東京オリンピック・パラリンピックの開催など、大型スポーツイベントの復活で広告業界は大きな恩恵を受ける……世界広告大手の調査部門からそんなレポートが発表された。
REUTERS/Athit Perawongmetha
広告業界は今後数カ月にわたって記録的な成長とパンデミックからの回復が続く——。
米広告大手インターパブリックグループ(IPG)メディアブランズ傘下の調査部門マグナグローバル(Magna Global)は、最新レポートでそんな予測を発表した。
マグナによれば、2021年のグローバル広告費は前年比14%増の6570億ドル(約71兆円)に達し、過去最高を更新するという。
自動車、旅行、飲料、映画などの業界が広告費を復活させつつあることに加え、スモールビジネスによるデジタル支出の増加が、足もとの広告業界の回復をけん引している、マグナのディレクター(グローバル市場予測担当)ヴィンセント・ルタンはそう見る。
パンデミックによって、デジタルメディアへの支出増やeコマース(電子商取引)の普及拡大といったトレンドに追い風が吹いており、2021年のグローバルデジタル支出は前年比20%増になるとマグナは予測する。
「新型コロナはすべてを変えてしまった。もう過去には戻れない」(ルタン)
ベルギーのビール世界最大手アンハイザー・ブッシュ・インベブの米メディア部門を率いるパオロ・プロビンチアリによれば、同社はeコマースサイトにとどまらず、屋外広告、営業再開が進むバーやレストラン向けの広告宣伝費も引き上げた。
「直近15カ月間、デジタルコンテンツやストリーミングコンテンツへの消費支出は増え続けている。
その動きに合わせて、当社もデジタルミックスを進めてきた。オンライン通販が生活に浸透したことを受け、当社でも大きなキャンペーンには必ずeコマースを組み込むようになっている。いまやすっかり定着したと言っていいだろう」
しかし、こうした広告費は業界に均等分配されるわけではない。
前出のルタンの見立てによれば、最も大きな利益を得るのは、マーケットプレイスで強固な支配力を有するフェイスブック、グーグル、アマゾンといったメガテック企業だ。
3社合計の(アメリカ)デジタル広告売上高におけるシェアは、2019年の77%から翌20年に82%へと増えている。また、グーグルの検索広告売上高は2021年第1四半期(1〜3月)に前年同期比40%増という大幅な伸びを記録している。
2025年には、アメリカのすべての広告支出の73%をデジタル広告が占めることになるという。
従来型メディアに未来なし
業界にとって、もう1つの明るい話題は、コネクテッドTV(=ネット接続されたテレビ端末)向け広告の拡大だ。
コードやケーブルが必要なくなり、ブランドが視聴者にリーチして広告パフォーマンスをトラッキングする方法を、テクノロジーの力で実現できるようになった。
マグナグローバルのルタンによれば、コテクテッドTV向けの広告費は2021年に前年比25%増え、その市場シェアは大手放送局からストリーミングプラットフォーム(またデバイス)を提供するロク(Roku)のような企業にシフトするとみられる。
大手広告グループWPP傘下の広告代理店グルームエム(GroupM)は最新のレポートで、2021年のメディア広告売上高を前年比22%増と予測。主な要因として欧州サッカー連盟(UEFA)欧州選手権「Euro 2020」や、東京オリンピック・パラリンピックなどの大型スポーツイベントの復活があげられている。
ただし、TV、ラジオ、印刷といった従来型メディア向けの広告は、このまま減少を続けるとルタンは指摘する。
その結果、AT&T傘下ワーナーメディアとディスカバリーの合併や、フランスの民放最大手TF1による同民放2位M6の買収のように、メガテック企業に対抗するため、メディア企業がさらに大きな統合再編に動く可能性もあるという。
「世界最大級のTV放送局ですら、フェイスブックやグーグルに比べればちっぽけな存在にすぎない。事業を安定化させるにはコネクテッドTVの成長だけでは足りず、買収・合併(M&A)を通じてスケールアップを進める必要がある」(ルタン)
マグナインターナショナルはメディア企業や業界団体などの財務レポートをもとに市場予測を行っており、それによると、政府の景気刺激策やコロナ以前の消費性向への揺り戻しが想定されるため、広告業界の業績回復はあと1年ほど続くという。
(翻訳・編集:川村力)