ビックカメラのECサイトに導入された「オンライン接客」体験中の画面。Surfaceシリーズの検討時に利用できる。裏側はマイクロソフトが担当する。
出典:日本マイクロソフト
2020年度に1591万台(MM総研調べ)という記録的な台数の出荷を実現した日本のPC市場。
その大きな要因は、文部科学省が推進する小中学校の児童生徒に1人1台のPCを実現する政策「GIGAスクール構想」、そして2020年のコロナ流行によるテレワーク推進にある。
GIGAスクール向けの導入も今年3月で一段落し、2021年度はその反動で出荷台数減になると予想されており、各社ともその穴を埋めるべく、必死の様相だ。
そんななか、EC時代の小売りの活路として「オンライン接客」が注目されている。各社導入が始まり、一部では高額商品だからこその手応えも出始めているという。
マイクロソフトが、ビックカメラと組む「オンライン接客」の姿
買い手側はビデオオフでマイクだけをオンにして接客を受ける設計であることがノウハウの1つ。プライバシーへの配慮と、自分を映すことへのハードルを下げることが目的。
出典:日本マイクロソフト
米マイクロソフトは、コロナ禍の悪い影響を、テクノロジーで良い方向に「DX」していった企業の1つと言える。
同社のビジネスチャット「Teams」は、コロナ以前の2019年11月時点で2000万人だった日間アクティブユーザー数(DAU)が、約1年半後の2021年5月時点で7.5倍の1億4500万人へと激増した。
マイクロソフトは小売りの「現場」も大きく変えようとしている。この1年で、同社は全米に展開していたリアル店舗(Microsoft Store)の閉鎖を決め、「自社直販はすべてEC(電子商取引)へ移行」すると決めた。
「オンライン接客」を推進する背景には、このようなリアル店舗の大改革がある。
実は今、PCマーケットではオンライン接客が流行し始めている。世界PC出荷でシェア2位の米HPが導入したほか、レッツノートで知られるパナソニックもこの6月から、オンライン接客の仕組みを開始した。
マイクロソフトのオンライン接客ツールは、英Go Instore社が提供している。このオンライン接客では、接客担当者と顧客が1対1でオンライン接続される。
ZoomやTeamsなどのビデオ会議ソフトの小売り向けと考えるとわかりやすいが、買い手は「ブラウザーから接続するだけ」と非常に手軽なのが特徴だ。
こうしたいわゆる製品展示エリアのほか、冒頭のように家のさまざまな環境を模したブースがある。
出典:日本マイクロソフト
マイクロソフトは日本国内でも、Go Instoreによるオンライン接客の仕組みを今年4月から導入している。家電小売り大手「ビックカメラ」と共同で取り組み、ビックカメラのECサイトの機能であるかのように使える。
利用するには、ビックカメラ.com上からアイコンをクリックするだけだ。利用時間内(11~22時)で担当者の手が空いていれば、すぐに応答して接客してくれる(担当者が空いていない場合は順番を待つ)。
ビックカメラ上でSurfaceの製品ページを表示するとこのような通知で、オンライン接客に誘導する仕組みになっている。
出典:日本マイクロソフト
「オンライン接客を受けると、成約率が上がる」
「ビックカメラのWebサイトだけを見て検討して購入に至る割合より、オンライン接客を受けてから購入する割合のほうが高いことを示す数字がとれてきている」
日本マイクロソフトの森洋孝氏(コンシューマー事業本部 コンシューマーマーケティング本部)は筆者の取材にこう答えた。
日本マイクロソフト コンシューマー事業本部 コンシューマーマーケティング本部 森洋孝氏。
出典:日本マイクロソフト
顧客の購入率の向上という、具体的な効果がすでに確認できているのは興味深い。
メーカーにとっては、リアル店舗を設置して「ショールーミング」(=店頭で商品を買わずに体験すること)してもらってでも、最終的に購買に結びつけたいのだから、オンライン接客に効果があるというマイクロソフトの手応えは、実感のあるものだろう。
森氏によると、オンライン接客後、買い手はまずビックカメラのECサイトに誘導され、そこで製品を購入できる(もちろん他のECサイトで購入することも可能)。
また、どの接客担当によって「最終購入に至ったのか」などに関しては、ある程度追える仕組みがあるという。
つまり将来的には、例えば、顧客が購入に至る最後のプッシュをした人にインセンティブをつけるなどの使い方も、仕組みとしては実現可能だ。
ECサイトはどうしても価格比較重視になりがちで、家電小売りの販売ノウハウが発揮しづらい市場でもある。顧客流出に悩む既存の小売り事業者にとっては、リアル店舗の経験豊富な接客担当のスキル活用は、「大手ECとの差別化」になる可能性を秘めている。
自動車業界も注目、オンライン接客は2020年代の潮流か
このようなオンライン接客がビジネスとして成り立つのには、いくつか条件がある。
例えば、PCが10万円を超えるような高付加価値商品である、という特徴はその1つだ。
高付加価値な製品は、流通事業者の取り分が大きく、一定のコストで成約率が上昇するなら、オンライン接客にコスト投下することにも意味があるのだ。マイクロソフトだけでなく、米HPやパナソニックも導入していることは、それを裏付けている。
次にオンライン接客が立ち上がる業界はどこなのか?
「高付加価値商品」の代表格である自動車業界も、今、従来のディーラーによる対面販売から、ECサイトでの販売へと移行を模索し始めている。
北欧の自動車メーカー・ボルボカーズは3月上旬に行った記者会見で、BEV(Battery Electric Vehicle、完全電気自動車)の販売を今後はオンライン販売のみに切り替えると明らかにしている。
整備やアフターケアなどがあり、ディーラー網をなくすのは難しい。したがって、ディーラー自身もオンライン販売に関わっていくと考えられている。
前出のマイクロソフトの例と同様に経験豊富な販売員を抱えているディーラーにとって、オンライン接客はEC時代を生き残るための新しい武器となる可能性を秘めている。
(文・笠原一輝)