ニュージーランドから打ち上げられるロケットラボ(Rocket Lab)のロケット。
Trevor Mahlmann/Rocket Lab
ボーイング(Boeing)やスペース(Space)Xのような巨大企業による、宇宙空間における技術革新や進歩の話題がたびたびメディアをにぎわす。
一方、よりチャレンジングで長い月日のかかる課題に取り組む小規模な宇宙開発企業の存在は、大企業のような資本とスタッフを欠くせいか、スルーされがちだ。
メディアでは影が薄いものの、小規模な宇宙開発企業も、スペースデブリ(宇宙ごみ)の監視から火星探査車(ローバー)の製造支援まで、これまで以上に大きな発展をとげている。
以下では、そうした小規模な宇宙開発企業とその特筆すべきポイントを紹介しよう。
ナノアビオニクス(NanoAvionics)
センが取り組む映像配信サービス「アース(Earth)TV」用の超小型人工衛星。
Sen
ナノアビオニクスは、小型衛星ミッションインテグレーター。人工衛星の基本性能を正常動作させ、ミッションを達成するための観測機器・中継器などを搭載する「衛星バス」の製造も手がける。
ナノアビオニクス(NanoAvionics)の事業紹介動画。
NanoAvionics YouTube Official Channel
かつてないほど数多くの人工衛星が打ち上げられるいま、衛星バスの組み立てサービスには需要が殺到している。実際、ナノアビオニクスは2020年、契約数の増加とクライアントの地理的広がりを受け、売上高がおよそ300%増えた。
最も注目される最新の取り組みは、イギリスの宇宙開発企業セン(Sen)向けに製造中の超小型衛星バス5機だ。
センは、超小型衛星を活用して、地球の超高精細映像をリアルタイム配信するサービス「アース(Earth)TV」をスタートさせようと考えている。実現すれば、自然災害やその他の大規模な事象をモニタリングできる画期的なサービスとなるだろう。
ナノアビオニクスは衛星開発からロジスティクス、オペレーションまでを一貫して手がける垂直統合型の企業で、センが達成を狙うミッションを担うにふさわしい。
ロケットラボ(Rocket Lab)
ロケットラボが開発した再利用可能な小型ロケット「エレクトロン(Electron)」。
Rocket Lab
ロケットラボは成長著しい民間航空宇宙メーカー。小型衛星の打ち上げ事業者でもある。
アメリカ航空宇宙局(NASA)が2021年に実施予定の歴史的ミッション「CAPSTONE(Cislunar Autonomous Positioning System Technology)」では、決定的な役割を果たすことになる。同ミッションの第一の目標は文字通り、シスルナ(=地球と月の間)軌道における宇宙ステーションの航行特性を調べることだ。
NASAはミッション遂行のため、ロケットラボの小型ロケット「エレクトロン(Electron)」に、小型衛星「キューブサット(CubeSat)を搭載し、シスルナ軌道に投入する。
エレクトロンは2段式の再利用可能なロケット。ただし、サイズが小さいために他の再利用ロケットよりコストがさらに安く済む。
CAPSTONEミッションの成功は、人類による50年以上ぶりの月面着陸を目指すNASA「アルテミス計画」の礎石となるに違いない。
マクサー(Maxar)
NASAの火星探査車(ローバー)「マーズ・パーサヴィアランス」。
NASA
NASAが火星探査ローバーの着陸を成功させたことを多くの人が祝福し喜んでいるが、そのローバーに、マクサー(Maxar)などさまざまな宇宙開発企業が技術面で大きな貢献を果たしていることはあまり知られていない。
米コロラド州に本拠を置くマクサーは、世界各国に散らばる多くの企業や50以上の政府と提携関係にある。
NASAが成功させた6つの火星探査ミッションで使われた「スピリット(Spirit)」「オポチュニティ(Opportunity)」「キュリオシティ(Curiosity)」といったローバーにロボットアーム技術を提供したのはマクサーだ。
最近では、火星探査ローバー「パーサヴィアランス(Perseverance)」に、試料収集・処理のためのロボットアームおよびカメラフォーカスシステムを提供している。
アストロスケール(Astroscale)
アストロスケールの「ELSA-d」宇宙船が、磁石を使ってスペースデブリ(宇宙ごみ)を引き寄せる様子を示したイラストレーション。
Astroscale
アストロスケール(Astroscale)は2013年に設立された日本のスタートアップ。同社ウェブサイトには、「将来の世代の利益のための安全で持続可能な宇宙開発」というビジョンが掲げられている。
2021年3月には、スペースデブリを捕獲(ドッキング)して除去する技術を実証する民間世界初のミッション「ELSA-d(エルサディー)」の衛星打ち上げに成功した。半年以上の実証プロセスが予定されている。
同ミッションでは、捕獲衛星(サービサー)とデブリ模擬衛星(クライアント)を結合した状態で打ち上げ、宇宙空間で2つの衛星を分離したのち、捕獲衛星に搭載された近接(ランデブー)システムと磁力機構を使ってデブリ模擬衛星を捕獲できるか実証する。
リオラボ(LeoLabs)
リオラボがニュージーランド政府のもとで建設した「キウィ・スペース・レーダー」。
LeoLabs
リオラボ(LeoLabs)は2016年創業。独自開発のレーダーを使って地球低軌道(LEO、地表からの高度2000km以下)上の物体を観測。取得したデータを活用して、衛星の運用事業者向けに衝突回避支援などのサービスを提供する。
現時点で、地球低軌道マッピングの商用サービスにおけるリーディングカンパニーの地位を占める。
リオラボの「キウィ・スペース・レーダー」紹介動画。
LeoLabs YouTube Official Channel
地球低軌道上には現在、およそ25万個のスペースデブリ(宇宙ごみ)が捕捉されないまま周回しており、この危険な状態を解消するための資金として、リオラボは最近1億ドル(約110億円)を調達した。
地球低軌道上の物体の数は今後5年間で25倍に増加すると予想され、同社はより多くのデータを収集するのが何よりの解決策につながると考えている。
スペースデブリの数が増えれば、それだけ衝突の可能性も高くなる。それにともない、衝突した際の連鎖反応も起こりやすくなる。
リオラボは、観測用レーダーの数を増やすことで、従来はレーダー網から漏れ落ちていた物体を捕捉しようと、増強計画を急ピッチで進めている。
(翻訳・編集:川村力)