電気自動車(EV)シフトを受け、全世界で充電ステーションへのニーズが増大している。
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アメリカでは、2020年代に大量に市場投入される電気自動車(EV)のインフラとなる「充電ステーション」が不足している。
現在、全米約4万1000カ所に充電ステーションが置かれているが、そのうち急速充電が可能なのは5000カ所にすぎない。端的に言えば、電気よりガソリンのほうが燃料として手軽に使える状況はこれからも当面続くということだ。
複数の企業がこの状況を変えようと取り組んでいる。
ただし、それらの企業は、ガソリンスタンドのように道路という道路に充電ステーションを建てまくるビジネスモデルは想定していない。彼らが考えているのは、もともと車が駐車する場所に充電ステーションを置く手法だ。
世界最大級のEV充電ネットワークを展開する米チャージポイント(ChargePoint)は、映画館やショッピングモール、図書館など、人々が(自宅以外で)集まる場所をターゲットにしぼり込んでいる。
同社は11万2000カ所の充電スポットを世界中に展開していくなかで、1年半前まで多くの人が目覚めている時間のほとんどを過ごし、いま着実に復帰を進めようとしている場所、すなわち「オフィス」にフォーカスしてきた。
充電環境の整備は「福利厚生」
電気自動車の普及拡大を望むすべての人にとって、チャージポイントの戦略は良い結果をもたらしている。
米デューク大学ニコラス環境政策ソリューション研究所のジェニファー・ワイス(シニアポリシーアソシエイト)は、自宅での充電は難しいがEVを選びたい人たちのニーズに応えるという意味で、職場に充電ステーションを設置するのは有効で、「自家用EVでの通勤を促すことになる」と分析する。
米エネルギー省は2016年公表のレポートで、職場での充電が可能になれば、企業の従業員がEVを選ぶ可能性は6倍に跳ね上がるとの試算を示している。
オフィスでの充電は、従業員にとって便利な特典になるだけではない。優秀な人材を惹きつけ、会社にとどまってもらうインセンティブにもなる。
「EV充電環境は一種の福利厚生でもあります。EVを選びたい人を対象にした『採用戦略』の一環と言ってもいいでしょう」(ワイス)
チャージポイント側ももちろんそれがアピールポイントであることを重々承知している。同社シニアバイスプレジデントのビル・ローウェンタールはInsiderの取材に次のように語った。
「創業からおよそ14年、オフィスは当社にとって重要ターゲットの1つであり続けてきました。
職場に充電環境を整備することの目的は、サステナビリティの実現や優秀な人材の確保、福利厚生の充実など。どの企業の経営陣も、この取り組みを通じて従業員へのEV普及やサステナビリティの実現に貢献できることは、すでに認識しています」
規模拡大にはちょっとした問題が
職場での充電というアイデアにはメリットしかないように思えてくるが、企業が充電ステーションを自社敷地内に整備するにはちょっとした問題がある。
ローウェンタールは、規模拡大の際に問題が生じる例をあげる。
「規模を拡大する場合は、綿密な事前計画が必要になります。EVに乗り換える従業員がどのくらいの割合になり、結果として自社の駐車場の状況がどんな急速に変わっていくか、企業側はなかなか事前に想定できません。
従業員が通勤に使う自家用車にせよ、会社が保有する営業車両にせよ、より多くの充電能力が必要になる場合もあるのです」
その点、チャージポイントの顧客に「リピーター」が多いのは、拡張が容易だからだ。職場の充電ステーションを拡張した顧客企業は、いずれも例に漏れず、充電スロット数台分(の導入)から始めている。
同社の顧客リストには、サンフランシスコ・ベイエリアだけで充電ステーション223基を整備したリンクトイン(LinkedIn)、あるいはユナイテッド航空のような大企業から、地元の歯科矯正医や生花店といったスモールビジネスまで多岐にわたる企業名が連なる。
2020年にチャージポイントが公表したレポートのなかで、アマゾンのファシリティマネージャーはこうコメントしている。
「職場に充電ステーションが導入されて以来、EVで通勤するスタッフが増えたのは間違いありません。
それより何より驚いたのは、競争の激しいベイエリアの労働市場で人材を確保し、つなぎとめるのに、充電インフラが役立ったことです。当社としては優秀な人たちを採用できたし、採用された側も満足していると思います」
(翻訳・編集:川村力)