平壌で、朝鮮労働党幹部との会合に出席した北朝鮮の金正恩総書記。2021年6月8日公開。
KCNA/via REUTERS
- 北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党総書記の体重が減っているとみられることが、NKニュースの分析記事や専門家の指摘によって明らかになった。
- 金正恩氏の体重については、韓国の情報機関が2020年11月の時点で300ポンド強(約136キロ)はあると報告していた。だが、今はこの時より少しスリムになったようだ。
- 金正恩氏の体重が世界的な注目を集めるのは、これが本人の健康状態、ひいては北朝鮮の独裁政権の行く末を占う上での重要な情報となるからだ。
北朝鮮の最高指導者、金正恩氏はここ数年、大幅に体重が増加していたが、最近になって体重が減っている様子であることが、北朝鮮ウォッチャーおよび、国営メディアの報道を分析したNKニュース(NK News)の記事により明らかになった。
2020年11月の時点で、韓国の情報機関である国家情報院(NIS)は金正恩氏の体重について、300ポンド(約136キロ)強はあると報告していた。
10年間の変化。2010年10月と2021年1月。
@alistaircolemanと私は金正恩の体重増加について話していたが、この経過は独自のツイートに値するだろう。だからこそ、金正恩にとっての最大の脅威は彼自身の健康だと多くの人が考えているのだ。
NISによると、10年前に権力の座に就いた時点では、金正恩氏の体重は200ポンド(約91キロ)弱だったという。
金正恩氏の身長は5フィート7インチ(約170センチ)ほどと推定されている。体重が300ポンドを超えたとすれば、30代半ばとされるこの北朝鮮の最高権力者は、極度の肥満で、さまざまな健康上の問題のリスクにさらされる恐れがあるだろう。
2020年4月には、明確な説明もなく公の場に姿を見せない期間が続いたことで、金正恩氏が手術を受けたのちに「非常に危険な状態」にあるとの憶測が広まり、死亡説のほか、危篤あるいは脳死状態にあるとの噂が拡散した。
その後、金正恩氏は再び元気そうな姿を見せたが、健康状態が万全ではないことは明らかだった。以下の写真は、2021年の2月末あるいは3月初旬に撮影された金正恩氏の姿だ。
平壌で演説する金正恩氏。2021年3月4日公開。
KCNA/via REUTERS
金正恩氏は2021年6月5日、国営の朝鮮中央テレビ(KCTV)に登場した。この時の様子については、NKニュースの上級分析特派員コリン・ズウィルコ(Colin Zwirko)がツイッターで指摘したのに加え、北朝鮮ウォッチャーたちからも、正恩氏がかなり痩せたようだとの声が上がった。
カメラの角度のせいなのか、それとも金氏が「激やせ」したのだろうか
国営メディアが公開した複数の正恩氏の写真の中から、NKニュースが注目したのは、1万2000ドルとされるIWCシャフハウゼン(IWC Schaffhausen)の高級腕時計「ポートフィーノ・オートマティック」(Portofino Automatic)を着用していた様子だ。その分析の結果、留め具から出ているバンドの長さが、最近の写真では2020年11月より長くなっていることを突き止めた。これはすなわち、手首が細くなり、以前より時計のバンドをきつく締められるようになったということだ。
金正恩は体重が減ったのか。彼の時計のバンドは、確かにそれを示唆している。
この手の分析は、科学的に正しいとは限らない。とはいえ、国営メディアで発表される画像や映像の分析は、北朝鮮国内の情勢に関して多くの情報をもたらしてくれる。特に、同国の核弾頭やミサイル開発計画に関しては大きな情報源となっている。
米国のシンクタンク、戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International Studies:CSIS)に所属する北朝鮮専門家、スー・ミー・テリー(Sue Mi Terry)は「入手可能なすべての情報源を活用する必要がある」と述べた。
「北朝鮮のように、情報統制が厳しく、内情を知ることが非常に難しい国では、できることはすべてやらなければいけない」とテリーは述べ、オープンソース・インテリジェンス(公開されている情報の分析)が役に立つことを示唆した。
朝鮮労働党幹部との会合に臨む金正恩氏。2021年6月8日公開。
KCNA/via REUTERS
最近になって公開された写真では、金正恩氏の顔は少しほっそりしている。過去の行事の際の写真と比較しても、着用している服装に多少のゆとりがあるように見える。
在韓米軍で情報将校を努めるマイケル・ブロドゥカ(Michael Brodka)はNKニュースに対して、「表向きには、目に見えてわかる体重減自体に大きな意味はない」と述べている。
「だが、情報収集にあたる当局者が求めている、他の情報にたどりつく手がかりになる可能性はある」
「健康的な生活を送るようになったという単純な理由かもしれないが、より複雑な問題が絡んでいる可能性もある」と、ブロドゥカは体重減についての見解を述べた。
「現時点では、我々には何が原因かはわからない。だがこれは、今後数カ月にわたって動向を注視する必要がある、重要ないくつかの疑問を提起する現象だ」
金正恩氏の体重と、それに関連する健康状態への懸念、加えてヘビースモーカーで酒量も多いとされる生活習慣の問題は、長いあいだ、北朝鮮の独裁政権にとってリスク要素と考えられてきた。さらに、仮に正恩氏が急死した場合に誰が最高権力者の座を受け継ぐのかという問題をめぐって、多くの憶測を生んできた。
平壌で開催された朝鮮労働党中央委員会の総会に出席した際の金正恩氏。2021年2月9日公開。
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核保有国を自称する北朝鮮において、政権の行く末を揺るがしかねない正恩氏の健康問題は、他国から見るとかなりの懸念材料だと考えられる。
「仮に金正恩氏の身に何かが起きた場合、権力が誰に受け継がれるのかはまったく不透明だ」と、CSISのテリーは指摘する。「正恩氏が健康に問題を抱えていることは明らかだ」と同氏は述べ、正恩氏の体重の増減や全般的な健康状態について「我々は注視する必要がある」と強調した。
経験豊富な記者で、北朝鮮の専門家でもあるアンナ・ファイフィールド(Anna Fifield)は、2019年の著書『The Great Successor: The Secret Rise and Rule of Kim Jong Un』の中で、同国の若き最高指導者について「いつ心臓発作を起こしてもおかしくない状態だ」と記している。正恩氏の父親の金正日氏も、脳卒中で倒れたとされる数年後に、心臓発作で死去している。
テリーによれば、国家指導者の健康状態は、政権の安定性をはかる「最も重要な指標のひとつ」だという。そして北朝鮮にとって「金正恩氏の健康問題は、最大の不確定要素だ」という。
(翻訳:長谷 睦/ガリレオ、編集:Toshihiko Inoue)