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LGBT法案見送り日本で生きる、僕らのホンネと現在地

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セクシャルマイノリティ当事者としてメディアやSNSで発信を続けるひろすけさん(左)と、kevin N williamsさん。

撮影:ヒオカ

6月はプライド月間。アメリカはじめ世界各地で、LGBTQ+に対する偏見や差別の根絶を呼びかけるイベントや運動が行われている。一方、日本では与野党で合意したはずの「LGBT理解増進法案」が、今国会に提出されないという異例の事態に。

セクシャルマイノリティ当事者としてメディアやSNSで等身大の発信を続けるデザイナー・ゲイ向けメディア編集長ひろすけさん(32)と、IT系に勤める会社員kevin N williamsさん(30)に、プライド月間に寄せてLGBTQ+として日本で生きる現在地を聞いた。

パートナーシップ制度を認める自治体が増えるなど変化は訪れつつあるが、日常でもまだまだ根強い偏見に対し、「マスメディアやBL作品が作り出したLGBTQ+像にとらわれないで」と、2人は語る。

普通に幸せで楽しんでる人もいる

ひろすけ:2019年にゲイ向けウェブメディア「アンロミー」(※)を立ち上げたのは、当事者に寄り添った情報を発信するLGBTQ+向けのメディアがないなと思ったからです。他にもゲイ向けメディアはありましたが、LGBTQ+が登場する映画の紹介や、ゲイ向けマッチングアプリの紹介などがメインでした。

でももっと、くだらないけれどためになる、等身大のメディアを作りたかった。例えばゲイの恋愛事情や、楽しいイベント、コミュニティ情報、意識調査なんかを取り上げたいなと思っていました。ゲイのリアルが知れるような、身近な情報にアクセスできる場所にしたかったんです。

※アンロミーでは「ゲイの日常を、もっと楽しく」をコンセプトに、ゲイカップルが部屋探しに困った時の解決策など、日常で役立つ情報を発信中。20代後半から30代前半を中心に読者を獲得している。

kevin:世間はすごくLGBTQ+を悲劇的な存在にしたがるけれど、いろんな当事者がいて、普通に幸せで楽しんでる人もいるんです。

確かに大変なこともあるけれど、(LGBTQ+ではない)セクシュアルマジョリティの人でも偏見にさらされたり、大変なことがあったり、幸せなことがあったりするのと同じです

異常者として排除されないかという不安、怖さ

インタビューの様子

「性指向を自認するようになった過程は複雑です」と、ひろすけさんは言う。自分を受け入れるまで時間がかかった。

—— 30代前半のお二人の子ども時代、今よりもっとセクシュアルマイノリティへの理解はなく、偏見も今以上に根強かったと思います。そうした中で、自分がLGBTQ+だと受け入れられるようになった過程を教えてください。

ひろすけ:僕が性指向を自認するようになった過程は複雑です。小学校5年生の時に、親の知り合いの、近所のおじさんに、修学旅行のお土産を届けに行きました。ゲームがあるからまたうちに来ないかと言われて、おじさんの家に行くようになりました。その時、性器を触られて、それがだんだんエスカレートしていきました。

性暴力は中学2年くらいまでは続きました。当時は自分が何をされているのか理解できていなくて、断ることもできなかった。親に言ったら、怒られるんじゃないかと思うと、誰にも言えなかった。被害の衝撃から、当時の記憶がほとんどありません。

自分が、男性にしか惹かれないことはわかっていたのですが、それを認めるのが怖かった。男を好きな男という存在は、この世で自分と、自分に性暴力をしたおじさんしか知りませんでした。

性暴力を受けたことが、思春期という自己形成をしていく期間の中で、いっそう混乱を大きくしたなと思います。同年代との甘酸っぱい恋とかの前に、肉体を汚されたという気持ちが大きく、自分は価値のない存在なのではないかという疑念が大きくなりました

学校ではナヨナヨしてると言われ、当時流行っていたバラエティ番組では、中世的な男子は”乙女男子”と名付けられ、笑いものにされていました。そんな中で、ゲイである自分が社会に受け入れられるのか、異常者として排除されないかという不安。ゲイとしての幸せな人生を知らないし仲間もいないから、孤立する怖さのようなものも障害になってました

