Z世代では、何でも事前に「ネタバレ」することがトレンドになっている。
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Z世代(1990年後半頃から2012年頃に生まれた世代)には「分からないことがあったら、考えるよりも先に検索する」習慣が当たり前のようについています。
そんなZ世代の間ではいま、観たい映画や今度行くライブの中身、友達に渡す誕生日プレゼントなど、何でも事前に「ネタバレ」することがトレンドになっています。
筆者である私(1995年生まれ)は、商品・サービスのアイデア着想に活かせる若者研究を提供するプランニング組織「Zs」の代表を務めています。
この記事では、Zsに所属する大学生たちに聞いた話をもとに、なぜネタバレがOKなのか、ネタバレ賛成派のZ世代から見えてきた価値観について深堀りしていきます。
SNSシェア前提の「ネタバレ誕生日パーティー」
サプライズは成功しないのであれば、パーティーにおいて気まずさを生むことにもなり得る。
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一つ目にご紹介するのが、友人の誕生日パーティーのネタバレ行動です。
弊社SEEDATAの調査では、約6割のZ世代がプレゼントの内容を事前に明かす、ネタバレ経験があると回答しています(SEEDATAオリジナル調査2021年、19〜25才男女224名)。
出所:SEEDATA
誕生日パーティーといえば、お祝いする本人には内緒で、お店の手配をしたり、プレゼントを用意したりとひそひそと計画するサプライズが定番です。
けれどZ世代の間では、仲がいい友人のお祝いほど、このサプライズ型の誕生日は実施しません。
理由の一つに「写真を撮ってSNSであげる」ことへの配慮があります。というのも、誕生日パーティーの写真は当然SNSにアップされるものなので、それを前提として祝われる本人も素敵な格好をしておこうと思っているからです。
まずはお店の候補を徹底的に調べ、それぞれのお店でこんなコンセプトのパーティーができる、と提案して、友人に選んでもらいます。
コンセプトまでネタバレする理由は、例えば、アフタヌーンティーパーティーならかわいい格好、夜景とともに食べる焼き肉なら大人っぽい格好など、お店の雰囲気に合った洋服やメイクをしてきてもらうためです。
コンセプトとともに誕生日を祝う会場の候補を友人にLINEで送る様子。
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私が仲のいい友人に誕生日をお祝いしてもらったとき、お店のコンセプトだけでなく、もはや、誕生日パーティーの1日のスケジュールをすべてネタバレされたこともありました(写真参照)。
当日の誕生日パーティーの1日のプラン内容をすべてネタバラシする様子。
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こうして候補をネタバレされると、誕生日プランを一生懸命練ってくれた友人の様子も知ることができます。
私としても、こんなに考えてくれた友人と一緒に素敵な時間を過ごそうという気持ちになります。祝う側も祝われる側も誕生日パーティーが始まる前から同じテンションに設定しておける。「ネタバレ行動」には、そんな効果もあるのです。
プレゼントも“指名買い”で失敗を防ぐ
「相手が欲しくないものをあげて失敗するのが嫌だから、先にネタバレする」と語る人も。
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誕生日パーティーの一番の目玉とも言えるプレゼント。これもすべて、本人のリクエスト通りの品物を用意します。
それもリップ、ピアス、アクセサリーケースなどの商品カテゴリだけでなく「どこどこブランドが出してる色は02番のピンクベージュで!」というように品番まで聞くのです。
例えば、Zsのメンバーでもある大学生のYさんやSさんはこう発言をしています。
「相手が欲しくないものをあげて失敗するのが嫌だから、先にネタバレしている」(Yさん・21歳)
「20歳になり、全然連絡をとっていなかった小学生の頃からの友人に祝ってもらったが、プレゼントはいまの自分が絶対使わないような物でした。せっかくもらったけど、使わないからどうしようと困ってしまいました」(Sさん・20歳)
サプライズは、成功すれば相手の期待値以上のものになる。けれど成功しないのであれば、パーティーにおいてむしろネガティブ要素となり得ます。
ミレニアル世代で流行したフラッシュモブはハイリスク・ハイリターンだという。
Shutterstock/De Visu
2000年代から流行した、フラッシュモブ(不特定多数の人たちが事前に申し合わせ、公共の場で突然パフォーマンスをしてターゲットを驚かせること)ブームは、“サプライズ”の典型でしょう。
こうした「期待値以上」をハイリスク・ハイリターンで狙いに行くより、相手が確実に喜んでくれる「確実な100点」を狙いに行くのがZ世代的と言えると思います。
プレゼントに関しても、Z世代は周囲との競争意識が薄いこともあり「他の人があげない私ならではのモノ」を重要視しません。
他の誰でもあげられる「ウィッシュリスト」的なプレゼントにも抵抗がなく、むしろサプライズが失敗して相手を不快にするリスクを恐れています。ここがZ世代と上の世代の対人関係における、大きな価値観の差と言えるでしょう。
ライブも映画も、予測不能なドキドキ感は不要
調査ではZ世代の半数以上がネタバレ情報を得てから映画とドラマを見たことがあるという結果に。
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二つ目にご紹介するのが、映画やドラマ、そしてアーティストのライブで披露されるセットリスト(セトリ)のネタバレについてです。
