大したことなかった」で終わらせないで
ただし、子どもは大人と比べて、気持ちを言葉で説明することがうまくできない。その結果、頭痛や腹痛などの身体症状となって現れることもある。
「子どもが何か症状を訴えたら、無理はさせずに休ませてほしい。医師の診断を受けて『大したことはなかったね』と終わらせず、学校や保育園・幼稚園とも共有して様子を見守りましょう」
いまだ終わりが見えないコロナ禍で、子どもたちの心身の状態を社会全体で見守っていく必要性を半谷医師は感じている。
1年間の予定だった調査は、今後もペースを変えて継続していくという。
(文・宮本恵理子)