その頃は自分が何者か分からなくて、この先どうなるかもイメージできない。人生真っ暗でしたね。

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高校生時代のひろすけさん。恋愛対象が同性であることを自認するようになったが、周りには言えなかった。

ひろすけ:自分がゲイであることを受け入れられたのは、高校1~2年生の時。高校は美術系に進んだのですが、クラスが38人女子で、男子は2人だけ。男性に対する恐怖も薄らいで、絵に没頭していました。

そんな環境の中で、自分の恋愛対象は男性、そう認めたほうが楽だと吹っ切れた。でも、周りにはやっぱり言えなかったんです。言ったら、殺されると思いました。社会的に

kevin:物心ついた時から性的指向が他の人と違うというのは分かっていましたが、インターネットで調べて、ゲイ・バイという言葉を知って、すごく納得できました。その時、自分がバイセクシュアルだと受け入れることができた。

当時は今みたいにSNSとかも普及してなくて、ゲイやバイの情報がなかなか手に入らなかったし、仲間に出会えませんでした。

誰かに自分を受け入れてもらうこと。人生のテーマ

—— 家族や周囲に、LGBTQ+であることを打ち明けた時はどうでしたか。その障壁はありましたか。

ひろすけ:社会人になって、コーチングのプログラムに参加する機会がありました。そこで、今まで誰にも言って無かったこと、性暴力のことも話したんです。

その時、他の参加者の方たちから「よく頑張ってきたね」とか「私も似たような辛いことあったけど、話を聞いて前向きになれた」といった、自分が思ってもいなかった、温かい言葉をかけてもらって。それがとても力になりました。それから、家族以外の他人にはゲイであることを話せるようになりました

ゲイであることをFacebookに書くようになったのですが、それを弟が見て、さらに悪気なく母親に言ってしまいました。そこで母に電話で言われたのが「私に言うのは良いけど、他の人には言わないでね」という言葉でした。今思えば、家族に差別や偏見の目が向くことを、母親なりに心配してのことだったと思います。

当時、フリーランスでデザイナーをしていたのですが、23歳ぐらいからクライアントが増えて、収入も増えた。安定した暮らしができるようになりました。

その時、自分の中での最後のモヤモヤは、父親にゲイであることを打ち明けていないこと、母親とも打ち明けた時の状態で止まってることだなと思ったんです

そこで、実家に帰って子ども時代に性暴力を受けたことも、自分がゲイであることも、両親に全部話しました。

話す親子

家族に打ち明けるにも、時間がかかったし、反応はそれぞれ。でも誰かに自分を受け入れてもらうことはどんな人にとっても大事なテーマだ(写真はイメージです)。

GettyImages/sot

ひろすけ:母親は、僕が仕事も軌道に乗って、落ち着いていることを確認して、「息子が幸せならそれでいい」という反応でした。一方、父親の第一声は「病気なのか」と。それを聞いたときは、ダサいな、一言目がそれかよ、とは思いました。でもそのあとに「俺の息子であることは変わらない」と言ってくれたんです。

父親はいつも何かと助けてくれて、自分を愛してくれてるのも知ってたから、その一言で満足はできたかなという気持ちです。そのあと親も他人なんだ、とわかるようになってからは、楽になったし割り切れました

kevin:ジェンダーのことに関わらず、誰かに「自分」を受け入れてもらうことって、何事においても人生のテーマというくらい、大事な出来事だと思います。

LGBTQ+に偏見はないという人は多くなってきましたが、家族や身内だと話は別っていう人は実は多いです

僕は19歳の時に母親にカミングアウトしましたが「なんで他の人に言う必要があるの、私以外には(バイセクシャルであることを)言わないで」と言われて。それから他の家族には言えていません。

LGBTQ+には性的な質問をしていいと思われている

—— 社会から受ける偏見にはどんなことがありますか。

ひろすけ:いい加減、心は女の子なんでしょ?と聞いてくるのはやめてほしいですね。そんな時は、性的指向と性自認の違いを説明するようにしています。また、「ゲイだから男女両方の気持ちがわかる」と思われて、恋愛相談をよくされます。男女の恋愛をしてないから分かるわけないのに。

