ビジネス特化型SNSのリンクトイン(LinkedIn)が、プロフィールに表示する「雇用形態」の欄に「主婦・主夫」のタブを新たに設けた。出産や育児などで一時的に仕事を退職した女性たちから、「主婦(夫)をキャリアとして反映できる方法が欲しい」という声が上がったことが背景にあるという。
きっかけは離職女性からの訴え
キャリアの空白は「恥」なのか?偏見を払拭するビジネスサイトの取り組みを追った。
提供:リンクトイン・ジャパン
リンクトインのプロフィールの職歴表示欄には、勤め先の企業名とその雇用形態(正社員など)のみ表示できる仕組みだったが、今後は新たに「主婦・主夫」でも登録できるようになる。
リンクトイン・ジャパンはこれまでも主婦(夫)の復職や、企業の採用担当者のアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)をなくすよう支援してきた。
育児などの生活上の事情で仕事を辞めると、その期間はキャリアの「空白」と見なされることが多い。
新機能の追加は、そんな風潮に違和感を持つ女性たちから「主婦(夫)もキャリアとして反映できる方法が欲しい」という声があがったことが背景にあるという。
「私たちは家庭での時間もキャリアとして重要な期間だと考えています。今回の『主婦・主夫』登録機能の追加は、多様性に対応し、雇用格差を縮小することを目指した活動の一環です」(リンクトイン広報)
キャリアの空白は「恥」?
育児に介護……多様化する家族のかたちに、ビジネスはどう応えるか(写真はイメージです)。
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新機能の追加は日本だけでなくグローバル共通だ。
同社がアメリカの18~69歳の求職者2101人を対象に調査したところ、72%が「職歴に空白期間があることは恥ずかしい」と考えていたという。一方、採用担当者(1009人)の79%は「職歴に空白期間があっても採用する」と答えており、認識の違いが生じていた。
日本ではこうしたキャリアの空白、特に出産・育児をきっかけに女性の労働力率が下がることを「M字カーブ」と呼び、長年問題視してきた。しかし職歴の空白を恥と感じるアメリカと異なり、日本では今も「男性は外で働き、女性は家庭を守るもの」という固定観念が根強く残る。
主婦・主夫になる背景は
「主婦(夫)」にならざるを得なかった人も、自ら選択した人も生きやすい社会へ。
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内閣府の2019年の調査では、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考えについて、賛成35%、反対59.8%だった(「男女共同参画社会に関する世論調査」)。
国際NGOプラン・インターナショナルが2020年に全国の大学生や高校生らを対象に行った調査では、「家事や子育ては女性がしたほうがよいと思うか」という質問について、「そう思う」「どちらかというとそう思う」と答えた割合は、女子25%に対して男子38%と、若い頃から男女の意識差が大きいことも分かっている(「日本における女性のリーダーシップ 2021」)。
事実、国立社会保障・人口問題研究所が2018年9月に発表した「全国家庭動向調査」によると、夫婦の平日の1日の平均家事時間は妻は263分、夫は37分。同じく育児時間は妻は532 分、夫 は86分と、それぞれ約7倍、約6倍の大きな差がある。こうした家事育児の不均衡もキャリアの空白につながっているだろう。
M字カーブは近年、解消したとも言われているが、実質解消の要因となった雇用増の内訳は非正規が多く、またサービス業などを中心にしたコロナ禍での雇い止め問題が女性にふりかかるなど「女性不況」も深刻だ。
仕事を辞めざるを得なかった人への支援が必要なのはもちろん、自らの意志で「主婦(夫)」を選んだ人も、生きやすい社会へ。
リンクトインの今回の取り組みは、主婦(夫)本人の自信を取り戻し、社会の偏見をなくすための一助となるか。
(文・竹下郁子)