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将来への投資、デジタル機器の効果的な利用、サステナブルな経済……。こうした価値を最も重視するのが、18~40歳の年代層。企業の労働力として最も必要とされるグループでもある。というのも、ドイツにおける幹部職員の平均年齢は50歳だからだ(世界平均は53歳)。
彼らの配下にいるのは若い人々で、1997年以降に生まれたZ世代と、1980年~1997年に生まれたミレニアル世代。この2つのグループはデジタルネイティブでもある。
若者文化行動研究家シモン・シュニッツァーは2グループを次のように比較する。ミレニアル世代はスマートフォンのない世界を知っていたが、Z世代が生まれたころ、世界はすでに“インスタント・ワイヤー”で結ばれていた。
Z世代はメールの代わりにWhatsAppを使い、携帯電話ではなくスマホ、MP3よりもSpotify、テレビ番組の代わりにYouTubeやNetflix(ネットフリックス)を利用し、ヨガスクールに通う代わりにオンラインでヨガをする。
世代研究家リューディガー・マースはそこまではっきり分類せず、共通性を強調する。「どちらの世代もこうした媒体を目標や仕事内容に合わせて利用します。やり方はよく似ていますね」
2つの世代は、仕事への考え方も共通している。職業における有意性、共感力、幸福感、多様性、サステナビリティといった価値観を、上の世代よりも重視する。
デジタルネイティブは計測可能な経済価値を持つ。一国におけるデジタルネイティブの割合が1%ポイント増えれば、収益性は0.9%上昇する。世界的に見ると、彼らの潜在性は年間1兆9000億ドルにものぼる。これは、米テック企業シトリックス・システムズ(Citrix Systems)がコールマン・パークス・リサーチ(Coleman Parks Research)およびオックスフォード・アナリティカ(Oxford Analytica)との提携で行った国際調査「Work 2035: The Born Digital Effect」の結果だ。
同調査では、数段階におよぶ経済モデルを使い、国際的な企業レベルでデジタルネイティブと企業の収益性の相関関係を分析した。
若者は仕事に何を望んでるのか?
同調査からもう1つ分かったのは、ほとんどのケースで、管理職は若い世代が仕事で何を望んでいるかを知らないということだ。
調査の対象となったのは、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、オランダ、中国、インド、日本、アラブ首長国連邦、メキシコの大・中企業における管理職1000人および18〜39歳までのナレッジワーカー2000人だ。若い社員とその上司の間には、往々にして大きな“デジタル的”相違がある。
若い世代が重視するのは、キャリアチャンス、職場の心理的安全性(世界的には87%、ドイツは88%)、仕事と生活のバランス(同じく87%)という結果が得られた。
ドイツでは、優先順位リストにある仕事への満足度が86%を占めている。また、78%が自主的な仕事の進め方を支持。彼らのコミュニケーションは主としてデジタルで、デジタルネイティブの81%が仕事でSlackやWhatsAppといったインスタントメッセンジャー(IM)を利用している。
上司の方はどうかというと、IMを利用する割合は21%にすぎない。若い社員にとって最も重要なのは、職場におけるニューテクノロジーへのアクセスや、さらなる職業訓練へのチャンスだ。ドイツの管理職は、そのほかに自社の利益アップや、職場におけるテクノロジー投資を優先する。上司がテクノロジーの側面をこれほど重視する国は他にない。社員の福利厚生はその次だ。
「2035年には、企業の成功・不成功は彼らの手中に」
職場環境に対する期待についても、2グループの相違は大きい。デジタル世代の90%は、ポストコロナ時代にフル出社しての勤務に戻ることを望まない。半数以上(51%)がリモートワーク主体を、39%が通勤とホームオフィスを併用するハイブリッドモデルを望んでいる。
