撮影:小林優多郎
根強いファンを持つカメラメーカー、独ライカが初のスマートフォンとなる「Leitz Phone 1」を発表した。
先行する記事のとおり、製造はシャープで、いまのところ日本国内のみの販売で、ソフトバンクが独占的に取り扱う。
NTTドコモとソフトバンクから発売される「AQUOS R6」(6月25日発売)がベースとはいえ、作り込みは「R6ベースの、なんちゃってライカバージョン」というレベルではなく、外観のデザインや操作系の設計など本格的なライカ仕様に生まれ変わっている。
最近珍しい、強い個性を持つ端末だけに、世界のガジェット系YouTuberが紹介するなど注目されている。しかし、筆者は別の意味で、Leitz Phone 1の今後の動きに注目している。
それは、この端末が、図らずも国内スマホ業界の試金石の役目を負う端末になりかねないからだ。
ライカはなぜファーウェイと作らなかったのか
ベースは発表されたばかりの「AQUOS R6」とはいえ、デザインなどは別物レベルの仕上がり。R6にはなかった、ライカのカメラフィルター機能「Leitz Looks」モードの搭載など手の込んだ作り込みがされているようだ。
撮影:小林優多郎
そもそも、Leitz Phone 1は2019年7月頃、ソフトバンクがライカカメラ社主のアンドレアス・カウフマン氏と面会し、プロジェクトがスタート。すぐに開発パートナーとしてシャープが参加して、製品化にこぎ着けたという。発売は7月以降で価格は18万7920円(税込)だ。
もともとスマホ市場でライカといえば、中国・ファーウェイとの関係が深かった。
ライカがファーウェイのカメラに対して技術協力したことで、ファーウェイのカメラ画質は目に見えて向上した。AIを駆使し、スマホ市場でもトップレベルのカメラになったといえるだろう。
開発のベースになったのは、同じく発表されたばかりの「「AQUOS R6」(6月25日発売)。とはいえ、外装やソフトウェアまで、かなり手が入り、名前を変えた程度ではない作り込みになっているようだ。
撮影:小林優多郎
経緯から考えれば、ライカはファーウェイと組んで「Leitz Phone 1」を作ってもよかったのでは? とも思える。しかし、ライカにとってみれば、ファーウェイの存在は大きすぎたのかもしれない。ファーウェイの企業規模を考えれば、ライカの言うことを素直に聞くとは思えない。
そんな中、アメリカ・トランプ政権によって、2019年5月にファーウェイは禁輸措置を受けてしまった。
ライカにとってみれば、2019年の春から夏にかけて世界で存在感を急速になくしていくファーウェイに代わる存在を探していたタイミングで、救世主のごとく現れたのがソフトバンクだった…………というのは考えすぎだろうか。
挑戦的な「製品化」はソフトバンクの後押しのおかげ?
ライカロゴ入りの、デジカメのようなオリジナルのレンズカバー。専用の保護ケースも付属する。
撮影:小林優多郎
もちろん、ファーウェイに代わり、シャープ1社だけでもライカとLeitz Phone 1を「作る」ことは可能だったろう。しかし、ライカと製造を担当するシャープだけで、「製品化」が実現できたかといえば、正直言って無理だったのではないか。
ライカとシャープだけで売ろうとすれば、販売台数は限られてしまう。強固な販売網をもつ、ソフトバンクという大手キャリアの後ろ盾があるからこそ、18万円にもなる高額なスマホの開発に着手できたのではないか。
一方のソフトバンクとしても
「NTTドコモやauと製品ラインナップで差別化ができる」
「Leitz Phone 1を欲しい(カメラファンの)ユーザーを囲い込める」
というメリットが見込める。だからこそ、「iPhoneの最上位機種より高価格なAndroid端末」というリスクを覚悟で、2019年7月に製品化のGOを出せたはずだ。
ただ、そこには「大きな誤算」もあったのではないか。
本来ならば、製品が高額になっても、多額の割引をつけて販売できたはずだったが、2019年10月、電気通信事業法が改正され、端末割引が大幅に規制された。
さらに、最近では端末販売時にSIMロックをかけることも禁じられ、回線契約をしていないユーザーに対しても、端末を売らなくてはいけないようになった。
「(Leitz Phone 1は)ショップでもソフトバンクを契約していないユーザーにきちんと売るようになる。そうでもしないとまた総務省に怒られる」(ソフトバンク関係者)として、非回線契約者への販売も徹底される見込みだ。
今後「個性的なスマホ」が生まれにくくなる?
撮影:小林優多郎
2019年の段階で、仮に「売れずに在庫を余らせてしまった」としても、多額の割引を積むことで、在庫の処分はできる見込みもあっただろう。しかし、2019年10月の法改正で、多額の割引適用は難しくなり、在庫のリスクを抱えることになってしまった。
また、SIMロックができなくなったことで、「ソフトバンク以外のユーザーがLeitz Phone 1を大量に購入する」という状況となれば、ソフトバンクとしての目論見は、すべて外れたことになる。
大手キャリアにとって、ある意味では料金プラン設計以上に、「差別化」の手法だった独占販売の端末。
Leitz Phone 1は、その差別化手法を今後も続けられるかの試金石の役目を、図らずも負ってしまったのではないか。
これまで、日本では端末と通信契約が一体だったからこそ、キャリア主導で、「高価ではあるが、個性的なスマートフォン」が日本市場に投入され続けた。
総務省が端末と通信契約の完全分離をさらに進めていくと、Leitz Phone 1のような魅力的なスマートフォンは、リスクをとれる世界シェアトップを争うような巨大メーカー以外には作れないものになるのかもしれない。
筆者がLeitz Phone 1に注目するのは、こうした意味あいを持つ端末だからだ。
(文・石川温)