リリースから10年、まだ10%も完成していない── LINEスタンプ事業、今後の伸びしろはどこにある?

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コロナ禍の2020年は、人とのつながりや感情を伝え合う重要性を再認識した1年でもあった。

そんな中、コミュニケーションアプリ「LINE」の代名詞でもあるLINEスタンプは、過去最高の売上・利用者数を記録。機能リリースから約10年、既に市民権を得ているLINEスタンプだが、果たして今後どんな部分に事業の伸びしろがあるのだろうか。

責任者の渡辺 尚誠氏に、スタンプを通じたコミュニケーションの可能性や目指すこと、それを実現させるための構想を聞いた。

利用者の「スタンプ離れ」は本当か?

もはや通信手段のインフラとなったLINEだが、実態はどうなのだろうか。LINEが日本の日常に浸透して以降、「利用者のLINEスタンプ離れ」といった論調もたびたびネット上などで見られるようになった。しかし、LINEのスタンプ事業を統括する渡辺 尚誠氏は実態をこう話す。

「2020年度のLINEスタンプの売上と利用者数は、共に過去最高を更新しています。決してスタンプ離れといった現象が起きているわけではありません」(渡辺氏)

実際、LINEスタンプは安定的に利益を上げ続けており、その利益がLINE Payなどのフィンテック関連サービスや、AIやEコマースなどLINEが会社として新領域にチャレンジする原資となっている。

一方で、利用者側からすればスタンプの存在は当たり前になっていて、これ以上LINEスタンプに新しい体験やワクワクを求めていないのではないか、という声もある。

「確かに、スタンプという新しいコミュニケーションの形を生んだ当初に比べて、目新しい変化が少ないと感じられ、安定事業と思っていらっしゃる方も多いと思います。それこそが今、私たちが抱えている課題でもあります」(渡辺氏)

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執行役員、LINEスタンプ事業部長の渡辺 尚誠(わたなべ・なおとも)氏。大学卒業後、女性誌の編集者を経て、2010年にライブドア(現LINE)に入社。2012年よりLINEスタンプ事業に携わり、2014年に「LINE Creators Market」を立ち上げるなど、スタンプ事業をLINEの課金ビジネスの中核に成長させる。2019年1月より執行役員に就任。

LINEスタンプが誕生したのは、LINEアプリのサービス開始から約半年後の2011年10月のこと。テキスト以外で手軽に感情を表現する手段として、絵文字やNTTドコモのiモードメールで利用できる文字装飾サービス・デコメールなどをヒントに、会話を盛り上げるアイテムとして着想したのが始まりだ。実はリリース前のユーザーリサーチの段階では、“こんな機能はいらないのでは”という否定的な意見が大半だったという。

「ユーザーリサーチに参加した多くの人は、特に必要がない機能という感想でした。しかし、10代の女子高生たちだけが“これヤバイ!”と大きなリアクションをしてくれたんです。9割は反応しなかったけど、1割が熱狂した。しかも、それが流行に敏感な10代。だったら、とりあえずやってみようという形でスタンプは始まりました。当初は、これほどの規模になるとは思ってもいなかったですね」(渡辺氏)

その後LINEスタンプは大ヒット。最初の約5年は、一人でも多くのユーザーに使ってもらいたい思いから、とにかくがむしゃらに展開を増やし、進化させていくことに心血を注いだという。

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『LINE Creators Market』は2021年5月にサービス開始から7周年を迎えた。

提供:LINE

また、LINEスタンプをさらにブーストさせたのが、2014年に誕生した一般ユーザーがスタンプを作って販売できるプラットフォーム『LINE Creators Market』だ。以前は企業や著名人、有名キャラクターなどに限られていたスタンプが自作できるようになったことに加えて、制作者が大きな利益を上げられるこのサービスは、公開からすぐに各所で話題を集めた。

2021年4月時点で参加クリエイターはグローバルで390万人、販売スタンプ数は1100万セットを突破。1億円以上を売り上げるスタンプクリエイターが100人以上誕生する巨大プラットフォームに成長した。

サービスの「進化」から「深化」へ

しかし、急激な成長はひずみを生み出すのが世の常だ。LINEスタンプでも、5年間がむしゃらに成長を求めたツケが出はじめた。

「『LINE Creators Market』では当初、クリエイターがスタンプの審査を申請してからスタンプが販売されるまで、半年〜1年ほどかかることもありました。また、審査体制が甘く、日本以外の国で宗教や政治的な観点で問題になるスタンプが販売されてしまったこともあったんです。

そのため問題発覚以降は、審査の遅延解消をはじめとした仕組み作りや、社会的なリスク対策などに特に多くの時間を割いてきました」(渡辺氏)

結果として、『LINE Creators Market』以来、世の中で大きな話題になるほどのインパクトは生まれず、外から見ると成長鈍化とも捉えられる時期があった。リリースされた2011年からの5年間が無我夢中の「進化」なら、2016年頃からの5年間はより使いやすいサービスへ「深化」させ、次のジャンプのための足場固めをしてきたという。

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GettyImages / kazuma seki

スタンプ選びにかかるのは「4〜5秒」、ユーザーは迷っている

では、今後LINEスタンプは何を目指していくのか。その方向性のヒントが、2019年7月にリリースされた『LINEスタンプ プレミアム』にあった。この月額240円で対象のスタンプが使い放題のサブスクサービスは、開始以来加入者を増やし、現在は100万人を突破している。

