若い女性の4人に1人が思春期や青年期にスポーツを諦めており、その大きな理由になっているのが「生理中の(経血の衣服への)漏れ」だという。背景にはコーチなど大人たちの知識不足など、いまだ生理がタブー視されている問題もある。そんな中、テクノロジーと教育で現状を打破しようとしているのが、スポーツ業界大手のアディダスだ。
漏れる心配をなくしたい
アディダスが開発した生理の漏れに対応したタイツ。6月17日から販売予定。
提供:アディダスジャパン
アディダスが新たに開発したのは「生理中の漏れ」に特化したタイツ、「TechFit Period Proof Tights(テックフィットピリオドプルーフタイツ)」だ。6月17日から販売予定。
快適レイヤー・吸湿レイヤー・漏れ防止レイヤーから成る3層構造で、生理用ナプキンやタンポンがずれるのを防止する効果があるという。
開発にかかった期間は約2年。アスリートが生理中でもダイナミックに身体を動かせるよう、厳格なテストを重ねたそうだ。
同社のシニアプロダクトマネージャー、キム・バーガーさんは言う。
「この商品の目標は生理中でも心配せずにトレーニングできるようにして、多くの人がスポーツを続けられるようにすることです」
4人に1人の女性がスポーツを断念
多くの女性がスポーツを諦めている。その理由は……(写真はイメージです)。
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イギリスのセント・メアリーズ大学が2019年に行った調査によると、世界では若い女性の4人に1人が思春期や青年期にスポーツを諦めている。
さらにアディダスによると、スポーツに参加する時に最も心配することとして、生理のある人の65%が「(経血の)漏れ」と回答している。
「4人に1人の割合でスポーツをしなくなるという数字は、『生理中のニーズに応えて欲しい』というパフォーマンスウェアへの要望を投影しているだけではなく、生理に関する当事者や大人の知識不足、無理解も浮き彫りにしていると思います」(キム・バーガーさん)
生理教育を世界に配信
教育者やコーチも生理をタブー視する風潮がある(写真はイメージです)。
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アディダスが1万4000人超のアスリートのデータを分析したところ、教育者やコーチなど指導的な立場にある大人でさえ「生理について知らない、話題に触れない」といった事例があったそうだ。
日本では経済的な理由などで生理用品を購入できない「生理の貧困」が昨今、大きな社会問題となり、東京都を中心に生理用品を無償配布する自治体も増えてきている。この問題がこれまで明るみにならなかったのも、生理をタブー視する風潮があったからだろう。
アディダスではスポーツ科学の研究者と協働し、生理との向き合い方や付き合い方について保護者や教育者、当事者である若者がよく理解できるような資料やレッスンプランを作成。学校や教育施設で利用してもらうため、世界各国に向けて配信していくという。
45%が生理でパフォーマンスが半減
約半数の女性が生理でパフォーマンスが半減している。
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生理の影響を受けるのは、スポーツをする女性だけではない。
経済産業省の調査によると、18歳から49歳までの働く女性の94%は「生理に関連した症状で仕事のパフォーマ ンスに影響がある」とし、さらに45%は「パフォーマンスが 半分以下になる」と回答しているのだ。
そこで注目を集めているのが、女性の健康課題をテクノロジーの力で解決する「フェムテック」だ。
同調査によると、生理に関する諸症状で離職や昇進辞退、勤務形態の変更などを余儀なくされていた女性たちが、フェムテックの普及により正しい知識を得て、適切な対応を取ることで生まれる経済効果は、2025年時点で年間約2400億円にのぼるとの試算もある。
一方、フェムテックが女性の選択肢を広げても、生理をタブー視するような社会の体制が整っていなければ意味がない。
生理を理由に何かを諦めずにすむ社会へ。テクノロジーの進歩に取り残されないよう、社会全体での意識改革が必要だ。
(文・竹下郁子)