2020年8月13日、ニューヨークで新型コロナウイルス感染予防のためフェーズ4の規制が続く中、ミッドタウンのレストランでは従業員がマスクと手袋を着用している。
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- 新規雇用の従業員が賃上げと新たなインセンティブの恩恵を受ける一方で、既に雇用されているアメリカ人は、労働条件の悪化に直面している。
- 2021年の春には、週の平均労働時間が増加し、賃金上昇率は低下した。
- この傾向は退職者数が過去最高となったことに起因しており、人々が人材不足による恩恵を受けるために退職していることを示唆している。
これから仕事に就こうとしているアメリカ人は、多くのものを手に入れることができる。再雇用を急ぐ企業は、賃金アップや入社祝い金からiPhone進呈まで、さまざまなインセンティブを提供している。
だが既に雇用されている従業員にとっては別の話だ。事実、彼らの労働条件は悪化している。
アメリカ経済活動の突然の再開で、労働市場は特別な状況に置かれた。何年にも渡って厳しい就労環境だったのが逆転したのだ。雇用者は突如として雇用に苦労し、労働者が不足する事態になった。
人手不足によって、企業は労働者を呼び込む対策を強いられている。企業が、特に新規雇用する従業員の賃金を引き上げたため、平均時給は2カ月連続で急上昇した。だが既に雇用されている従業員については、労働条件が低下していることがデータから分かっている。
まず、春の間に週平均労働時間が上昇した。5月には労働時間が34.3時間とわずかに減少したが、20年ぶりの高い水準をやや下回る程度だった。パンデミック時には33.4時間だった。わずかな増加は、従業員がパートタイムからフルタイムに変わったことも関係するとみられるが、この傾向は国の景気回復とともに、既に雇用されている従業員が経済が回復するにつれて、より長い時間労働していることを示している可能性がある。
一方で、このような長い労働時間の見返りは、ほとんどない。既に雇用されている従業員の賃金上昇率は年間で減少しており、直近では5月の3.2%から3カ月の移動平均で3%まで低下した。それに対して、2019年後半は平均で3.9%の上昇率だった。
労働時間の増加と賃金上昇率の鈍化は、アメリカの労働市場での大きな変革が進んでいることを示している。先日発表されたJOLTSのデータによると、4月の退職者数は過去最高を記録した。同時に、賃金上昇率は急速に低下し、求人数が過去最高となった。つまりこれらのデータは、アメリカ人の働き方や報酬に対する要望が大きく見直されていることを意味する。
ニューヨーク連邦準備銀行が6月14日に発表した報告書は、労働市場の異常な状況について浮き彫りにした。5月の平均失業率は12.6%に低下し、同調査が開始された2013年以来、最低の水準になった。一方で失業後の就職率は49.8%から54%に上昇し、1カ月で最大の伸びを見せ、2020年2月以来、過去最高の水準となった。この伸びは、アメリカ人が仕事を見つけるのに自信を持っていること示している。
退職者数が過去最高となり、新規従業員向けの魅力的なインセンティブがあることから、労働者は、人手不足と雇用者側の異常とも言える需要の高さを利用して、好条件の仕事に転職している可能性がある。
[原文:Having a job right now means longer hours and slow pay growth]
(翻訳:Makiko Sato、編集:Toshihiko Inoue)