コンテンツのネタバレこそ反対派と賛成派で大きく分かれるテーマであると思います。自社調査では半数以上のZ世代が、「事前にネタバレ情報を得てから映画やドラマを見たことがある」と回答しています(SEEDATAオリジナル調査2021年 19〜25才男女224名)。
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私もネタバレ賛成派です。このトピックでもZ世代の生の声を紹介しながら分析していきます。
「敵来る」時間もあらかじめチェック
YouTubeのコメント欄の「ネタバレ」に感謝するコメントがつくこともよく見られる。
Shutterstock/NiP STUDIO
映画やドラマのネタバレ賛成派のとある学生はこんな風に話していました。
「怖い映画やドラマは苦手ですが、どういう話の内容か、どんな展開なのかは気になるのでネタバレを見てしまいます」(Aさん・24歳)
私自身、大好きなバイオハザードのゲーム実況を見るときは、YouTubeのコメント欄で誰かが「3:15 敵来る気をつけて」などの投稿は必ずチェックしています。
怖いシーンは苦手だけれど、ストーリーは楽しみたい。他にも犯人が誰なのかあらかじめ知った状態で見ておきたい、自分が推している登場人物がどうなるのか分かった上で見たい、などといった声も聞かれます。
ここまで先に結末を知りたがるのには、世の中に出回るエンタメコンテンツの量が関係しているのではないかと考えます。
YouTubeにNetflix、最近の流行りではオーディション番組と、いま娯楽動画はあふれ返っています。
あふれるコンテンツの中から他を差しおいてせっかく時間を費やすのだから、最後まで見続けたい。そのためには、後悔せずに見終わることができるという安心感が必要になってきます。
だからショッキングな出来事をあらかじめ知っておき、自分の感情が、必要以上に揺さぶられることを避けているのです。
「この曲なんだっけ」を避ける
ネタバレがトレンドとなっているのは、ライブやコンサートでも同様だ。
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セットリストのネタバレについても同様です。セットリストの情報を事前にキャッチアップしに行くと話す大学生のHさんはこのように話していました。
「『この曲なんだっけ』を避けて、プロの演奏に集中するためにあらかじめすごいポイントを理解しておきたい。あまり聞いていなかった曲は、何をしているのか分からなくて、もやもやが残ってしまうのが嫌だ」(Hさん・21歳)
ここでも、Z世代である彼らにとって先の分からないことや想定外のことが起きて気持ちがアップダウンすることは、ある種の「ストレス」と捉える傾向が強いことが伺えます。その瞬間の没入体験を阻害したくないという価値観が彼らにはあるのです。
さらに、デジタルネイティブであるZ世代は、スマホを開けばInstagramやTwitterの投稿から映画や漫画、ドラマなどのネタバレが一方的に入ってきます。
弊社の調査でも、全回答者の約3割が「SNSなどでネタバレは自然に情報として入ってきてしまうので、防げるものではないと思っているから」と回答しています(SEEDATAオリジナル調査2021年、19〜25才男女224名)。
映画にしてもドラマにしても、Z世代は日常的なネタバレに慣れているのです。
「未体験」から「追体験」へ
ミレニアル世代には新しいもの・体験のためには長い列に並ぶことも厭(いと)わないといった価値観があった。
提供:稲葉結衣
2019年、現代アートチーム「目(め)」による千葉市美術館での初の大規模個展「非常にはっきりとわからない」が話題を集めました。
同美術館の来場者はこれまでは中高年層が多かったそうですが、本展は30代以下が6割以上を占めたそうです。
事前の情報公開はまったくなし。撮影禁止であったことや、参加者がはっきりとした感想を持ちにくい仕掛けのある展示だったため、SNSではネタバレしにくい雰囲気が漂っていました。
「非常にはっきりとわからない展」はシェアのしにくい体験という点で特に極端な事例ですが、新しいもの・体験が生まれたらそれをいち早く自分も体験しに行く、そのためには長い列に並ぶことも厭わないといった価値観が、ミレニアル世代にはあったように思われます。
実際、2010年代には、バブルランやカラーラン、インスタにアップされることが前提のミュージアムなど、体験型のイベントが多く流行りました。
2010年代にはミレニアル世代を中心にバブルランやカラーランが流行した。
Shutterstock/CL Shebley
一方で、Z世代はまだ周りの人も体験していないことよりも、面白いかどうか、自分に合う体験かどうかをしっかりネタバレしてから判断したい世代だと思います。
背景には、いままで以上に身近になったSNSやレビュー文化があります。ネットに氾濫している情報の多さも影響し、どんな体験に飛びつけばいいのかが分からなくなっている世代とも言えると思います。
実際、Z世代の学生らと話していると「流行りもののスピードが速すぎてもう追いかけるのをやめた」とも聞きます。
だからこそ、彼ら/彼女らはより「失敗しない」可能性の高い、自分に合う体験を吟味するようになっているのです。
ミレニアル世代と、Z世代の体験価値の違いについて分析するならば、「未体験」を求めるミレニアルとは違って、誰かが一度体験したことがあるもの、事前に想定していた成り行き通りに楽しめるものといった「追体験」に価値を感じるのが、Z世代の特徴といえるのではないでしょうか。
(文・牧島夢加、編集・西山里緒)
牧島夢加:SEEDATA Futurist(フューチャリスト)/ 若者攻略に特化したプランニング組織「Zs」代表。現役大学生らと共に、Z世代を中心とした若者の思考回路や消費行動を分析し、その知見をもとにクライアントの次世代攻略プロジェクトに活用。プライベート活動では、身の回りで本当に起きている若者のSNS行動や消費行動をテーマにしたブログ「ワカモノのトリセツ」を学生時代から運営。等身大で若者の価値観や行動を分析し執筆している。