フォードのマスタング・マッハ-E GT・パフォーマンス・エディション。
Ford
- カリフォルニアでは電気自動車オーナーの約20%がガソリン車に替えた、と最近の研究が示している。
- その主な理由は、充電の不便さだという。
- この結果は、成長を続ける電気自動車市場が新たな課題に直面していることを示唆している。
約3分で、フォード・マスタング(Ford Mustang)のガソリンタンクは満タンになり、V型8気筒エンジンで約300マイル(約483キロメートル)を走ることができるようになる。
だが、ブルームバーグの自動車アナリスト、ケビン・タイナン(Kevin Tynan)がフォードに借り受けた電動のマスタング・マッハ-E(Mustang Mach-E)を家庭用コンセントに1時間繋いだところ、航続距離はわずか3マイル(約4.8キロメートル)だった。
「一晩で、36マイル(約58キロメートル)にしかならなかった」と彼はInsiderに語った。
「フォードに返す前に100%にしておきたかったから、オフィスまで走って、オフィスで充電した」
アメリカの一般的な家庭用コンセントは120ボルトで、電気自動車(EV)愛好家は「レベル1(Level 1)」と呼ぶ。一方、240ボルトとより高電圧の特殊なコンセントは「レベル2」だ。さらに、テスラ(Tesla)のスーパーチャージャーは480ボルトで、1時間強で同社のEVにフル充電することができる。
その差は歴然だと新たな研究は述べている。それは、カリフォルニアで2012年から2018年に電気自動車を購入した人を調査した、カリフォルニア大学デービス校(University of California Davis)のスコット・ハードマン(Scott Hardman)とギル・タル(Gil Tal)による研究で、科学ジャーナル『ネイチャー・エネルギー(Nature Energy)』に発表された。
研究によると電気自動車オーナーの約5人に1人がガソリン車に戻しており、その主な理由は充電が面倒だからだということを研究者らは明らかにした。
ガソリン車に替えた人の70%以上が自宅にレベル2のコンセントがなく、職場にレベル2のコンセントがないという人はそれを若干下回った。
「レベル2のコンセントがなければ、ほぼ役に立たない」とタイナンは述べた。タイナンは長年の研究で、さまざまなメーカー、さまざまなモデルのEVをテストしている。
急速充電でも、航続距離をほぼ0から300マイルに戻すのにテストで使ったシボレー・ボルト(Chevy Bolt)では約6時間もかかった。彼が日頃使っているSUVは、ガソリンスタンドに行けば数分で済む。
公衆の充電ステーションは、ガソリンスタンドの電気バージョンのように見えるかもしれないが、EVドライバーの約3分の2は使わないと回答した。その理由は正確には特定されていない。
EVは最近、航続距離、安全性、快適さ、ハイテク機能の点で大きく進歩した。だが、充電方法についてはほとんど変わっていないとハードマンとタルは指摘している。
このことが、カリフォルニアや他の地域の電動自動車の販売目標の達成、ひいては市場全体の成長を難しくする可能性があると研究者は警告している。
「一度EVを購入したからといって、所有し続けると思わない方がいい」とハードマンとタルは記した。
「分かっているのは、これがEV市場の成長を減速させ、EVの販売目標達成を困難にするだろうということだ」
GMは2030年までに全車を電動化すると定め、フォードは「現状を打破する」EVピックアップ・トラック、F-150 ライトニングを最近発表し、従来のガソリン車よりもマスタングのEVの生産を優先している。だがタイナンによると、充電問題の解決のためには、自動車メーカーがさらに積極的に取り組む必要があるという。
「すべての老舗自動車メーカーにとっては損益が重要だ。だから、EV化が中途半端になってしまう」とタイナンは述べた。
一方で、変化の兆しもある。テスラは最近、LAにあるスーパーチャージャー・ステーション(充電80%まで15分)の1つに、ドライブイン・レストランを開店するための書類を提出、セブン-イレブンは、北米の一部の店舗に急速充電コンセント500基を設置すると発表した。
一方、こうした取り組みは、ジョー・バイデン(Joe Biden)大統領のアメリカ雇用プラン(American Jobs Plan)に比べて小さく見える。予算150億ドル(約1兆6500億円)をかけ、アメリカ国内50万箇所に充電ステーションを設置しようというものだ。
だが、その大部分はまだ計画の段階であり、EVが現在のガソリン車と同様に便利になるには時間がかかるだろう。
(翻訳:Ito Yasuko、編集:Toshihiko Inoue)