だが、管理職はそのことをあまり重視していない。ドイツでは、社員の快適さを高めるフレキシブルな職場モデルを支持するのは46%で、43.6%は会社勤務を望んでいる。リモート勤務はあまり人気がない(支持するのは管理職の10.5%)。
「デジタルネイティブをうまく獲得し維持するには、企業は彼らの勤務モデルや仕事ツールに投資して、フレキシブルかつ効率的な職場環境をつくる必要があります。次世代が上司に期待するのがそれですから」と語るのは、シトリックス・システム中欧支部長オリヴァー・エーベル。「2035年には、企業の成功・不成功は彼らが握ることになるでしょう」とエーベルは付け加える。
LinkedInの最新調査によると、入社2年以内の社員の41%、実習生および学生の60%がリーダーにもっと共感力を持ってほしいと感じている。上司たちにもそれは伝わり、日常業務における共感力の重要性はコロナ禍によって高まった、と彼らの3分の2(66%)が回答した。
新規採用者を探す際に、共感力は教育や学位や職業経験といった「ハード・ファクター」と同様に重要である、と調査対象の79%が回答している。ここでもまた、管理職は若い労働力とのコミュニケーションを増やしたいと望んでいるのだ。
未来のリーダーが持つべきスキルとは
コミュニケーションがいかに大切かということは、ヴァレリー・モッカー(30)の知るところだ。モッカーはオックスフォードにWingwoman(ウィングウーマン)を設立・経営。これは、デジタルスキルを持つ若い世代を管理職や幹部ポストに養成する企画だ。
英国国立科学・技術・芸術基金(NESTA)元会長で投資家でもあるモッカーは、デジタル・イノベーションを通して日常業務を改善することで経営者や組織をサポートしている。
モッカーは、若者の望みばかりでなく、上司が何を期待しているかも理解している。20代半ばで幹部役員にアドバイスする委員会のメンバーに、20代後半で理事を務めてきたモッカーは、現在はウィキメディア(Wikimedia)の監査役でもある。「勇気、真心、力関係の理解が決定的な要素ですね」
モッカーはオックスフォード大学の学位2つを優秀で取得したが、若い女性として社会に出たばかりのころは理解してもらえないと感じることが多かったと言う。
ヴァレリー・モッカー
Martin Kraft
「管理職に就いても、私の仕事や能力をなかなか評価してもらえませんでした。『君はまだ若すぎるし、女だから』とか、『若い女にそんなことができるなんて、誰が信じるものか』『ここは若いキャリアウーマンのいる場所ではない』などと言われたんです」
彼女を登用して昇進させたのは、主として男たちだった。「大事なのは、それでも続けること。ほかの人たちをいい気分にさせるだけのために、野心をしぼませないことですね」
真心や優しさを弱さと誤解している人は多い。モッカーはこう語る。
「キャリアをのぼれるのは冷淡で厳しい人間だけだと考えて、自分を変えなければと思ってしまう人はけっこういます。就職したとき、私もそう言われました。でも、ほかのやり方をとることにしたんです。自分が望むようなリーダーでありたい、でも私自身でもありたい、とずっと願っていたので。ヴァレリー・モッカーは本当に誠実なんです」
「権力の座にある人も、親切な人たちと仕事したい」
モッカーの体験から、職場における若い世代と年配世代の考え方の違いがはっきりする。2つのグループを賢く統合すれば、デジタルスキルを持つ若い社員を、社内の責任あるポストに導くことができるのではないだろうか。モッカーは言う。
「私には明確なリーダーシップのコンパスがあります。毎日、こう自問するんです。チーム内の部下であれ、取締役会で一緒のCEOであれ、私と会ったり話したりした後で相手はより心地よくエネルギッシュに感じるかどうか、と」
とはいえ、批判的な意見を言わないとか、よくない点を指摘しないわけではない。うまくいかないケースでは、解雇することもあるという。また、真心は共感力でもあるとモッカーは考えている。
「働くマシンとして扱うのではなく、相手や相手のものの見方に対して心から興味を示すこと。権力の座にある人も、いけ好かない人たちより親切な人たちと一緒に仕事したい。だから、引っ張り上げてくれるんです」
