病院の前で新型コロナウイルスの検査を待つ女性(2021年4月21日、ガーズィヤーバード)。
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- インドの医師たちは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者らに独特な症状が見られると話している。デルタ株の影響かもしれないという。
- 症状としては、壊疽や聴力の低下などが見られるという。
- こうした症状がデルタ株に特有のものかどうか調べるには、十分な検査が研究所に持ち込まれていない。
インドの医師たちは、感染力の強いデルタ株が壊疽や聴力低下といった独特な症状の原因となっている可能性があると主張している。こうした症状は、あらゆる世代の新型コロナウイルス患者の間でよく見られるようになっているという。
こうした憂慮すべき症状については、ブルームバーグが6月7日に報じ、今では新型コロナウイルスの新規感染者の91%をデルタ株が占めるイギリスのDaily MailとDaily Mirrorがこれに続いた。
感染力の強いデルタ株は67カ国に広がっていて、世界各地でよく見られるようになっている。ただ、インドでは検査数が少ないため、こうした症状がデルタ株に特有のものなのか、それともCOVID-19全般に見られるものなのかどうか調べるには、十分なデータがない。COVID-19はすでに、下痢や血流障害といった独特な症状との関連が指摘されている。
デルタ株は、アメリカでいま最も広まっているアルファ株よりも感染力が60%強いと見られている。
アメリカの感染症対策トップのアンソニー・ファウチ博士は先週、より多くのアメリカ人が新型コロナウイルスのワクチンを接種しなければ、急速に拡大しているデルタ株がアメリカで広がる恐れがあると警鐘を鳴らした。イングランド公衆衛生庁(PHE)の5月の文書は、ファイザーとアストラゼネカのワクチンは接種後、デルタ株に対してそれぞれ88%、60%の有効性があると報告している。
インドのムンバイにあるセブン・ヒルズ・ホスピタルの心臓専門医ガネーシュ・マヌダーン(Ganesh Manudhane)氏は、壊疽 —— 血液の供給が失われ、体内組織が死ぬ深刻な状態 —— を引き起こす小さな血栓のある患者を見るのは、以前は年に4人ほどだったとInsiderに語った。今では、毎週1人は目にしているという。
「件数が増えていることから、これはデルタ株の影響ではないかと感じている」とマヌダーン氏は言う。ただ、デルタ株かどうかを確認するための遺伝子解析は行っていないと付け加えた。インドでは2020年10月に最初に確認されて以来、このデルタ株が最もよく見られるようになっている。
チェンナイにあるアポロ・ホスピタルの感染症医アブドゥル・ガフール(Abdul Ghafur)氏は、下痢の症状があるCOVID-19の患者数が2020年の感染第1波の時に比べて大幅に増加しているとInsiderに語った。
ただ、「各地の現場の医師たちによる推測は全て、自らの臨床経験に基づいたもので、公表データをもとにしたものではない」とガフール氏は話している。
インドでどれだけ多くの人たちが他の変異株に比べて、デルタ株に感染しているかは明らかになっていない。デルタ株は、インドで最初に確認された3つの似たようなウイルス株の1つだ。
この3つのウイルス株をひとくくりにしている統計もあるし、全ての検査がどの株か確認するために研究所に持ち込まれるわけではない。Natureのレポートによると、インドでは4月の時点で遺伝子解析が行われていたのは全体の0.75%だった。パンデミックが始まって以来、インドでは2945万人の感染が確認されている。
このデータ不足が医師たちのデルタ株への理解を妨げている。
ガフール氏は「感染者数が世界で2番目に多いにもかかわらず、インドのトップの研究機関である医学研究評議会は全くその科学的な研究を実施してこなかった」と指摘している。
デリーにあるCSIR-Institute of Genomics and Integrative Biologyのダイレクターであるアヌラグ・アガーワル(Anurag Agarwal)氏は、デルタ株と独特な症状の間に明らかな関連はないとInsiderに語った。
アガーワル氏は、独特な症状のある人が増えているのは、インドでデルタ株が増えているからというより、COVID-19の全体的な感染者数が増えているせいではないかと話している。
イギリスにあるインペリアル・カレッジ・ロンドンのMRCグローバル感染症分析センターのダイレクターであるニール・ファーガソン(Neil Ferguson)氏は、多くの人々が感染すれば、典型的でない、さまざまなまれな症状が出てくる可能性があると、9日のブリーフィングで説明した。
同じブリーフィングで、イギリスにあるウェルカム・サンガー研究所のCOVID-19ゲノミクス・イニシアチブのダイレクターであるジェフリー・バレット(Jeffery Barrett)氏は、イギリスでは毎週、最大2万件の検査を実施していると話した。
インドの変異株について調査するために立ち上げられた科学顧問グループ「SARS-CoV-2ゲノミクス・コンソーシアム(INSACOG)」は2020年12月の設立以来、1万以上のサンプルを解析してきたとしている。
バレット氏は、デルタ株が他のウイルス株と異なる症状を引き起こしていることを示唆するデータはないと、ブリーフィングで語った。
2020年8月8日、ニューデリー。
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ムコール症
「ブラック・ファンガス(黒い真菌)」とも呼ばれる真菌感染症「ムコール症」は、新型コロナウイルスの症状ではないが、新型コロナウイルスに感染してから数週間以内に起こる合併症の1つだ。インドの医師たちは、人々から聞いた話をもとに、これをデルタ株と関連付けている。
インドのハーシュ・ヴァルダン保健相は14日、免疫不全や糖尿病を患っている2万8000人以上がムコール症に感染したと報告されていると述べた。このうち86%が新型コロナウイルスに感染していた。
ムコール症と免疫不全や糖尿病との関連は証明されていない —— ただ、インドでは免疫不全と糖尿病の患者数が多いことがムコール症の患者数につながっている可能性があるとされている。
ガフール氏は、デルタ株がムコール症の感染者が増加している原因である可能性が最も高いと考えているという。
「インドは常に世界の中でも糖尿病患者が多く、(新型コロナウイルスの)感染第1波では免疫を抑制するステロイドの使用がまん延していた」とガフール氏はInsiderに語った。
「今回、唯一の違いはデルタ株だ」
ナーグプルにあるセブン・スター・ホスピタルの耳鼻咽喉科医であるシェレシュ・コタルカー(Shailesh Kothalkar)氏は、デルタ株が「インスリンを作り、血糖値を調節するすい臓のベータ細胞にダメージを与えていた」とTelegraphに語っている。
「さらなる調査が必要だが、感染第2波でCOVID-19に感染した後、糖尿病を発症する患者が約40%増えている」とコタルカー氏は言う。
イギリスにあるマンチェスター大学の感染症学の教授で、Global Action Fund for Fungal Infectionsのチーフ・エグゼクティブでもあるデビッド・デニング(David Denning)氏は、「別のウイルス株が鼻や肺の内部にさらなる障害をもたらす可能性もある… それによって真菌が入り込みやすくなる」とTelegraphに語った。
「ただ、その可能性は低い」とデニング氏は話している。
(翻訳、編集:山口佳美)