しかし、LINEの国内月間利用者数は、2021年3月時点で8800万人。100万人はそのうちの1%強に過ぎない。一部の熱狂的なスタンプ好きが加入しただけとも捉えられる。渡辺氏は「今後市場を広げる伸びしろがあるということだし、さらに伸ばしていかないといけない」と話す。

そして、最大の収穫を次のように続けた。

「『LINEスタンプ プレミアム』で一番良かったのは、 ユーザーが、好みのスタンプはもちろん、これまで手を出さなかった種類のスタンプまで気軽に選んで使っていたことです。 一風変わった、アクセントになるようなスタンプが使われることがきっかけで、新たな会話が生まれたりとユーザー間のコミュニケーションの幅も広がりました。まだまだ、スタンプを使ったコミュニケーションには可能性があると感じています」(渡辺氏)

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その上で渡辺氏は、「スタンプの未来には、二つの方向性があると思っています」と話す。一つは、更なる深化により、スタンプが持つ潜在能力を100%引き出す道だ。

「10年前に数種類から始まったスタンプは、クリエイターの作品、企業やキャラクターとのコラボなど、豊富なコンテンツを提供できるようになりました。世界中のSNSを見渡しても、これだけの規模はないと自負しています。正直、自分たちが思い描いていたところに到達したのではないか、との感覚を得たこともありました。

しかし、実際にユーザーリサーチをすると、9割の人はスタンプの不満点を挙げてくれます。自分たちで想定していたものもあれば、全く考えていないものもありました。あぐらをかいていたわけではないのですが、まだまだ気を引き締めていかなければと日々感じています」(渡辺氏)

不満点で特に多いのは、「スタンプが多くて探せない、適切なスタンプを選べない」という意見だという。

「スタンプって条件反射的に送るもののようですが、ユーザーインタビューをしているとみなさんは送る相手との関係などから、可愛すぎないかとか、失礼じゃないかとかまで考えて選んで送っている。その結果、スタンプ選びに平均4〜5秒かかっている人が多いんです。

この時間をなるべく減らしたいと思っています。例えば、これまでのやり取りの量やよく会話する時間帯、レスポンスの早さから相手との関係などを推定して適切なスタンプをレコメンドするような機能を実現したいと思っています。

また、コミュニケーションのスピードがどんどん上がってくる中で、会話のやり取りのスピード感にスタンプが対応できるように、キーボード領域にもさらなる工夫ができるのではと考えています。

多くのコンテンツを提供できていることは確実に我々の強みなのですが、それがユーザー体験を損ねてしまう可能性もあります。強みをユーザーにとってのより良い価値にしていくために、スタンプに関わるあらゆる面で最適化を進める必要があります 」(渡辺氏)

「スタンプ」にこだわりはない。コミュニケーションの本質を問う

そしてもう一つの道は、スタンプに限らず全く新しいコミュニケーション手段を生み出すことだ。渡辺氏は、「現在、私たちの部署はスタンプ事業部という名称ですが、スタンプにこだわっている訳ではありません。本質的には、コミュニケーション事業という方が正しい。今はまさに、新しい何かへの挑戦が必要な時です」と決意を滲ませる。

「LINEスタンプ以前は、iモードのデコメールが感情を伝える主な手段でした。そのiモードは、2021年の11月にサービスを停止します。これは、自分の中で大きな衝撃でした。プロダクトライフサイクルの観点から考えると、スタンプにもいつその節目が来てもおかしくありません。

スタンプは、SNSで感情や表情を表現するための機能ですが、別の方法で伝えることも視野に入れなくてはいけない。そう考えて、社内では昨年から、様々なβテストを繰り返しています」(渡辺氏)

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shutterstock / AnastasiaDudka

今の状況は、LINEスタンプが誕生したときと同じ

LINEスタンプは、ユーザーによって育てられ、開発者たちも想像し得なかったヒットへとつながった。そういった意味では、国内月間利用者数8800万人というLINEのユーザー数は、非常に大きなアドバンテージだ。

渡辺氏も、その強みに期待を寄せつつ「今の状況は、数人から出発して色々なチャレンジを繰り返していた、LINEスタンプの黎明期に似ている」と語る。

「スタンプの価値は、感情を適切に伝えてコミュニケーションを豊かにすることにあります。僕らが究極的にやるべきことは、良いスタンプをつくることではなく、豊かなコミュニケーションの手助けです。

そういった意味では、まだ完成形の10%にも到達していないと考えています。

当然、必要なアウトプットは世の中の流れによって変わっていきます。今はスタンプですが、それが例えばアバターになるかもしれないし、そうじゃない何かかもしれない。ただ確実に言えることは、テキストコミュニケーションだけでは補えない感情を伝える手段は、10年、100年先も残り続けるはず。そこに対してチャレンジし続けるのが僕たちの使命です」(渡辺氏)

最後に、新たなコミュニケーション手段でまたムーブメントを起こせそうかと尋ねると、こう返ってきた。

「サービス産業に絶対の勝ち筋はない。これをやったら勝てるなんて答えは、誰も持っていません。ただ、いろんな挑戦をしないとチャンスも生まれない。結果、偶然の産物になるかもしれないですが、それを当てるために、これまで整えてきた地盤を活かして新しいアイデアを試せているのが今です。

大事にしているのは、作り出す側の創意工夫と情熱です。メンバーのみんなと自由にチャレンジしながら、コミュニケーションの新たな形を育てていきたいですね」(渡辺氏)

スタンプはあくまでも手段の一つだというが、今後“感情を伝えるコミュニケーション”はどう進化するのか。スタンプの枠を超えて新しいムーブメントを生み出すことはできるのか。今後の動きに注目したい。


LINE スタンプ事業の採用情報はこちら。

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