アメリカでは出社勤務が復活しつつある。アップル、ゴールドマン・サックス、グーグルなどの大手企業は、従業員の大半をオフィスに呼び戻し始めた。
この15カ月、建築家はポストコロナのオフィス像を描き、ビジネスリーダーはコロナ後の働き方を他国に探り、リモートワーク疲れに嘆き、対面コミュニケーションの重要性を再認識した。
ここで最新予測がある。
事業用不動産仲介の世界最大手CBREの最新調査によると、社員1人当たりのオフィス面積の減少率はわずか9%。新型コロナウイルスの感染拡大により低下した賃料は2025年までに上昇し、リモート勤務やハイブリッド型勤務(在宅型と出社型の混在)の普及により悪化した空室率も、2027年までにはコロナ禍以前の水準に戻るという。
実際に新たな働き方が、企業のオフィス需要(ひいてはアメリカのオフィス市場)にどのような影響を与えるかは不明だが、オフィス市場に焦点を当てた最新の調査ではある。
この予測は、CBREが顧客に送付した15枚に及ぶ最新調査資料に掲載されている。さまざまな規模の企業185社を対象に、2021年春に実施したアンケート調査を集計し、まとめたものである。
回答企業の大半は、社員の出社率を約24%減らしつつ、2021年下半期には出社を求める見通しだと分かった。
この出社率の状況(低下してはいるが極端な落ち込みではない)や、出社回帰の見通しを受け、CBREはオフィス市場も2008年のリーマンショックや2001年のITバブル崩壊後と同様に回復に向かうと見ている。同社のクライアント・リサーチ主任のジュリー・ウィーランはInsiderの取材に対し、次のように話す。
「まだ不況から抜け出す途上なので、オフィス市場には厳しい状況が続きます。これまでも、コロナ不況下でオフィス市場が様変わりするということはありましたが、過去の不動産サイクルから見ても、オフィスのニーズは必ず回復するでしょう」
新型コロナウイルスの感染拡大により出社勤務が減少したことは、オフィスの賃貸、保守管理を担うCBREにとっては一見逆風のように思える。
しかし、ウィーランとCBREリサーチ部長・シニアエコノミストのマット・バンスが明かしたアンケート結果や計量経済分析結果からは、リモート勤務やハイブリッド勤務を導入する企業が増えても、「オフィス需要は決してなくなることはない」ことが示された。
CBREの分析を詳しく説明する、3枚のスライドを抜粋して紹介する。
1.今後も増えるリモート勤務により、オフィス需要はこのように変化する
CBRE
CBREの調査によると、多くの企業はハイブリッド勤務を導入しているが、オフィスへの出勤も求めている。アンケートに回答した企業のうち、「完全にフレキシブル」な働き方を導入し、出社は社員の判断に委ねると答えたのはわずか4%。「完全リモートワーク、もしくはリモート優先」を実施すると答えたのは6%だった。
大多数を占める60%の企業は、ハイブリッド勤務を実施しているが、出社の頻度にガイドラインを設けている。85%の企業は、勤務時間の少なくとも半分以上はオフィスで過ごすよう求めている。
72%の企業はオフィス面積を「やや縮小する」と回答し、「大幅に縮小、もしくは30%以上縮小する」と答えたのはわずか9%。2020年9月にも同様のアンケート調査が実施され、「大幅に縮小する」と答えたのは39%だった。オフィスの縮小傾向は弱まりつつある。
CBREの調査によると、コロナ禍前の2019年、社員は1週間のうち平均4.2日間をオフィスで勤務したが、今後は3.2日間に減少する。減少率は24%だが、他の要素も関係してくるため、必ずしもオフィス面積が24%減少するわけではない。
まず、ハイブリッド勤務を採用する企業では、多くの社員が同時に出社する日がある。企業は、平均出社人数ではなく、出社人数が最も多くなると見込まれる日(おそらく週の半ば)の人数を想定し、十分なスペースを確保しなければならない。
また、コラボレーションを重視したオフィスにするには、並んだデスクを取り払い、カジュアルな会議スペースやリフレッシュスペースを設ける必要がある。このレイアウト変更には、自席を設ける従来のオフィスよりも、1人あたりの面積が15%ほど多く必要だとCBREは推測する。
企業は通常、賃貸借契約の満了時(アメリカでは通常は10年)に合わせてオフィス面積の変更を考えるので、タイミングも重要な要素だ。途中解約やリース期間の短縮を申し入れると、余分な費用が発生してしまう。
失業率が下がり、GDP成長率が上昇するなか、多くの企業は今後数年間で事業を拡大し、人材採用に乗り出すであろうことを考えると、1人あたりのオフィス面積の減少幅は限定的だろう。
2. 1万平方フィート(約929平方メートル)のオフィス面積を持つ企業は、床面積をどの程度縮小できるか
CBRE
「出社率を24%削減した企業は、オフィス面積も24%縮小できると考えがちです」とバンスはInsiderに話す。
しかし実際にオフィスを同じ比率で縮小すると、すぐに混み合う状況に陥ってしまう。平均出社日数のみをもとにして計算すると、1万平方フィート(929平方メートル)から7600平方フィート(706平方メートル)になる。
しかしこれは、曜日による出社のバラつきを考慮していない。社員は月曜日や金曜日よりも週半ばに多く出社する傾向があるので、大勢の社員がオフィスで同時に勤務することになる。コラボレーション業務が多い企業では、多くの社員が会議やイベントに参加するために同時に出社するため、オフィスの混雑状況はさらに悪化する。
CBREが定義した「省スペース要因(出社日数の減少により、どれほどデスクスペースを縮小できるかを表す数値)」を加味すると、必要な床面積は8000平方フィート超(743平方メートル)。そして、コラボレーション重視のオフィスレイアウトを採用すれば、9100平方フィート(845平方メートル)の床面積が必要となる。
CBREはこれらの結果を踏まえ、出社率が24%減少してもオフィス面積の縮小は9%減にとどまると推定した。
3. コロナ禍のオフィス市場を過去の不況時と比較してみる
CBRE
上のスライドは、オフィス市場全体の動向を予測したものだが、これまでの調査結果とも合致する。
コロナ禍の「空室率のピーク」は過去の不況時と比べても高く、2022年第2四半期に18.5%に達すると予測している。
しかし、大多数の企業は2021年後半に社員を呼び戻す計画を立てているため、過去の景気後退時よりも回復は早いと予想される。さらに、CBREがこの数カ月間オフィスの役割や運営を調べたところ、企業はオフィスを積極的に拡張・改修したり、新たなスペースを契約し始めたりすると見込んでいる。
賃料も極端には落ち込んでいない。CBREの予測によると、賃料は2025年にコロナ前の水準に戻る。経済の成長とともに雇用も増えるため、リモート勤務やハイブリッド勤務によってオフィス面積は縮小されたとしても、影響は限定的になるという。
(翻訳・西村敦子、編集・常盤亜由子)