電気自動車(EV)シフトの波を完全にとらえたテスラ(Tesla)。クリーンエネルギー時代の「勝ち組」の1社だ。
Feature China: Barcroft Media via Getty Images
「気候危機」がこれ以上進むのを食い止めようと、科学者や政府が温暖化抑制の必要性を訴える。その一方で、産業界でも「ゴー・グリーン(=環境に優しい)」クリーンエネルギーを導入する取り組みが進む。
スイス金融大手UBSの投資調査チームは最近発表したレポートで、世界は現在の化石燃料をベースにしたエネルギーシステムから、クリーンエネルギーを中心としたシステムに移行するにはどうしたらいいのか、それにはいったいいくらかかるのか、分析している。
同レポートによれば、そうしたエネルギーシステムの移行を実現するには、2050年までのおよそ30年間に累計120〜160兆ドル(約1京3200兆円〜1京7600兆円)という巨額の投資が必要になるという。
ゼロエミッションという目標に近づくためには、それだけの経費がかかる。すでに製造工程などの抜本的な見直しに着手している企業もあるが、規模によっては数百万ドル規模の費用がかかる可能性もある。
また、規制や政治的なハードルのために、追加的なコストが発生したり、企業の利益が損なわれる可能性もある。
レポートは次のように指摘する。
「再生可能エネルギーによる発電シェアが増えれば、発電機とそのサプライチェーンにとって追い風となる。資本財(=消費財の生産過程で使われる原料や機械などの財)・化学・エネルギーサービスといった産業分野でもエネルギー転換が進むことになる。
炭素がもたらすコストは、温室効果ガスを大量に排出する事業者にとって、現実的にも社会的にもますます重くのしかかってくる。航空・セメント・鉄鋼産業は、ふくれ上がるコストをエンドユーザーに転嫁できず、危機に瀕しているというのが我々の見方だ」
UBSの投資調査チームは、エネルギーシステムの脱炭素化の動きから利益を得られるという視点から、「最も推奨される」勝ち組産業をリストにまとめた。以下で紹介しよう。
航空(機)
vaalaa/Shutterstock.com
[最も推奨される投資先]
エアバス(Airbus)、サフラン(Safran)、タレス(Thales)、ボーイング(Boeing)、レイセオン(Raytheon)
[チャンス]
従来30年程度とされてきた旅客機の経年リプレースサイクルが20年へと前倒しに(なり機体需要が増える)。短距離・長距離路線の利用者減は中距離路線の増加で補う
[リスク]
短距離・長距離路線の利用者減
航空(輸送)
Markus Mainka/Shutterstock.com
[最も推奨される投資先]
IAG(=英ブリティッシュ・エアウェイズなどを傘下に置く)、イージージェット(Easyjet)、アラスカ航空
[チャンス]
より環境に優しい航空機移動が求める利用者に対し、プレミアムを上乗せ可能
[リスク]
コスト増加、利用者減につながる運賃の高騰、キャパシティ(航空座席数)増加
自動車
Screenshot of Volkswagen
[最も推奨される投資先]
フォルクスワーゲン(Volkswagen)、現代自動車(Hyundai)、テスラ(Tesla)
[チャンス]
全面的な電気自動車(EV)シフトを打ち出した自動車メーカーは先行者利益を得る。変革期になる産業構造のなかで規模拡大を図ることもできる
[リスク]
EV移行によりメンテナンスの必要性が6割減少するため、アフターマーケット(=修理・部品)市場の売上高が減少
資本財
testing / Shutterstock.com
[最も推奨される投資先]
アルストム(Alstom)、シュナイダー(Schneider)、ジーメンスエナジー(Siemens Energy)、ベスタス(Vestas)、イートン(Eaton)、ゼネラル・エレクトリック(GE)、日立、ナリ・テクノロジー(国電南端)、ブルックハルト・コンプレッション(Burckhardt Compression)、クアンタ・サービシーズ(Quanta Services)、ヴァルチラ(Wärtsilä)
[チャンス]
生産から販売までさまざまな企業がこの資本財産業に属し、エネルギーシフトに必要なニーズを支える形になる
[リスク]
化石燃料への依存度が大きい企業は需要減に苦しむことになる
化学
Ralf Liebhold/Shutterstock.com
[最も推奨される投資先]
エアリキード(Air Liquide)、エアー・プロダクツ・アンド・ケミカルズ(Air Products and Chemicals)、アルベマール(Albemarle)、リンデ(Linde)、ポスコ・ケミカル(Posco Chemical)、シノセラ(山東国瓷功能材料)、ワッカーケミー(Wacker Chemie)
[チャンス]
他産業にテクノロジーおよびサービスを提供する
[リスク]
感光のような既存技術の構造的衰退
鉱業
Marlon Trottmann/Shutterstock.com
[最も推奨される投資先]
グレンコア(Glencore)、ルンディン・マイニング(Lundin Mining)、ヴァーレ(Vale)
[チャンス]
他産業にテクノロジーおよびサービスを提供する
[リスク]
内燃機関や石油化学、石油精製といった既存技術の構造的衰退
天然ガス中流(処理・輸送)
Shutterstock.com
[最も推奨される投資先]
エンブリッジ(Enbridge)、キンダーモルガン(Kinder Morgan)、ウィリアムズ(Williams)
[チャンス]
既存のパイプラインや貯蔵施設を活用した再生可能天然ガス(バイオメタンガス)の輸送、既存精製所の再生可能(バイオ)ディーゼル生産への用途転換
[リスク]
パイプライン規制料金の上昇
石油・ガス
Vytautas Kielaitis/Shutterstock.com
[最も推奨される投資先]
ENI、ロイヤルダッチ・シェル(Royal Dutch Shell)、ネステ(Neste)
[チャンス]
石油やガスに代わるエネルギーの供給販売で新たな収入源が拡大
[リスク]
石油やガスのような化石資源消費から得られる収入の減少
石油サービス
Eliza Berry/Shutterstock.com
[最も推奨される投資先]
サブジー7(Subsea 7)、ジョン・ウッド・グループ(John Wood Group)、ウォーリー(Worley)
[チャンス]
クリーン発電への需要増は石油サービス産業の可能性を広げることになる
[リスク]
化石燃料への依存度が大きい企業は需要減に苦しむことになる
鉄鋼
Shutterstock.com
[最も推奨される投資先]
ノヴォリペツク・スチール(NLMK)、スチールダイナミクス(Steel Dynamics)
[チャンス]
グリーンスチールの価格上昇、風力発電タービンなどの新たなインフラ、水素など新たな製造プロセスへの需要
[リスク]
石油・ガス産業および自動車産業からの鉄鋼需要の減少、石炭を利用する高炉はそれ以上に厳しい
電力・ガス
Antonello Marangi/Shutterstock.com
[最も推奨される投資先]
エネル(Enel)、エンデサ(Endesa)
[チャンス]
エネルギーシフトを進める世界のさまざまな取り組みの恩恵を受ける。エネルギー貯蓄、水素、カーボンキャプチャ(二酸化炭素収集・貯留)などへの投資や導入を通じた貢献
[リスク]
石炭発電を利用している電力・ガス事業者は苦境に陥る
(翻訳・編集:川村力)