7月6日、ドイツ東部ザクセン・アンハルト州議会選挙で、出口調査の結果が発表されたあと会見する環境政党「緑の党」ベアボック共同党首。
Markus Schreiber/Pool via REUTERS
ドイツ東部ザクセン・アンハルト州で6月6日に投開票された州議会選挙は、メルケル首相が所属する保守系与党、キリスト教民主同盟(CDU)の圧勝で幕を閉じた。今年9月に控えるドイツ連邦議会選挙を前にした「最後の前哨戦」として注目された選挙だった。
連邦議会選挙の台風の目になるとみられる「緑の党」は、もともと旧東ドイツ地域での支持をあまり得られておらず、今回の州議会選挙で第6党に甘んじたことは想定の範囲内だ。
ただ、これから国政にくり出すにあたって、緑の党が「限界」を露呈したということは言えるだろう。
直前の世論調査では、CDUと極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の接戦が予想されていたが、実際にはそうはならず、10ポイント以上の得票率格差がついた。ワクチン接種率の伸びにみられるように、感染抑制策が奏功している足もとの状況が、メルケル現政権および与党への追い風になったようだ。
過去の寄稿に書いたように、今年3月の(西部2州)州議会選挙は、与党CDUが惨敗した一方で緑の党が躍進、9月の連邦議会選挙では第2党の社会民主党(SPD)の得票次第で、CDUに下野の可能性との見方も出ていた。
ただ、当時はイースター休暇(4月1〜5日)を直前に控え、感染予防策をめぐってメルケル首相が国民に公然と謝罪を強いられ、感染予防のための行動規制すら撤回を迫られるなど、政府・与党の迷走が指摘されていた時期だった(さらに与党議員のスキャンダルも足を引っ張っていた)。
イースター休暇を経て行動制限が順次解除され始めた4月から5月初頭にかけても、CDUへの風当たりがまだ強く、下の【図表1】からわかるように、世論調査でも緑の党からCDUの背中が(追いつきそうなほどに)見えていた。
【図表1】ドイツの各政党支持率の推移。
出所:Infratest dimap資料より筆者作成
しかし、今回の州議会選挙の結果にあらわれたように、ここから先の世論調査ではCDUが存在感を取り戻す可能性が出てきた。そのまま9月の連邦議会選挙に突入する展開も考えられる。
「危機に強いメルケル」は最後まで健在で、16年間の任期をまっとうする……そんな結果になるのだろうか。
ドイツの社会状況はこの3カ月で一変した
ドイツに限らず、(パンデミック下の)政府・与党への支持率は、やはりコロナの感染抑制度合いに比例すると考えられる。
CDUが立て続けに州議会選挙に敗北したのが3月、それから今日までのおよそ3カ月で、ドイツを取り巻く空気はすっかり変わってしまった。
下の【図表2】は「ZEW景況感指数」(=欧州経済研究センターが毎月1回発表するドイツの景気予測指数)の推移を示すグラフ。現状指数に遅れるかたちで期待指数も急改善している。
【図表2】ZEW景況感指数(現状指数と6カ月先の期待指数)。
出所:Macrobond資料より筆者作成
また、続く【図表3】は「Ifo景況感指数」(=公共研究機関Ifoが毎月発表しているドイツの景況感指数)の推移で、半年先の景況感を示す期待指数が、5月に2年ぶりの高水準を記録している。
【図表3】Ifo景況感指数の推移。
出所:Macrobond資料より筆者作成
冒頭で少し触れたように、こうした景気見通しの明るさが、メルケル政権への支持につながっていると推測される。
そもそも、9月の連邦議会選挙については、前回(2017年)の連邦議会選挙で猛威をふるった「反移民」が争点からはずれたため、当時躍進を果たした極右政党の主張が見えにくくなっていた。
さらに、“環境一本槍”でCDUを追い詰めようとしていた「緑の党」も、ここに来て「新型コロナウイルスの(ワクチン接種進捗による)感染抑制」という問答無用の金看板を手に入れたCDUの前では、存在がかすんでしまう空気も感じる。
ドイツのワクチン接種が加速したのは4月に入ってからで、7月には早くも希望する国民への接種が完了する見通しと言われる。
メルケル首相の後継者と目されるCDUのラシェット党首は、連邦議会選挙で敗北すれば引責辞任もありうる状況だったが、ワクチンの安定供給と順調な接種進捗に救われた形だ。
「緑の党」は台風の目であり続けるか
もっとも、ここまでの分析は、破竹の勢いだった緑の党の支持率に「天井が見えた」というだけ。与党CDUが単独で政権を維持できるところまで形勢が回復するかどうかはまったく別の話だ。
緑の党とCDUが互角の状況は変わっていないとすれば、緑の党が他の党と左派連立を組んで過半数を押さえる可能性もまだ残されている。また、緑の党、社会民主党(SPD)そして中道の自由民主党(FDP)による連立政権の可能性もある。
いずれにしても、与党CDUが下野するシナリオは、可能性の上ではまだ残されている。その観点からすると、9月の連邦議会選挙は、開票結果だけでなく、それを受けた連立交渉の行方まで注視すべきだろう。
もっとも、緑の党が悲願の政権入りを目指すにあたっては、コロナ収束の先行きがまだまだ不透明であることを踏まえて、党勢に陰りのある野党と結託するのではなく、感染抑制の実績を評価されて勢いを得たCDUと組むほうが賢い選択であるように思える。
左派連立を組んで過半数を押さえたはいいが、間もなく瓦解といった事態に陥れば、緑の党のイメージは大きく損なわれることになる。
そのようにCDUが緑の党のパートナーになりうることまで考えると、CDU下野の可能性は相当に薄まったと言えるだろう。
※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。
(文:唐鎌大輔)
唐鎌大輔(からかま・だいすけ):慶應義塾大学卒業後、日本貿易振興機構、日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局に出向。2008年10月からみずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)でチーフマーケット・エコノミストを務める。