2016年3月13日に撮影された「不発」だった太陽の爆発現象。
NASA/Solar Dynamics Observatory
- 科学者らはこのほど、2016年に発生した分類不能な太陽の爆発現象について研究を行った。
- この現象は、3種類の爆発現象を結びつけたことから「ロゼッタストーン」と名付けられた。
- 研究の結果、3種類の爆発現象の起源はすべて同じである可能性が示唆された。
太陽は活動レベルが低い時期以外は、巨大な爆発現象を起こすなど、とても活発に活動している。
これらの爆発現象にはいくつかの種類がある。太陽表面からの物質が細いビーム状に噴出される「ジェット」や、同じ物質が塊となって噴出される「コロナ質量放出(CME)」だ。また、噴出したエネルギーや粒子が宇宙空間まで飛び出さず、太陽に向かって落ちていくこともあり、これは「部分的な噴出(partial eruption)」と呼ばれている。
しかし、2016年3月、アメリカ航空宇宙局(NASA)の科学者らは、これらの分類にうまく当てはまらない爆発現象を検出した。ジェットにしては太すぎるがコロナ質量放出にしては細すぎる、高温の物質の層が噴出されたのだ。その30分後には、同じ場所から「部分的な噴出」が起こって低温のプラズマが噴出したものの「不発」となり、再び太陽に落ちていった。
2021年6月7日に開催されたアメリカ天文学会で発表された新たな論文では、この現象を「ロゼッタストーン(3つの言語が記されていたことでヒエログリフ解読のきっかけとなった石版。情報を解読するための鍵となるものを指すことも)」と呼んでいる。というのもこの爆発が、3種類の爆発現象を結びつけ、さらには同じ発生メカニズムである可能性も示したからだ。
「この現象は、異なる種類の爆発現象を1つのパッケージとして見ることができる『ミッシングリンク』と言える」とNASAゴダード宇宙飛行センターの太陽科学者であるエミリー・メイソン(Emily Mason)は声明で述べている。
「これらの爆発現象はスケールが違うだけで、同じメカニズムによって引き起こされていることがよくわかる」
現在、科学者たちが考えているのは、太陽の爆発現象がジェットとコロナ質量放出を両端とするスペクトラム上に存在するのではないかということだ。しかし、これらの爆発が発生する基本的なメカニズムや、それぞれの形態をとる理由については解明されていない。
今回の研究によって、その答えに近づき、いずれは地球が影響を受けるような大規模な爆発現象が起きる時期についてもより正確に予測できるようになるだろう。
科学者たちを悩ませる「不発」の爆発現象
NASAの太陽観測機「STEREO(Solar Terrestrial Relations Observatory)」が撮影したコロナ質量放出(CME)。
NASA/STEREO/COR2
爆発現象に至る条件は、数日から数週間かけて積み上げられていく。
太陽の自転とともに、その磁力線はねじれて絡み合う。2つの逆に帯電した磁場が離れると、それらをつなぐ磁力線が輪ゴムのように伸び、そこにエネルギーが蓄積され、プラズマで満たされる。そのエネルギーや粒子は、磁場が切れたりつながったりすること(磁気リコネクション)によって放出される。そうして最終的に爆発が起こるが、それを引き起こす明らかなトリガーは、いまだに解明されていない。
「ロゼッタストーン」噴火の場合、まず2016年1月に、爆発を引き起こす可能性のある激しい磁気活動の領域が確認された。
それから2カ月経たないうちに、高温プラズマのドームが爆発し、ジェットとコロナ質量放出の中間のような現象が観測された。その下にあった低温プラズマのリングも同様に爆発するかと思われたが、「ジェットコースターのレールを走る車」のように上昇したあと下降した、とメイソンは大学宇宙研究協会(Universities Space Research Association)に語っている。
この「部分的な」あるいは「不発」の爆発は、科学者にとって不可解なものだったため、メイソンのチームは現在、コンピュータモデルを使ってさらなる手がかりを探している。
何が爆発の引き金になるのか、あるいはなぜ爆発が中途半端に終わることがあるのかが分かれば、太陽嵐を地球に接近する数時間前に検出できる可能性がある。
現在、科学者が宇宙天気を確実に予測できるのは、その発生の約1時間前だ。最も激しい太陽嵐が、宇宙船の操作を妨害し、宇宙飛行士が地球と通信するのを困難にすることを考えると、それは効果的な警告にはならない。
また、太陽嵐は、電力網や衛星通信を停止させることもある。例えば2017年には、記録的な超大型ハリケーンとなった「イルマ」がやってきた直後に、2回の太陽嵐によって緊急無線通信が遮断された。
[原文:A mysterious 'Rosetta Stone' explosion reveals a missing link behind solar eruptions]
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)