出典:アップル
6月8日(日本時間)に開幕したアップルの開発者向けイベント「WWDC21」の新発表で、個人的に注目しているのが、ビデオ通話機能「FaceTime」の大幅アップデートだ。
音が自然な方向から聞き取れるようになる「空間オーディオ」に対応し、また、マイクも周辺の雑音カットに対応した。さらに、ポートレート機能によって背景をぼかすこともできるようになる。
さらに注目は「FaceTime Links」だ。
これまでFaceTimeが使える相手は、アップルデバイスに限定されていた。それがiOS15以降は、AndroidやWindows PCでも参加できるようになる。
FaceTime Linksの設定画面。Zoomなどでおなじみの、端末を問わず接続できるリンクを相手に送ることができるようになる。
出典:アップル
FaceTime Linksでは、FaceTime通話をWebリンクの形で、他のユーザーに共有することができるようになる。Webブラウザー版のFaceTimeができた、ということだ。Zoomなどのようにあらかじめ日程を決めることもできる。
これまでは、「アップルユーザーしか使えない」ために、ビデオ会議でFaceTimeを使おうという話にはまずならなかった。
今後は、AndoridやWindows PCを仲間に入れることで、ZoomよりFaceTimeの使用頻度のほうが上がるかもしれない、と筆者は思っている。
なぜZoomよりもFaceTimeなのか? 実際、筆者の周辺ではこんなことが起こっている。
プロの現場で「指名」されるFaceTime
左がiPhone上のFaceTime。右はAndroidからブラウザーでアクセスしたFaceTime。フル機能のFaceTimeではないが、基本的なビデオ会議機能が使える。
出典:アップル
この1年、コロナ禍でZoomやGoogle Meet、マイクロソフト・Teams、シスコ・WebExなど、さまざまなビデオ会議ツールを使ってきた。しかし、どれも画質や音質に納得できるものはなかった。
そんななか、FaceTimeの画質と音質には満足していた。とにかく綺麗で、接続が安定している印象が強い。
実際、某ラジオ局で電話中継で出演する際にはスタッフの人から開口一番「石川さん、iPhone使ってますか? できればFaceTimeでつなぎたいです」と言われるほどだ。
つまり、ラジオ収録現場の「音のプロ」が使いたいと思えるクオリティをFaceTimeが満たしているというわけだ。
また、某テレビ局の朝の情報番組も、リモート収録の際はまず「FaceTimeで」と指定が来る。確かに普通の電話回線よりFaceTimeでつないだほうが、声がクリアに聞こえるため会話の間合いがとりやすく、しゃべりもスムーズにいくような気がしている。
筆者は自分のラジオ番組を持っていたりもするのだが、例年、WWDCのときには、シリコンバレーのホテルと東京・虎ノ門にあるスタジオをFaceTimeでつなぎ、アシスタントと目配せしながら収録を進めていたりする。
会話のしやすさにおいて、FaceTimeは他のビデオ通話ツールよりも優秀な気がしてならないのだ。
また、これまでFaceTimeは720pのHD画質でつながっていたが、Wi-Fiもしくは5Gネットワークに接続したiPhone 12シリーズであれば、1080pのフルHD画質になる。臨場感を伝えるという点において、申し分のないスペックになる。
「ビデオ会議」の次に行くShare Play機能
Share Playで、友人と2人で同じ動画を見ながら、FaceTimeをしている様子。実は背後ではデリバリーアプリが動いていて、到着待ちもしているという情報量の多い画面。
出典:アップル
FaceTimeの機能進化で「アップル、したたかだなぁ」と感じさせられたのが、「Share Play」という機能だ。
これはFaceTimeで通話をしながら、動画をほかの人と一緒に見られるという機能だ。
コロナ禍でなかなか人にリアルで会えないなか、ビデオ通話をしながらオンライン飲み会をするといっても、誰かが話をし続けなくてはいけなかったりと結構、面倒くさかったりする。
FaceTimeで同じ映画を同時に見ながら、雑談しつつお酒が飲めたら、楽しく過ごせそうだ。
WWDC基調講演で発表された、現時点でSharePlay対応を表明しているコンテンツ事業者の一覧。
出典:アップル
ただ、取材で機能を深堀りすると面白いこともわかってきた。
映画や音楽をFaceTimeで一緒に観たり聴いたりできるのがウリの機能ではあるが、実はこれ、「会話に参加している人たちがすべて同じサービスを契約」していなければならない。
1人だけが有料の動画配信サービスを契約し、それらをシェアするというのではないのだ。
つまり、誰かが「この映画をみんなで観よう」と言い始めたら、ほかの人たちも、その動画配信サービスに入っていなければ、「みんなで映画鑑賞」は成立しない。
動画配信サービスを提供する側からすれば、ユーザーが、他の人が契約をする際の背中を押してくれるということもあり、魅力的な機能強化に感じることだろう。
すでにアメリカのディズニープラスやHuluなどが対応を表明しており、日本の動画配信サービスも、今回の発表を受けて、何らかの対応を迫られることになりそうだ。
アップル製品の売り上げを伸ばしつつ、コンテンツ提供側にもメリットがあり、ユーザーも楽しいという点において、Share Playは他社には真似できない、今年を代表するサービスになりそうな気がしている。
(文・石川温)
石川温:スマホジャーナリスト。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。ラジオNIKKEIで毎週木曜22時からの番組「スマホNo.1メディア」に出演。近著に「未来IT図解 これからの5Gビジネス」(MdN)がある。