6600万年前、現在のメキシコにチクシュルーブ衝突体が落下した瞬間の想像図。
Chase Stone
- 6600万年前にメキシコに衝突した小惑星が、恐竜を絶滅させる原因になった。
- ある研究によると、その65万年後に別の小惑星がウクライナを襲い、気候をさらに温暖化させた可能性があるという。
- 2つ目の小惑星の衝突は、地球が大量絶滅から回復するのを遅らせた可能性がある。
今から約6600万年前、小惑星の衝突が2回あったことが、新しい研究で明らかになった。
まず、現在のメキシコを襲った、直径6マイル(約9.6キロメートル)の小惑星があった。「チクシュルーブ(Chicxulub)」と名付けられたこの衝突体は、地球上の生物の50%から75%とともに恐竜を滅亡させる原因になったといわれている。
その65万年後には、「ボルティシュ(Boltysh)」と呼ばれる1マイル(約1.6キロメートル)級の小惑星が衝突した。この小惑星は、現在のウクライナ中部に幅15マイル(約24キロメートル)のクレーターを作った。
かつて科学者たちは、ボルティシュとチクシュルーブの2つの衝突が、恐竜などの地球上の生物の大絶滅の原因だと考えていた。しかし、2021年6月18日に科学学術誌『サイエンス・アドバンシス(Science Advances)』に掲載された研究によると、ボルティシュは、最後の犠牲者が絶滅した後、地球に影響を与えた可能性が高いという。
イギリスのグラスゴー大学で隕石の衝突を専門とする研究者で、今回の研究の共著者であるアンマリー・ピッカースギル(Annemarie Pickersgill )は、「ボルティシュが衝突した時には、絶滅は実質的に終わっていたと考えている」とInsiderに語った。
ボルティシュの衝突で溶けた岩石を分析
ウクライナのボルティシュ・クレーターで採取された衝撃石英。
Martin Schmieder/Wikimedia Commons
科学者たちは2002年にボルティシュ小惑星の衝突跡を発見し、初期の研究ではチクシュルーブの衝突よりも2000年から5000年前にだったと考えられていた。
ピッカースギルのチームは、ボルティシュ・クレーターのできた年代をより正確に測定するつもりだったが、彼女はこれまでの研究を覆すとは考えていなかったという。
「ボルティシュの衝突の年代がチクシュルーブの衝突よりも後だとわかって驚いた」とピッカースギルは話した。
研究者たちはまず、クレーターの奥深く、地下3分の1マイル(約530メートル)の場所にあった2つのサンプルを分析した。小惑星の衝突による熱で岩石が溶けているため、年代を測定することで、衝突の時期を解明することができた。
そして次に、研究チームは、アメリカ・モンタナ州で、チクシュルーブの衝突と同じ時期に堆積した層のサンプルを調べた。その結果、放射年代測定法(岩石中の放射性物質での年代を測定する技術)を用いて、ボルティシュの岩石がチクシュルーブの衝突から約65万年後に溶けたことを突き止めた。
ボルティシュの衝突が温暖化の一因になっているかもしれない
現在のメキシコ南東部、硫黄分の多いユカタン半島の浅い海に小惑星が衝突している様子を描いたもの。約6500万年前に起きたこの巨大な小惑星の衝突の余波が、恐竜をはじめとする地球上の多くの生物を絶滅させたと考えられている。
Donald Davis/NASAMore
新たに判明したボルティシュ・クレーターの年代は「lower C29 hyperthermal」として知られる急激な地球温暖化の時期と一致していると、研究論文の著者は述べている。
最大で4万年続いた温暖化の期間中、地球の平均気温が華氏5.4度(摂氏3度)上昇することもあった。ピッカースギルのチームは、小惑星がこの温暖化を引き起こしたと断定していない。
しかし、チクシュルーブの衝突が最初は地球の気候を下げ、その後に上げたことを示す証拠があるとピッカースギルは述べている。
恐竜を絶滅させた隕石が地球に衝突したとき、大気中に塵、硫黄、二酸化炭素の雲が舞い上がった。このガス状のもやが数十年にわたって太陽をさえぎり、地球を冷やしたという研究がある。
この数十年の間に、地球の陸上と海洋のほとんどの生物が絶滅した。やがてチクシュルーブの雲が消失すると、大気中に残っていた硫黄や炭素が地表の熱を奪い、地球を温め始めた。
そしてボルティシュ小惑星が衝突すると、その衝撃でさらにガスが大気中に放出され、地球温暖化を悪化させた可能性があったという。このことは、大量絶滅後の地球上の生物種の回復をより困難にしたかもしれない。
研究によると、北アメリカのさまざまな生物種がチクシュルーブ衝突以前のレベルに戻るまでに900万年かかったという。
(翻訳:大場真由子、編集:Toshihiko Inoue)