Crystal Cox/Business Insider
- 『シカゴ・ブース・レビュー』のレポートでは、富裕層による蓄財と不平等との関連性について考察している。
- アメリカの富裕層の貯蓄は、一般の世帯に対する融資の原資になっている。
- 富裕層の貯蓄が増えると、低所得者層の借金が増えるというサイクルはさらに加速される。
『シカゴ・ブース・レビュー』によると、アメリカの富裕層の貯蓄が低所得者層の借金の原資になっていて、それが不平等の拡大に一役買っている可能性があるという。
アミール・スフィ(Amir Sufi)とラドウィック・ストラウブ(Ludwig Straub)、アーティフ・ミヤン(Atif Mian)という3人の研究者が、アメリカの超富裕層の貯蓄が増加していることについて調べたところ、それらの貯蓄は道路建設や研究部門といった「生産的」な投資にではなく、資産額上位1%以外の人々の借金に充てられていたのだ。
2008年の金融危機以前、この超富裕層の預金は、「下位90%の世帯による借金のおよそ3分の1」の原資となっていたという。アメリカでの住宅バブル崩壊以降は、政府の負債を補助する役割が大きくなったものの、低所得者層の負債は依然としてこうした預金で賄われていた。
具体的には、どのような仕組みなのだろうか。『シカゴ・ブース・レビュー』のレベッカ・ストロポリ(Rebecca Stropoli)は、1つの仮説を立てた。企業が富裕層の株主に株式を発行して生み出された収益が、研究や設備に投じられるのではなく、銀行に預金され、銀行はその預金を使って低所得者層の住宅ローンに充当するというものだ。つまり、富裕層が一般のアメリカ人向けの銀行融資を間接的に行っているということになる。
低所得者層が、低金利に煽られたりしてより多くの借金をすると、彼らが自由に使える資金はますます減っていく。
パンデミック時には、富裕層の貯蓄も資産も増加
アメリカ人の個人貯蓄率(収入から支出を差し引いた残りの金額の比率)は、2021年4月には減少したものの、パンデミックの間は全体的に上昇している。しかし『タイム』は、貯蓄率の上昇は全体像を示していない可能性があると報じている。それによると、低所得者層がパンデミック前よりもわずかに下回るレベルで消費を続けていた一方、富裕層はより多くの資産を貯め込んでいったからだ。
アメリカの富裕層は、パンデミックで経済的荒廃と失業が広がる中で純資産を増やした。中でもビリオネアの資産は、全体で44%(1兆3000億ドル)増加した。失業や貧困に直面している何百万人ものアメリカ人とは対照的だ。
世界のビリオネアも2020年3月18日から12月30日までの間に、3兆9000億ドル(約430兆円)の純資産を増やした。これは、世界中の人へワクチンを提供し、すべての人が貧困から抜け出すのに十分な額だ。
研究者らは、パンデミックによって、上位1%と下位99%の間にさらに深い溝ができたと指摘している。低賃金労働者や有色人種の労働者は、パンデミックによる経済的荒廃の影響を特に強く受けた。これは「K字型」の経済回復、すなわち高収入の労働者は仕事や収入が増えた一方、底辺の労働者は逆に収入が減ったという二極化を表している。
ストロポリは次のように述べている。
「ミヤン、ストラウブ、スフィの3人がこのデータから見出したのは、貧富の差が拡大する中で富裕層は貯蓄を増やし、その結果、より多くの預金が融資の原資となり、消費者に貸し出されているということだ」
アメリカの超富裕層がその富を維持する方法についても、『プロパブリカ』が6月8日に公開した記事で明らかになった。彼らはその資産額に対して驚くほど低い税率でしか税金を納めていなかったのだ。これは法的には問題ないものの、いよいよ高額所得者を対象とした税制改革につながるかもしれない。
しかしそれまでの間、富裕層の貯蓄は銀行口座に保管され、多くのアメリカ人に貸し出されることになるだろう。
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)