何らかの意見を言える地位に就くには、積極的かつ戦略的な行動によるしかないということを新入社員にぜひ知ってもらいたい、とモッカーは語る。
「権力洞察力、と私は呼んでいます。いつも勤勉であるべきだ、とにかくできるだけ熱心に仕事をすれば、上司は気がついて評価してくれるはず、と考えるのは間違いです」
才能ある若者に発言権と責任を
“勤勉な働きバチ”のままでは、責任あるポストにはたどり着けない。「もっと意見を表明し、潜在力を示し、自分にプラスになるよう周囲の権力者に影響を与えること。そうすれば、自分の能力や将来の計画に気づいてもらうのを待つより効果があります」とモッカーは言う。
モッカーは経験豊富な年配の管理職から、若い世代をそのまま既存のチームに統合するべきではない、とアドバイスされたという。
「周囲の人を抑制して軽んじることによって偉くなった気になる、という態度はドイツでよく見られますが、これは変えるべきでしょう。ヒエラルキーをことさら強調するような態度によって、イノベーションばかりか才能もつぶされてしまいますから」
年配世代は、新しいものを受け入れる態度を学ぶ必要がありそうだ。
熟練社員は、才能ある若者が発言権を持つとともに責任を負えるよう、「権力チーム」に加えるべきだとモッカーは勧める。ここで言う才能ある若者とは、IT専門知識を持っている、あるいはすでに起業して経営責任を担っている20〜40代の人たちことだ。取締役会や『権力チーム』にはこうした人材が欠けているとモッカーは指摘する。
ドイツでは、管理職の3人に1人がアイデンティティ危機にあるか、業務過多や不安を感じているという現状を鑑みれば、管理職は彼らのサポートをありがたく思うに違いない。
コミュニケーションを増やし、もっと勇気を持つ
LinkedInの調査によると、管理職の過半数が新入社員との定期的な意見交換を望んでいるという。彼らの68%は、そこから学ぶものがあると考えている。また、若い世代の71%、実習生および学生の77%が、もっとコミュニケーションのチャンスがほしいと望んでいる。彼らの半数は、例えば共感力といった点で上司は自分たちから学ぶものがあると考えている。
そこでLinkedInは、両方向けのリバース・メンタリング・プログラムを開始した。ここでは実習生や新入社員がインストラクターとなり、管理職が受講者の役割を果たす。LinkedInドイツ・オーストリア・スイス支部長バルバラ・ウィットマンはこう説明する。
「わが社の調査によると、参加者は月一度のランチ会以上の定期的なコミュニケーションを望んでいます。管理職が利用できるノウハウが自分たちにはたくさんある、と新入社員は考えています」
参加者の中には企業の経営者もいる。彼らは珍しいプログラムを称賛する。プログラムに参加した、ベビー用品販売店BabyOne社長のアンナ・ヴェーバーは、「Z世代にはまったく違うニーズや優先順位があります。キャリア、仕事と生活のバランス、ホームオフィスなどの点でも。彼らの行動の理由について、もっと知りたいですね」と語る。
新入社員の持つアイデアや創意を知ることができれば、双方のコミュニケーションにとって価値は大きい。「新入社員はまだ純粋なので、まったく新しい観点を誠実かつ新鮮に提示してくれます」とヴェーバーは付け加える。
特にコロナ禍で職業界が一変したため、相互のコンタクトは必須だ。LinkedInのプログラムに参加した経営者のアレクサンダー・キューネは次のように語っている。
「こうした変化を受け入れるとともに、社員への新たなアクセスを見出す必要があります。特にハイブリッドな職場環境では、上司の共感力は欠かせない。われわれ経営者は、ソフトスキルについて絶えず問い直し、新しい時代の中でチームメンバーとどのようにして密接なコミュニケーションを保っていけばいいか、学び続けるべきでしょう」
(翻訳・シドラ房子、編集・常盤亜由子)
[原文:Führung: Chefs wissen nicht, was die Generationen Y und Z brauchen — was beiden Seiten jetzt hilft]