あと、よく男性に自分がゲイだと伝えると「俺のこと狙わないでよ!」と言われたり、「この中だったら誰ならヤれる?」と聞かれたりすることも。そういう時は「そういう質問はよくないよ」っていうようにしています。

kevin:どっち役なの?とか平気で聞かれますしね。普通、カップルにどんなセックスしてるか?なんて聞かないでしょ。LGBTQ+には、性的な質問をしていいと思ってる。たとえゲイ同士でもそんな質問されたら嫌ですよ。性的なことって当人同士のプライベートなことだから、普通他人に聞くのはダメ。

新宿2丁目で飲んでいる時に、LGBTQ+ではない男性に絡まれることがあります。最初は、「俺偏見ないよ」「そういうの全然大丈夫っすよ」と言ってくるんだけど、酔ってくると、性的な踏み込んだ質問をしてきたり、からかってきたりする。

そういう時に真面目に返すと、「え?なんで?優しくしてやったのに」みたいな態度を取られます。結局心の中で下に見ているし、軽蔑してるんだなって。

ひろすけ:偏見ないよ、とわざわざ前置きしてくるひとは信じない。この人分かってないな、って思う。

受け入れられなくても、否定しなくてよくない?

レインボーパレード

2018年、東京・渋谷で行われたレインボーパレードの参加者たち。「偏見は知識不足からくる」と、kevinさん。

GettyImages/ Tomohiro Ohsumi

kevin:偏見って、知識不足からくる。どんな存在か分からなくて、怖くて攻撃してしまうのだと思います。LGBT法案をめぐる自民党の議員の発言も、傷ついたとか憤りというより、単純に勉強不足なんだなって思いました。

人はよく分からない存在には恐怖を覚える生き物だから。性的指向って、人格と関係ないですよね。LGBTQ+というだけで、特別視し過ぎだと思う

ひろすけ:誰しも、LGBTQ+に限らず、心の中では受け入れられないものってあるんだと思います。でも、受け入れられなくても、何も否定しなくてもよくない?と思います。

kevin:あと、とりあえず理解しようとして、ゲイ像、ゲイの人格が作られているんです。ゲイだから〇〇でしょ、とよく言われるけど、ゲイで一くくりにし過ぎだし、主語がでか過ぎだなといつも思います

文字通り少数者だから、一部の人の特性が一般化されやすい。ゲイならみんなが奇抜な格好でLGBTQ+パレードに参加するわけではない。LGBTQ+の中の多様性も認められるべきです。

ひろすけ:LGBTQ+がみんな同じ考えってことはない。LGBTQ+以外の人たちでも意見や考えが全然違うのと同じです。

だから、僕たちが今回話してることも、LGBTQ+の総意ではないっていうことを、強調しておきたいですね

活動家と意見が違うこともよくある。それも当然

kevin:表に立ってるLGBTQ+の活動家と意見が違うこともよくあります。LGBTQ+の全員の意見を聞いてまわって代弁してるわけじゃないんだから、当然です

LGBTQ+って言うと「みんなが同じ考えを持っていて、社会を変えるために動きたいと思ってる」とよく思われます。活動してくれる人は必要だけど、僕の周りは静かに暮らしたいっていう人も多いかな。

ひろすけ:世間の思うLGBTQ+と実際のLGBTQ+って違います。例えば、BL(ボーイズラブ)とゲイの恋愛は全然違う。BLは女性が作った理想の男性同士の恋愛像。

僕は小さいころ唯一、LGBTQ+の情報に触れられるコンテンツがいわゆるBLの同人誌だったのですが、あそこにゲイのリアルはない。ゲイの中にもBLが好きな人もいるけど、僕は見ないかな。AVと実際のセックスが違うくらい、現実と乖離しています。

あと、メディアに出てるいわゆるオネエは、パフォーマンス的にやってる部分もある。おもしろくないとテレビに出られませんからね。普通のゲイが出ても、ただの男性だから。どう面白がっていいか、困るでしょ?

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